【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】
皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日は「うつ病が増えているのはなぜ?」という質問にスマナサーラ長老が答えます。
[Q]
最近、日本ではうつ病の人が増えていると言われています。長老はどう思われますか?事実だとすれば、なぜうつ病が増えるのでしょうか? うつ病で悩む人々に対して、自分に何ができるでしょうか?
[A]
■うつ病にならないのが不思議な現代社会
客観的なデータを取ってないので断言できませんが、私もうつ病は増えていると思います。昔の社会では「今日、私は何をすべきか」がはっきりしていました。ですから毎日忙しく過ごしましたし、それが楽しかったのです。どうすればよいのかと悩む余裕はなかったのです。しかし現代社会は知識社会・情報社会です。人間に必要なものですが、複雑になりすぎてどう使えばいいかわからなくなっているのです。
会社も社会も、煩雑な規則に縛られて身動きが取れなくなっています。現代人は会社に勤めていても「今日、何をすればいいか」がよくわかりません。学校に通っている子供たちも、何を勉強すればよいのかわかりません。家を守っているお母さんたちも、何をすればよいのかわからなくて困っているのです。情報が氾濫している社会に生きているので、選びきれないほど無数の選択肢が人の前に立ちふさがっているのです。「どうすればよいのか」という選択に悩んでいるうち、疲れ果てて、うつになるのではないかと思います。それに対して、現代社会であっても、農家の人はうつ病になりにくいと思います。植物は待ってくれませんから、次から次へとするべき作業が出てきて悩んでいる暇はありません。
日本の社会は無数のルールや規則などで管理されています。良かれと思って次から次へとルールを作りますが、ありすぎて身動きができなくなっているのです。日本社会にあふれるルールや規則の煩雑さに、私はこのようなネタを作ったのです。「学校の教師は教えてはならない。医師なら治療してはならない」と。法律と規則を真剣に守ろうとすると、このような結果になるのです。医者にしても、患者を治したいという気持ちは明確にありますが、決まりを守らなくてはいけないため、治療を施すことができなくなるのです。みな、このような条件の中で生きているので、うつにならなかったらそれが不思議だと言いたいところです。
■二つの処方箋
うつ状態の人を助けるために必要なのは、①「今日、私は何をするべきか」とはっきりすることです。今日の仕事をやりたくない、別の仕事をしたい、今は少々遊んで仕事は明日に延ばしたい、などの曖昧な生き方を止めることです。時間というものは止まってくれませんので、今やるべきことは今やる、という生き方が必要です。そのように決めた人には悩んでいる暇がないと思います。それから、今日やるべきことは今日のうちやり終えたと、自分自身を褒めてあげるのです。「今日はよくできました」と自分に合格点をあげるのです。それで明るく生きられると思います。次に、②とにかくよく笑うこと、他人をよく笑わせることです。たとえ根っから暗い人であっても、無理にでも笑ってみると人生は明るくなります。性格が変わります。人は何があっても心の明るさを失ってはいけません。明るさは心を活発に動かす栄養剤なのです。心の明るさを失う時、心は怒りに支配されているのです。怒りは自己破壊の始まりです。ですから、怒りが入らないように「何があっても、笑っちゃおう」という言葉をモットーにしましょう。
■出典 『それならブッダにきいてみよう:こころ編2』