アルボムッレ・スマナサーラ(テーラワーダ仏教(上座仏教)長老)


2023年5月に、アルボムッレ・スマナサーラ長老の著書『ダンマパダ法話全集    第八巻』が刊行されました。

『ダンマパダ(法句経)』は、お釈迦様が真理の教えを423の短い偈(詩)で説かれた初期仏教経典です。そして『ダンマパダ法話全集』は、全26章・423偈の『ダンマパダ(法句経)』をスマナサーラ長老が全十巻シリーズで解説していくシリーズです。どの巻からでも読むことのできる短い法話集として身近に置いていただけます。

全十巻は最終巻から遡るかたちで刊行しており、第十巻と第九巻は株式会社サンガから刊行されました。2021年1月に株式会社サンガが事業停止し、以降の刊行が止まっていましたが、新会社・株式会社サンガ新社が同シリーズの刊行を引き継ぎ、クラウドファンディングで事前予約をいただきながら『ダンマパダ法話全集    第八巻』を刊行することができました。

本書の刊行を記念し、2023年6月に『ダンマパダ法話全集    第八巻』刊行記念セミナーがオンラインにて開催されました。第八章に収録されている「種々なるものの章」「地獄の章」「象の章」の意味、「ダンマパダの偈はどれも二重の意味を持っていることなどが、和やかな雰囲気の中、スマナサーラ長老によって語られました。お釈迦様の智慧を理解し、実践するために、私たちはダンマパダとどのように向き合えばよいのでしょうか。スマナサーラ長老のご法話をここにお届けします。


第1回    日本語で初めて、世界でも初めての解説書


■法施によって誕生した『ダンマパダ法話全集    第八巻』

    皆様、今日はよろしくお願いします。現代において、紙の本の出版は実現がたいへん難しくなっております。そんな中、たくさんの方々が本書のお布施(クラウドファンディング)に参加されたのは、素晴らしいことです。
    皆様はお布施の中で一番徳の高い法施(ほうせ)、「真理を施す」という功徳行に参加なさいました。
    皆様に心から感謝いたします。そしてこれからもよろしくお願いします。

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アルボムッレ・スマナサーラ長老

■章と偈の関係

    さて、皆様ご存知の通り、ダンマパダはいくつかの章によって構成されています。
『ダンマパダ法話全集    第八巻』に収録されているのは「第二十一    種々なるものの章」、「第二十二    地獄の章」、「第二十三    象の章」の3つですね。
    「地獄の章」というのはnirayaという言葉が入っているブッダの偈をまとめたものです。「地獄の章」と言っても、「地獄とは何なのか」「地獄はあるのかないのか」といった哲学的な分析や議論は一切入っていません。
    同様に、「第二十三    象の章」はnāgaという言葉が入っているブッダの偈をまとめたものです。
    では「第二十一    種々なる章(Pakiṇṇakavagga)」とは何でしょうかね。サンガ新社の佐藤由樹さんが「『種々なる章』というのはいったい何なのか疑問です」と言われました。確かにそうですよ。「種々なる章」というのはなんか変です(笑)。Pakiṇṇaというのは、いろいろ入っていますよ、ということなんです。「地獄の章」や「象の章」のように1つの単語ではまとめられないんですね。つまり、どのテーマにも入らない「その他」の章、という意味になります。


■経典と注釈書

    ブッダの言葉は結集という編集会議でまとめられました。ブッダがいろいろなところで、いろいろな人に対していろいろなテーマで語った言葉を、出家のお坊さんたちが結集で、テーマごとに丁寧にまとめたのです。
    お釈迦様のお世話をしていた阿羅漢のアーナンダ尊者は、ブッダの言葉を全部覚えていましたが、それ以降は、アーナンダ尊者のようにすべて丸暗記できる方はいませんでした。丸暗記しようと努力するお坊さんたちは今もミャンマーなどにいますけどね。
    現代において、丸暗記することにどれほど意味があるかはわかりませんが、昔は次世代にお釈迦様の教えを伝えるために、暗記は必要不可欠でした。それで暗記することは大変ありがたいことだとされていました。
    人間誰しも暗記する能力があります。しかしその量は人によって様々です。そこで、昔のお坊さんたちは、お釈迦様の言葉を安心して暗記できる量に分割して経典を作り、それぞれに責任者を置くことにしました。それでできたのが学派です。
    たとえば、長部経典だけ暗記する学派をDighabhānakaと言います。中部経典の専門家もいれば、相応部経典の専門家もいる。増支部の専門家もいて、それからアビダルマの専門家もいました。
    このように学派はありつつも、全員が暗記した方が良いとされていた経典もありました。Khuddaka Nikāya(小部)に入っているダンマパダはその一つです。かの有名な「犀の経典」もKhuddaka Nikāyaのスッタニパータに収録されています。


