武井浩三(経営思想家、社会活動家、社会システムデザイナー)
湯川鶴章(ITジャーナリスト)


社会システムデザイナーとして活動されている武井浩三さんと、テクノロジーの第一線で次のトレンドを予測し続けてきたITジャーナリスト湯川鶴章さんが、「Web3から創る、多様でマインドフルな時代の可能性」をテーマに、近未来のお金のあり方や組織のあり方、富を分かち合う方法について語り合います。全5回記事の第2回。


第2回    ブロックチェーンで変わる世界


■ブロックチェーンには責任者がいない

湯川    ブロックチェーンが主流になると国がいらなくなるということですが、国はそれを許すのでしょうか?

武井    今までは許さなかったんですよ。地域通貨ってずいぶん前からいろいろなところで生まれていますが、国が全部つぶされてきました。お金を勝手に発行されると国が国民をコントロールできなくなるので。
    でも、ブロックチェーンは国の外側の概念なので止めようがないんです。

湯川    中央集権じゃないですし、中に誰かがいるわけじゃないですからね。責任を持ってこれを発行しますとか、責任を持って供給量を監視しますとか言う人がいない。インターネット上で計算式で勝手に動いちゃっているシステムなのでね。責任者がいたら、国や権力を持っている人が「それ、やめなさい」と言えるけれども、ブロックチェーンの場合は誰に言ったらいいのかわからない。

武井    アルゴリズムですからね。


■いずれ母屋が取られる

湯川    そうなると国というのはなくなっていくような気もしますが、国をなくしたら困る人はいますよね?

武井    少なくとも僕らが生きている間はなくならないでしょう。人間が共同体を作るのは助け合うためです。国も「その中に属している人同士で助け合いましょう」という共同体なので。

湯川    別の価値があるということですね。

武井    そうです。教育や医療などのサービスを僕らが安心して受けられるのは、国という制度があるからです。

湯川    そういう価値はあるけれども、国がお金を全部コントロールすることはないよね、ということですね。

武井    緩やかに分散していくことになると思います。

湯川    それを権力者が許すかどうかというのが、僕がすごく興味があるところです。ブロックチェーンの話をすると「いや、国が止めるでしょう」といったことをよく言われます。
    ブロックチェーンが数年前に出てきた時、その可能性をいろんな人に聞いて回りました。ブロックチェーンをやっている人たちは、もちろん「もう国はいらなくなりますよ」と積極的なことを言うのですけど、ウォール・ストリートの金融マフィアと呼ばれるような、アメリカ政府をさえもコントロールしている大手証券会社に勤める日本人の幹部の方は、「ビットコインは今のところ別にたいした影響力もないから自由にさせているけれども、もし大きな力を持ってきたらひねりつぶしますよ。法律1本作ればつぶせますから。だからある程度までは大きくなるかもしれませんけど、我々のシステムを奪うほどのところまでは絶対にいきません」と仰っていたんです。それを聞いて僕はビットコインには投資しないほうがいいと思いました。
    でも最近、アメリカの政府高官のインタビューをYouTubeで見ていたら、「ブロックチェーンを超えるセキュリティの高いシステムってないよね」というようなことを言っていたんですよ。「ブロックチェーンが金融の基幹になるのはifではない。なるかどうかではなくてwhenなんだ。いつかはわからないけど、最終的にはブロックチェーンが金融システムに使われるようになる。なぜならこれを超えるような安心、安全なものはないから」と。
    これを聞いて、国から金融というパワーが奪われるのかなと思いました。そうなったらすごいですけど、僕はまだちょっと確信には至っていなくて。
    「庇(ひさし)を貸して母屋(おもや)を取られる」という諺がありますよね。雨の日に庇を貸してあげたら、その人がどんどん中に入ってきて、母屋で生活し始めたという意味合いの諺ですけど、いま国や権力を持っている人たちは、ビットコインやWeb3の人たちに庇を貸している段階だと思うんですよ。でもその人たちが実は母屋まで入ってきて、気がつけば母屋を牛耳っているようになるかもしれないな、と思い始めたのがここ2、3カ月です。武井さんは確実に母屋が取られると思いますか?

武井    絶対です。

湯川    じゃあwhenはいつぐらいだと思いますか?

