アルボムッレ・スマナサーラ(初期仏教長老)
釈徹宗(僧侶、相愛大学学長)


お釈迦様は「一人ひとりが心を清らかにして、明るく生きていきましょう」と提案します。しかし、現代はストレスフルな状況が当たり前のような世の中ですから、普段は穏やかな人でも心配事でいっぱいになると、小さなことでも気になって、怒ったり、妬んだりしてしまいます。でも、そんなときこそ「笑い」や「ユーモア」がとても役に立ってくるのです。ここには仏教の智慧を活かした行動変容があります。
2023年4月に開催した『サンガジャパンプラス Vol.2』刊行記念オンラインセミナーでは、スマナサーラ長老より、お釈迦様のユーモアや笑いとはどのようなものかについてお話をいただきました。さらにスペシャルゲストとして釈徹宗先生をお迎えし、スマナサーラ長老に質問を投げかけていただきました。終始和やかな雰囲気でお進行したお二人の対談は、切実な悩みを持つ私たちが幸せな人生を送るためのヒントが満載です。「ユーモアの力」を再発見する対談をお届けします。


第1回    アルボムッレ・スマナサーラ「笑うと心はオープンになる」


■友達の梵天に勧められて伝道活動をスタート

スマナサーラ    長い間修行をして悟りを開いた時、お釈迦様はこう思いました。「これは大変なことになった。私が発見した真理は人間や神々の理解能力を超えている。人間は眼耳鼻舌身意の六根から得る情報を捏造して知識にしている。しかし私が発見した真理の世界は、六根から得る情報を超えた世界だ。これは人間には理解できない世界だ」。それでお釈迦様は、「わざわざ苦労して説法しても、聞いている人々は何も理解できなくて困るだけだろう。説法をするのはやめよう」と、伝道活動をしないことに決めたのです。
    しかしその時、お釈迦様の友達である梵天という神が言いました。「何をおっしゃるのですか、お釈迦様。ここまで頑張って覚ったのですから、なんとか説法してください。そうじゃないと人々が困りますよ」。それでお釈迦様は「まあ、友達がそこまで言うならば、頑張ってみるか」という感じで、説法を始めることになったのです。
    伝道活動を始めたお釈迦様が、最初からすべての説法に成功したかといったら、そうではありません。経典を読むと、お釈迦様がじわじわと徐々に説法が上手になっていく過程を見ることができます。

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アルボムッレ・スマナサーラ長老
■笑いは簡単ではない

    経典には、お釈迦様が人々とすごく気楽に、冗談で返すようなやりとりがたくさん出てきます。お釈迦様は出家の人々に喋る場合は、真剣まじめに真理のみを語りましたけれども、在家の人々に語る場合はいろいろな工夫をしていました。冗談で返すようなこともありました。
「笑い」というのは、カラオケで歌を歌うようにみんなが簡単にできることではありません。日本において「笑い」というのは一つの芸、一つのアートですね。伝統もあって、皆さんかなり修行をして、お笑い芸人になっているようです。
    日本に来て私は感じました。「日本で一番頭のいい賢い方々はお笑い芸人ではないか」と。今も、お笑い芸人の方々は他の方々よりもすごく賢いなあ、と思います。やっていることはいい加減で、ふざけてばかりですけど、その裏には実はかなりの能力や知識があるなあと。

■相手が傷つくのは笑いではない

    相手が傷ついてしまう場合は、笑いではありません。たとえば学校で子供たち同士が笑いを取ろうとすると、誰かが傷ついてしまいますね。そういう下手な笑いは、笑いじゃないんです。それは非難、侮辱です。
    お笑い芸人が私たちのことを取り上げてバカにしても、人権侵害は起きません。「まあ、言われてみればそうだなあ」という感じで、話を聞いていることができます。
    笑いを作ろうとする場合は、人々を平等に慈しむ必要があります。「笑ってくれてありがとう」という気持ちにならなくてはいけないのです。

