アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日は「この世界はなぜ存在するのですか?」という質問に長老が答えます。

[Q]

    この世界は、なぜ存在するのですか?    宇宙や地球、生命や人間など、生きることはある側面で残酷なことであると仏教では言っていますが、地球も別に存在しなくてもいい、人間も別にいなくても問題ないと思うのですが、なぜ宇宙があって生命がいて、生きるという残酷な行為をしないといけないのでしょうか?

[A]

■存在を知るための二つの流れ

    それには法則が二つあります。仏教では物質もエネルギー(働き)だと言うのです。エネルギーというのは止まらない。様々な形・形態になって変わり続けていくのです。なぜという理由はなく、因果法則によって変わっていくだけなのです。例えば太陽はエネルギーの塊で、ずっと燃え続けています。そして地球にも太陽エネルギーの影響があります。太陽エネルギーの影響で地球も変化し続けています。そのことに「なぜ?」と理由を探してみても意味がありません。ただ物質が因果法則によって変化しているだけなのです。神の意思や誰かの意図があるわけではありません。あなたが言われるように、別に太陽や地球がなかろうと痛くも痒くもありません。しかし、因果法則によってエネルギーは流れていて、流れ・変化にはいろいろな過程や段階があります。これはどうにもなりません。

■途轍もない心のエネルギー

    もうひとつの法則というのは、心というエネルギー(働き)です。これも因果法則によって、回転していく、変化し続けるものなのです。やはり終わりがありません。経典にはやがて宇宙は壊れ、物質が消え、空(無)の状態になると説かれています。その空という状態になったとしても、途轍もないエネルギーなのです。そのエネルギーの状態も変化していくだけです。
    また気が狂うほどの時間が経つと、宇宙というような物質世界が現れてくるのだと説かれています。今もこの宇宙や地球は変化しています。科学者が正しければ今、宇宙は膨張していると言われています。地球も膨張しているのです。感じないだけで、この身体も膨張しているのです。膨張していくことで、物質の力が弱くなっていくのだそうです。膨張し切ると消えてしまう。しかし、エネルギーは消えません。違う形・形態になるだけです。そのようにして変化を繰り返すのです。

■変化に意味はなく、ただ法則があるだけ

    生命というのは、心(認識の働き)が物体(物質)に依存してしまった現象です。心が一つの細胞に入ったのです。そして心と細胞の共同作業で変化し、大きくなっていくのです。しかし、細胞という物質は変化して壊れてしまいます。そうすると心というエネルギーは別な物質に依存するようになります。同じように依存した物質に合わせ変化し、共同作業で別な身体を作っていくのです。この変化も本来は無意味です。ただ変化が起こっているだけです。

《物体がエネルギーを持っているわけではなく、エネルギーというものが現象としてあるということでしょうか?》

■はじまりを知りたがる心の癖

    素直に、「はい、そうです」と答えられない状態です。なぜならば、まずエネルギーがあって物質に変換した、という二段階の設定になるからです。それは前の質問でも説明した、始原を探す無知な行為になります。エネルギーが現象になります。現象があるとは、エネルギーが働いていることです。現象が無ければ、エネルギーに自分の存在を示すことはできません。お好みであるならば、エネルギーから現象が生まれる、と理解しても構いません。エネルギーと現象は分かれることができないので、順番を付けられないと理解しても構いません。現象に変換しないと、エネルギーに自分の力を出すことはできません。

《エネルギーというのは、目に見えるものなのでしょうか?》

■認識範囲は狭い

    目に見えるのは、ほんのわずかな一部だけです。光にしてもX線や紫外線や赤外線、マイクロ波など様々な光があります。目に見える(可視光線)のはほんの少しです。音もエネルギーです。しかし、音は存在しません。物質から出るエネルギーが空気を振動させるだけです。それを耳が音として認識するのです。空気の振動というのもかなり幅広いのです。しかし、耳ですべては聞こえません。音といえるエネルギーはたくさんあるのですが、私たちはその一部だけを聞いているだけ。ですから「私は見た・聞いた」といっても大したことはありません。

《エネルギーだけであるのなら、物体(実体)は存在しないのでしょうか?》

■物質もやはり一時的なエネルギーの集合体

    論理的にはその通りです。物体は存在しません。理解しやすいように〝一時的にでも存在する〟と言っても構いません。ただ実際は川という現象と同じく、物質・物体も流れていくものです。物体というのは存在せず、エネルギーの組み合わせによって人間が物体と認識するように成り立っているものなのです。例えばダークマター(暗黒物質)という物質があります。ダークマターは人間の眼では認識不可能です。すごい大きなエネルギーです。今の宇宙が成り立っているのもダークマターがあるからです。しかし、眼で見て理解することは不可能です。エネルギーだからといって何でも知り得るものではありません。


■出典     『それならブッダにきいてみよう:こころ編3』

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