武井    だいたい2035年前後だと思いますけど、人間が生きる上で重要なのは、財とサービスをその通貨で扱えるかどうかなので、国が発行する法定通貨も並行して使われる時代がしばらくは続くと思います。現段階ではイーサリアムを持っていても、それだけで生きていくことはできませんので。


■税金が丸ごとなくなる

武井    法定通貨にしてもブロックチェーン上に乗せて発行したほうが確実にいいんですよ。お金の発行が全部デジタルになって自由になりますし、どこをお金が流れたかのトレーサビリティも確保されますから。
    しかもお金が電子化してブロックチェーン上に残っていくと、税金というものが丸ごと全部なくなります。

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武井浩三さん

湯川    え、それはどういうことでしょう?

武井    税金は社会保障の財源だと言われますけど、全部誤解です。お金という概念を最初に生み出したのは政府ですよね。国がお金を先に発行して、街中にお金が流通するわけですけど、お金の流通量が増えるとインフレしちゃうじゃないですか。だからお金を消すために税金で回収しているんです。

湯川    そうなんですか?

武井    そうなんです。税金というのはお金を消すための仕組みです。僕らの発行しているユーモには期限があります。税金と同じ役割で、つまりは循環性を持たせるために期限付きにしているんです。
    イーサリアムやビットコインも最近は取引にガス代がかかりますよね。だいたい1%とか、モノによって違いますけど、あれは税金と一緒なんです。

湯川    とはいえ税金がなかったら、福祉などもできないんじゃないですか?

武井    お金を発行すればいいだけです。お金を発行するのとお金を回収するのは別ものです。
    お金をデジタル化していけば、たとえば1年で半分にまで減ってしまう半減期通貨も簡単にデザインできます。

湯川    それでインフレもデフレも起こらないようにするということですね。


■お金は今ほど力を持たなくなる

武井    おそらく15年後ぐらいには、ブロックチェーン上に乗っかったデジタル法定通貨によるベーシックインカムが生まれると思います。それが生まれると、交換経済で生きる必要がなくなるんですよ。

湯川    それがよくわからないんですけど、物々交換に戻るというような話ですか?

武井    いや、交換をする必要がなくなるんです。たとえば、アートが好きだから応援するとか、この人と一緒にこれをやりたいとか、儲かる儲からないではなくて、好きだからできるようになります。

湯川    お金がいらなくなるわけですか。

武井    まだしばらくは必要だと思いますけど、将来的にはお金が今ほど力を持たなくなっていきます。ライスワークと言うように、今は生きるために稼がないといけませんけど、それがどんどん小さくなっていきますね。

湯川    でも稼がないと生きていけないでしょ。

武井    ベーシックインカムがありますので。

湯川    とはいえ、富を生まないといけないんじゃないですか?

武井    富ってなんですかね。

湯川    富というのは生産能力みたいなものじゃないですか。

武井    必要な分があればいいですよね。今は生産過剰なんですよ。

湯川    でも必要な分は生産しないといけないですよね。

武井    必要な分は。でもその生産も労働とか時間の切り売りというような概念ではなくて、喜びから行われていくようになるんです。

(第3回につづく)


2022年9月11日    Zen2.0 2022    鎌倉・建長寺にて
構成:中田亜希
撮影:編集部



第1回 分散型の信用の仕組み
第3回    Web3はなぜ生まれたのか?

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Zen2.0
禅とマインドフルネスの国際カンファレンス2023
開催へ向けて

    ZEN・マインドフルネスと先端科学の国際カンファレンスZem2.0。
    9月2日(土)、3日(日)に会場(北鎌倉    臨済宗建長寺)+オンラインで開催。
    テクノロジーと古来の叡智のコラボレーションから、調和的な世界を創造します。

