松本紹圭(僧侶)
ジューストー沙羅(アーティスト / Aww Inc. プロデューサー)
仏教を現代に翻訳し続けてきた僧侶・松本紹圭氏がホストを務め、さまざまな分野の若きリーダーたちと対談する「Post-religion対談」。今回は「imma(イマ)」を始め、様々なバーチャルヒューマンを手がけるプロデューサー・ジューストー沙羅さんをゲストに迎え、新たな時代の精神性や価値観を探求していきます。技術と精神性、仮想と現実という異なる領域が交差することで、これからの「人間」の輪郭が浮かび上がります。
第5話 信じる力とストーリーテリング
■信じる力が世界を創る
松本 まさにその「第一位と思い込む態度」こそが、人間らしいんですよね。AIの登場によって、このような人間中心的な考え方は変わっていくでしょう。
私は今、この新しい時代にふさわしい仏教の在り方を模索しています。仏教、いや東洋思想全体に通じる考え方かもしれませんが、「自分の見方が世界を作る」という点は、最初に沙羅が言った「信じられることこそが真実」という考えとも深く関連していると思います。世界を変えたければ自分を変えること──これはよく言われる真理ですね。
例えば、極端なお人好しは世界を善意に満ちた場所と感じ、意地悪な人は世界を敵だらけと感じる。常に「あの人は成功者、この人は失敗者」とジャッジする人は、自分が失敗すれば、全世界が自分に失敗者の烙印を押すに違いないと恐れる。これこそが「見方が世界を作る」という意味です。
しかし「世界」という概念自体、実は幻想かもしれません。マルクス・ガブリエルが『なぜ世界は存在しないのか』で論じたように、すべてを包み込む「世界」など存在せず、あくまで私たちの概念に過ぎない。
ではどこから変えるか? それはやっぱり足元からなんですよね。足元から始まるときの自分、私という存在の捉え方が、大乗仏教の「縁起」や「空」の思想です。現代風に言い換えるなら、私たちは「inter-being(相互依存的存在)」であり、「habitat(環境)」と「habit(習慣)」の相互作用で形作られている。住む場所(habitat)を変えれば習慣(habit)が変わり、習慣を変えれば環境に影響を与えることもできる。
沙羅が日本に住むと決めることも、私が毎日掃除をするのも、すべてこの循環の一部。あまり壮大な概念に振り回されず、足元の「habitat」と「habit」の関係性から実践していく──これが、仏教を現代で実践するシンプルな方法ではないかと思います。
光明寺で松本紹圭氏と掃除するimma(写真提供=imma.gramのInstagramより)