■ポイントを解説する

    経典というのはお釈迦様の語った教えをそのままの形で残したものだとも言われますが、私は、長い説法の中で、その説法のポイント、テーマを抜き出したものが経典という形になったのではないかと思っています。
    ですから、お坊さんたちにはそのポイント、テーマの意味を詳しく説明する必要が生じるのです。
    そこで、昔のお坊さんたちは偈の内容を詳しく解説するAṭṭhakathā(注釈書)というものを書きました。
    私が書いた『ダンマパダ法話全集    第八巻』もお釈迦様の偈を詳しく説明したものです。3つの章に入っている偈の一つ一つを取り上げて、それをどう理解すればよいのか、その中でお釈迦様が何を語ろうとしたのかを、私なりに詳しく解説してみました。
    結構ややこしい説明になってしまったので、皆様にはちょっと読みづらいと思います。だからいっぺんに全部読むのではなく、一つの偈の説明を丁寧に読んで、疲れたなあと思ったら、ちょっと休んで、それからまたもう一つの偈を読んでみる、というようなやり方でじっくり取り組んでいただくのがよろしいかと思います。


■なぜ現代において再び注釈書が必要なのか

    昔のお坊さんたちが書いた注釈書があるのに、なぜ私が新たに解説書を書いたのかと、皆様は疑問に思われるかもしれません。ダンマパーラ長老という昔のお坊さんが書いたダンマパダの注釈書には日本語版もありますから、読もうと思えば皆様も読むことができます。ダンマパーラ長老の注釈書は、それぞれの偈が長い物語で説明されていて読みやすいので、読んでもよろしいかと思います。
    ただ、私は個人的に、注釈書の物語は、注釈書を書かれた方々が勝手に入れたものではないかと思っているんです。物語と偈の意味が合わない場合が結構ありますし、それに、大事な内容の偈の物語は短いのに、シンプルな偈に数ページに渡る長い長い物語が付いている場合もあるからです。
    どうも注釈書を書かれた方々には、ブッダの言葉の深い意味を取り出すという意図はそれほどなかったのではないかと思います。
    だから今までの注釈書の内容はちょっとどうかなぁと、個人的に思っていたこともあって、私は日本の皆様に、ダンマパダの偈の一つ一つに、どれくらいブッダの教えが入っているのかをきちんと説明したいと思って新たな解説書を書くことにしました。


■世界で初めての解説書

    世の中で、ダンマパダの本当の解説書を書いた人は誰一人としていません。ダンマパダの本はいくらでも世の中にありますし、英語でも結構たくさん出ていますが、どれもワンパターンです。ごく簡単に偈の意味を翻訳してそれで終わり。
    個人的な感想でいうならば、ダンマパダについて本を書いている先生方は、言語の能力はあるから翻訳はできるけれども、偈の意味は理解していないのではないかと思います。だからどの本にもブッダが本当に人類に語りたかったことが書かれていないのです。
    私の書いた『ダンマパダ法話全集』のシリーズで、皆様は初めて、ブッダが4行の偈からどこまでの内容を語ったのかを理解することができると思います。このスタイルのダンマパダの解説は日本語では初めてだと思いますよ。おそらく、世界でも初めてだと思います。ジェームズ・アレンさんの小さな本【*】以外はね。


★脚注
*    James Allen『AS A MAN THINKETH』(邦題:『原因と結果の法則』)


(第2回につづく)


2023年6月14日    zoomにて開催
『ダンマパダ法話全集    第八巻』刊行記念オンラインセミナー
「スマナサーラ長老と『ダンマパダ法話全集    第八巻』を読む」
構成:中田亜希


第2回    「種々なるものの章」を読む

お知らせ①
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『ダンマパダ法話全集    第八巻』アルボムッレ・スマナサーラ[著]電子書籍新刊&紙書籍のご紹介

2023年5月に紙書籍で刊行した『ダンマパダ法話全集    第八巻』ですが、2023年9月に電子書籍でも刊行しました。

電子書籍は「Amazon kindle」「楽天kobo」「honto」「DMMブックス」「Apple Books」などの電子書籍書店で販売しています。各電子書籍書店の購入ページへのリンクもご案内しますので、ぜひご覧になってみてください。

紙書籍は「サンガオンラインストア」と「Amazon」で販売しています。こちらのリンクもあらためてご紹介します。

『ダンマパダ法話全集    第八巻:第二十一 種々なるものの章/第二十二 地獄の章/第二十三 象の章』アルボムッレ・スマナサーラ[著]
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◎電子書籍販売ページ







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スマナサーラ長老の『ダンマパダ法話全集』、最終章から遡って配本!

第八巻は、「第二十一 種々なるものの章」の16偈、「第二十二 地獄の章」の14偈、「第二十三 象の章」の14偈を解説します。

一つ一つの偈ごとに完結した法話になっていますので、どの巻からでも、どの偈からでも読める法話集としてお読みいただけます。

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世俗的言説で薄めることなく、ストレートに語られる仏法に、
読者は多くの気づきを誘発されるに違いありません。
本書のクリアな語りによって、仏教の底知れぬ魅力と向き合ってください。
まさに仏教は人類の到達点の一つでしょう。
─序文 釈 徹宗
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【本書の内容】
第二十一    種々なるものの章
第二十二    地獄の章
第二十三    象の章
特別掲載    スマナサーラ長老から、東日本大震災直後のメッセージ


お知らせ②
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2023年9月30日〜11月5日    最新クラウドファンディング実施中!

スマナサーラ長老『無常の見方』『苦の見方』『無我の見方』を紙書籍で刊行します!