■笑うと心がオープンになる

    笑いは仏教から見れば、すごくいい方便です。すべての生命にことごとく慈しみを持って、人権を侵害しないで、人の生き方から何か笑いを作る。そうすると、笑い話を聞いて笑っている人が何か勉強になります。
    人間の脳というのは、怒鳴られると、「ああ、聞きたくない」と自動的に心を閉じます。しかし、笑うとオープンになります。相手が言っていることが面白くなってくると、人は知らないうちに心を開いて、もっと聞きたくなるのです。
    いかに人に心を開いてもらうか、オープン・マインドになってもらうか。その方法としてユーモアはとても大切です。

■スリランカ人をじっとさせるお坊さんのユーモア

    経典の中にはたくさんのユーモアがあります。私はその真似をして大失敗をしたことがあります。まあ、私は笑いの芸を学んだことはないのですから、笑いを取るために何か言って誰かを非難したり侮辱したりすることになるのは当然です。
    私はときどきスリランカのお坊さんたちの説法をネットで聞いています。スリランカ人というのは、すぐにイライラして大騒ぎする国民性で、普通は30分も人の話を聞いていられません。しかしお坊さんの説法だと1時間以上もじっと聞いていられるのです。それはやはり説法に最初から最後までユーモアが入っているからでしょう。聞いていると、お坊さんたちがけっこうみんな笑いを取っているのです。別にゲラゲラ笑うような物語があるわけではありません。ユーモラスな口調で、ずっと喋っているんですね。
    笑うと心がオープンになって、人が言うことを聞いてくれます。だからもし人を育てたり躾したいと思うのであれば、怒るよりは笑ったほうがいいですね。何を言う場合でも、ちょっと笑って言っちゃえば、人は理解します。たとえば人が大失敗すると、一般的には怒鳴っちゃいますね。「なんでこんなことするの!」と。でもその失敗を一つのネタにして、ちょっと笑いのストーリーを組み立てちゃえば、本人は話をよく聞いてくれますよ。

(第2回につづく)


2023年4月18日    zoomにて開催
『サンガジャパンプラス Vol.2』刊行記念オンラインセミナー
構成:中田亜希



第2回    アルボムッレ・スマナサーラ「ユーモアは優れた教育手段」


◎ご案内

スマナサーラ長老の著書『ブッダのユーモア活性術』電子書籍で刊行!アルボムッレ・スマナサーラ長老が、お釈迦様が説いた「笑い」や「ユーモア」について語り尽くした著書『ブッダのユーモア活性術』が、2023年6月30日にサンガ新社より電子書籍で刊行しました!

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◎電子書籍販売ページ



「笑い」はこころの浄化法。

人生は本当は気楽に、楽しく生きるもの。
こころの贅沢を知ると、微笑みだけが残ります。


悩みや苦しみや怒りにとらわれていると、人は笑顔を失います。怒りをぶつけられたとき、怒りで返してしまうと、こころは汚れてしまいます。いつでもこころを明るく、清らかに過ごすにはどうしたらよいのでしょうか?    こころを汚さず、笑顔を失わずに生きるには、どうしたらよいのでしょうか?    この世のすべては無常であること、執着のできないことがわかるとこころは微笑みでいっぱいになります。お釈迦さまはユーモアたっぷりに世界の見方をお説きになりました。こころを育てる笑いの方法、ユーモア術をお釈迦さまの言葉とともにご紹介します。

【本書の構成】

I    気楽さと微笑みのすすめ

◆序章    笑いはこころをきれいにする
◆第1章    こころを育てるユーモア術
◆第2章    無常を知って、気楽な、笑顔の人になる

II    経典にあるユーモアエピソード

◆第3章    ぶつけられた怒りの扱い方
◆第4章    朗らかに人を導く
◆第5章    伝える相手に合わせて説く
◆第6章    智慧が現れる屁理屈の壊し方
◆第7章    ユーモアは病も治す
◆第8章    引き合うこころ
◆第9章    深刻な悩みの解消法
◆第10章    至福の仏教