アルボムッレ・スマナサーラ
【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日のテーマは「日本社会に蔓延する「無気力」という病」です。

[Q]

    高校生の子供がいます。何に対してもやる気が起きないようで、生きているのも面倒臭いといった感じです。よく寝ています。最近はこのように無気力な人が多いように思います。このような問題・悩みをどのように捉えて接していけば良いのかアドバイスをください。

[A]

■無気力という危険な日本社会の歪み

    この問題は、日本全体的な問題です。社会が全体的に停滞しているように思います。子供だけではなく、大人たちにもやる気が無い・無気力というウィルスが蔓延しているようです。例えばあるスポーツチームに入った子供たちのように、「頑張るぞ!」「練習しなくちゃ」というやる気が湧いてこないのです。その子供たちは、目的に向かって苦労し頑張るのです。とても元気です。しかし、今の日本は全体的に停滞状態にあって、これはあまりにも長過ぎです。停滞状態になったとしても二〜三年で脱しないといけません。もう十〜十五年もこのような状態です。経済的にも「失われた三十年」と言われているそうです。

■生き残るには能力を発揮し続けること

    その間に韓国は日本よりも経済成長をし、中国は世界一になりました。ヨーロッパはそれなりに安定し、今は停滞状態にならないようものすごく気をつけています。アメリカは「オレ様こそ強い」という我がままな態度で壊れかけています。日本には新しい品物・技術を開発する能力がありましたが、その能力を活かしていたなら、世界がどう変わったとしても、ちゃんと合わせて自分たちの能力を発揮できたはすです。
    やる気が無い・無気力という精神的な問題は、大きな社会問題です。思春期の場合、何もやりたくないという気持ちはそれほど大したことはありません。外では元気いっぱい遊んで、家に帰ったら寝ているだけかもしれませんからそれは問題ではありません。

■社会問題として捉えるべきこと

    例えば今の若者が進路を決めるというと、私も本当に心配してしまいます。どんな進路を決めても、若者には「あらかじめ決められたパターンに合わせてロボットのように頑張らなくてはいけない」と見えてしまうのです。今の社会では、新しいものに挑戦して進むというチャレンジ精神が薄くなっているような気がします。「決められたルートを進みなさい」というメッセージが強いから、これから人生を築こうとする子供たちのチャレンジ精神が消えているのです。彼らは社会の被害者でもあります。
    はい、こんな分析では若者たちの役には立ちません。問題は、日本社会全体として直さなくてはいけないことです。一人の子供を直したところで、問題が解決するわけではありません。やる気が起きないという若者は、次から次へと出てきて限りが無いのですから。

■恐ろしく暗い将来

    困ることは、仕事に就いてもすぐ辞めて、実家に戻って親に食べさせてもらうことです。そうすると立ち直れなくなってしまいます。経済も停滞状態ですから、次の世代の人たちが何もやらなければ、どんな状態の世界が待っていると思いますか?    今、社会には、年寄りと何もしない若者しかいない。何もできない年寄りと何もしない若者で、日本は後、何年保つでしょうか?    

■リーダーには生命に優しいビジョンが必須

    松下幸之助さんという名物経営者は哲学者でもありました。ただ金儲けのために品物を作って売った人ではありません。その方には、哲学・人生論がきちんとあり、それを元に動いていたのです。皆も共感し、やがて大きな組織になりました。その方が亡くなると、組織も停滞状態になっていきました。ですから、政治家や実業家など、事業をやる人は、地球全体のことを考えた、人類のための未来像・ビジョンを持つことが必要です。未だに過激派のビジョンである社会主義や共産主義、あるいは資本主義や新自由主義というビジョンで世界は動いています。これは何でしょうか?    どれもみな破壊主義です。必要なのは生命に優しいビジョンなのです。そういうビジョンを持った人たちがリーダーにならないと人類が困ることになります。

■無気力から脱却するための言葉

    では、私が具体的な答えを出します。質問者のあなたは子供に「ふざけている場合じゃないよ。日々、歳を取って老いていくんだ」「若い時期というのは数年で終わる。それから臭い中年になってしまう」「やることは、今やらないと間に合わないよ」「全ては儚い、世界はものすごい勢いで変わっていくのだから」「寝ている間も歳を取って、どんどん老人になってしまうよ」というように、物事は激しく流れていくのだから、ただ流されて消耗するのではなく、流れに逆らうように必死に泳いで生き残らなくてはいけない、と教えてあげてください。

■無常という流れに合わせ進化し続けることが生き残る道

    人間は今、進化しなくてはいけませんが、なかなかハードルが高く全力が出せないのです。そうすると無気力になります。私たち人間も、その流れから抜けることはできません。世界は毎日変わっていて、それに合わせて私たちも日々進化しなくてはいけないのです。だからといって、皆が進化できるわけではありません。進化できなくて止まる・滅びるものもあります。進化に乗り遅れると絶滅するのは、動物たちだけではありません。人間が作った社会システムも、進化しないと絶滅します。古代文明という言葉は知っているでしょう。絶滅した文明です。人も社会も日々、進化する方向へ進まなくてはいけないのです。倒産する会社、閉鎖する工場、廃業する事業などの話は珍しくないでしょう。いろいろと日常的にも進化できなかったという例はたくさんあります。そういう場面を毎日見ているはずです。ということで、もっと明るく・元気にふざけてみてください。面白いと感じないとアイデアは生まれません。それが進化するために必要なことなのです。



■出典    『それならブッダにきいてみよう: ライフハック編2』
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