2023年    Zen2.0のテーマ

Be like Water    加速の時代に、水のごとく在る
〜Source, Flow, Alignment〜

    世界のあちこちに顕在化している分断や対立だけでなく、地球温暖化の問題や大手テック企業での大量解雇・AI技術の加速度的な進展など、時代のスピードは加速し、変化の大波が明らかに来ています。
    そのような環境下だからこそ、私たち一人ひとりがしっかり本来の自分・大切なコアの価値観(Source)に繋がり、そして水源から湧き出る泉が川となって流れるが如く、そこからのエネルギーで自然な流れ(Flow)が創り出され、そして、私たちのコミュニティ・社会・地球の中でそれぞれのパーパスに繋がったアクションに繋がり(Alignment)、広い海へと循環・浸透していく。今年のZen2.0ではその想いを「Be like Water    〜Source, Flow, Alignment〜」という言葉に込めました。
    禅語に「一滴潤乾坤(いってきけんこんをうるおす)」という言葉があります。一滴の水が大地を潤し、樹木草花を育み、緑に輝く地球を作りあげている大いなる循環。ひとしずくの水滴が、循環の水脈につながっているという事実は、世界がどう変化しようとも、古来から今も変わりません。私たち一人ひとりが、自分の思考や感情・身体との関係を深めることで、この「ひとしずくの力」に気づき、内面から湧き出る力と世界を繋げ、変化と加速の時代を水のように、自由自在に生きていく。今年のZen2.0では、この本質への気づきを深め、共に語り合える場をつくっていきます。

開催概要

    • 日程:2023年9月2日(土)・3日(日)
    • 参加方法:会場(北鎌倉    臨済宗建長寺)+オンライン(zoom)
    • 詳細・申込:https://www.zen20.jp/

登壇者の皆様

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    藤田 一照(曹洞宗僧侶)
    横田 南嶺(臨済宗円覚寺派管長)
    ジョアン・ハリファックス(禅僧、医療人類学者(PhD))
    前野 隆司(慶應義塾大学)
    サティシュ・クマール(平和活動家、Schumacher College創始者)
    ももえ(Zen Eating 代表)
    三宅 陽一郎 (ゲームAI開発者、東京大学)
    荻野 淳也(MiLI代表)
    茂木 健一郎(脳科学者)
    伊藤 穰一(千葉工業大学)
    有本 奈緒美(ネイリスト、社会活動家、起業家、Plumeria Nail代表)
    鬼木 基行(プライムプラネットエナジー&ソリューションズ(株)
    スティーブン・マーフィー重松(スタンフォード大学)
    和 真音(一般社団法人シンギング・リン協会代表理事)
    原田 友美(イエナプランスクール大日向小学校グループリーダー)
    工藤 煉山(尺八演奏家)
    小笠原 和葉(ボディーワーカー/臨床身体学研究者)
    SHIHO(モデル)
    宮崎 姿菜子(太極拳研究家/気功整体療法士)
    藤野 正寛 (NTT コミュニケーション科学基礎研究所)
    鎌田 東二(京都大学名誉教授)
    水野 みち(株式会社日本マンパワー)
    二木 あい(フリーダイバー・水族表現家)
    oba(ダンサー・モデル・庭師)
    (順不同・敬称略)

プログラムのご紹介

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プログラムの詳細は    https://www.zen20.jp/    を御覧ください。
    ※プログラムは変更になる可能性があります。

チケット情報

    チケットは、Zen2.0公式ホームページにて販売開始しております。お得な「早割」は8月19日までの販売期間となりますので、お見逃しなく!

<リアル参加チケット>
    通常:28,000円
    早割:23,000円(8月19日まで)
    学割:9,000円

<オンライン参加チケット>
    通常:12,000円
    早割:8,800円(8月19日まで)
    学割:4,400円

※いずれも2日間通しでの販売となります。
※チケット購入者は、後日動画でのアーカイブ配信をご覧いただけます。

    チケット購入はこちら→  https://www.zen20.jp/?utm_source=other&utm_medium=referral&utm_campaign=nl2

主催:一般社団法人Zen2.0について

    Zen2.0は、先端テクノロジーと禅の精神性の融合を目指し、2017年以来、北鎌倉・建長寺を舞台に毎年開催されている国際カンファレンスです。今年で7回目の開催となります。登壇者は、ヨーロッパ・北米・アジアなど世界各国から参加し、日本語と英語の同時通訳で参加できます。これまで、のべ登壇者数165名・のべ協賛企業70社・のべ参加者数3,000名・コミュニティ4,200の規模に拡大しています。
    ぜひ、Zen2.0のカンファレンスとコミュニティにご参加ください。

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