松本紹圭(僧侶)
ジューストー沙羅(アーティスト / Aww Inc. プロデューサー)


仏教を現代に翻訳し続けてきた僧侶・松本紹圭氏がホストを務め、さまざまな分野の若きリーダーたちと対談する「Post-religion対談」。今回は「imma(イマ)」を始め、様々なバーチャルヒューマンを手がけるプロデューサー・ジューストー沙羅さんをゲストに迎え、新たな時代の精神性や価値観を探求していきます。技術と精神性、仮想と現実という異なる領域が交差することで、これからの「人間」の輪郭が浮かび上がります。


第3話    共生とストーリーテリング


■「勝ち負け」から「共生」へ

松本    「上か下か」という発想自体がおかしいですよね。人間中心主義や人間優位主義(human superiority)という、どちらが優位かという二元論的思考から脱却する必要がある。私たちは文明の転換点に立っており、この古いパラダイムを捨て去る時が来ていると思いますね。

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(撮影=横関一浩)
    哲学者マルクス・ガブリエルの指摘を借りれば、AIに対する人間の態度は三つに分類できます。まずアメリカ的態度。『ターミネーター』的な支配関係で、「勝つか負けるか」という戦争メタファーに陥りがちな姿勢ですね。次に欧州的態度。こちらはもう少し穏やかで、「便利な道具ではあるが、あくまで人間が制御すべきもの」という立場から規制を重視する。そして第三が日本的な態度、つまり『ドラえもん』モデルです。のび太とドラえもんは支配関係で結ばれておらず、単なる「便利な道具」という扱いでもない。百パーセントの人格が認められた完全な共存関係──そもそも「対等か否か」という発想自体が存在していない。
    これまでこのような日本的態度は、単なる文化的な個性として扱われてきましたが、今、世界はこの日本的発想を受け入れなければならない段階に来ているのではないでしょうか。もはや日本を「辺境の変わった国」として済ませてはいけなくて、重要なのは、勝敗に執着する文化圏に、このパラダイムをどう輸出していくかを考えていくことだと思います。

沙羅    確かにそうですけど、考え方の転換には時間がかかると思います。西洋的な「この本を読めばすべて解決!」という発想とは根本的に異なりますので。私自身、帰国して十一年経ってようやく学び始めたところです。
    日本的な「バランス」や「持続可能性」は、海外で言われるような表面的なサステナビリティとは次元が違います。コミュニティとどう共生していくかという、もっと深いレベルでの持続可能性なんです。ドラえもんの世界観にも、アニミズムにも、そしてラーメン屋のおじさんの生き方──フランチャイズ化せず、一つの場所でひたすら良いものを作り続ける姿勢にも、深いレベルでのサステナビリティを感じる。私が日本に留まり続ける理由は、ここに今の時代に対する答えがあると確信しているから。

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(撮影=横関一浩)