武井浩三(経営思想家、社会活動家、社会システムデザイナー)
湯川鶴章(ITジャーナリスト)


社会システムデザイナーとして活動されている武井浩三さんと、テクノロジーの第一線で次のトレンドを予測し続けてきたITジャーナリスト湯川鶴章さんが、「Web3から創る、多様でマインドフルな時代の可能性」をテーマに、近未来のお金のあり方や組織のあり方、富を分かち合う方法について語り合います。全5回記事の第3回。


第3回    Web3はなぜ生まれたのか?


■Web1.0、Web2.0からWeb3へ

湯川    ここで少し、Web3について僕のほうから説明をしたいと思います。
    Web3のWebというのはインターネットのことです。Web3と言うからにはWeb1.0、Web2.0があります。まずWeb1.0というのは情報が一方通行の時代の話です。マスメディアもそうです。我々は情報を受け取るだけ。それがWeb2.0になって情報が双方向になりました。SNSやソーシャルメディアと言われるTwitterやYouTubeなどを利用して、我々自身もコンテンツを上げることができるようになりました。一方通行から双方向になって新しい時代に入ったと言われたのが10年ぐらい前の話です。
    Web2.0ではネット大手のGoogleやAmazonが甚だしく儲けました。日本にいるとあまり感じませんが、サンフランシスコの街中には10年前に比べてホームレスの数が大幅に増えています。その一方でお金持ちもものすごく増えて、サンフランシスコで外食するとラーメン一杯が3,000〜4,000円、回転寿司のイカが一皿500円ぐらいの値段になっています。
    つまりお金を持っている人と持っていない人の差が明らかに出てきたんですよね。それでシリコンバレーなんかでは「こんなふうにお金が集中するのはけしからんよね」というような話になって、それに対するアンチテーゼとしてWeb3が出てきたというわけです。

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湯川鶴章さん

■Web3の技術と可能性

湯川    Web3の定義は2つあります。1つはブロックチェーンを中心としたいろんな新しい技術が出てきていますよ、という話。2つ目が、価値観の変化でもあるということです。僕は後者がけっこう重要かなと思っています。

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    武井さんが仰ったように、「資本主義の次に行きたい」という価値観が世の中に出てきているんですよね。「今の資本主義ってちょっと行き過ぎているよね」という我々の心の思いが環境問題として爆発したのがSDGsで、インターネット上で爆発したのがWeb3だと思います。

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    技術もすごいスピードで進化しています。最初は代替可能な機能しかなかったんです。代替可能とはどういうことかというと、「あなたの1ビットコインと私の1ビットコインは交換可能です」ということです。その時に出てきたのが仮想通貨です。
    次に、交換できない機能が乗ってきました。それが3、4年前に出てきたNFT(Non Fungible Token)です。私が持っている絵は100万円であなたの持っている絵も100万円だけれども、交換しましょうかと言われても交換しない。なぜなら私は私の絵が好きだし、あなたはあなたの絵が好きだから。NFTによってアート業界や知的所有権の世界が大きく変わろうとしています。
    さらに2022年に入ると、譲渡不可能という機能が乗ってきました。SBT(Soul Bound Token)です。これは5月に論文が発表されたばかりの技術です。譲渡不可能というのはどういうことかというと、たとえば僕の運転免許証を武井さんにあげても武井さんは使えませんよね、ということです。
    本人のスキルや能力を示すようなもので、割と公に言ってもいいようなものって結構あるじゃないですか。たとえば大学の卒業証書とか社員証、運転免許証、オンラインコース修了証、受賞歴、論文、ブログ記事、写真、アート作品、履歴書とか。そういった世間一般に公表していいようなものを、いずれ我々はSBTという形でアプリの中に貯蔵していくようになります。

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    それによってどんないいことがあるのかというと、本人認証に近いことができるようになります。同じ大学の卒業証書を持っている人はたくさんいても、その中で同じ会社に勤めている人となるとだいぶ絞られます。さらにオンラインコースを修了した人となるともっと少なくなる。つまりSBTを増やせば増やすほど、その人がどんな人かがわかっちゃうんです。
    人の認証の仕方というのは2通りあります。1つはマイナンバーみたいなものですね。この番号は誰それさんですと認証する方法。でも我々は普段、そんな形で他人のことを認証していないじゃないですか。
    じゃあどういうふうに認証しているかというと、この人はどこの会社に勤めていて、どこの大学を出て、どんな友達がいて、どんな活動をしていて、趣味はどんなで、と、社会の中でその人がどんな活動をしているかとか、どんな関係性を持っているかということによって、なんとなくその人の人となりを認証していますよね。
    SBTはその考え方を使っているトークンなんです。


■収益低減型モデル

    一歩引いて、マクロ経済の話をしたいと思います。

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    このグラフは、ハーバード大学の2人のビジネススクールの教授が書かれた『Competing in the Age of AI』という本の中のグラフです。産業革命以来、ビジネスモデルは大量生産型でした。大量生産型というのは業務プロセスを細分化して、それぞれの業務プロセスに特化した人を育てていくやり方です。
    そういう大量生産型のビジネスを我々は産業革命以来ずっと進めてきました。製造業はもちろん、コンビニエンスストアもスーパーマーケットも我々の身の回りのビジネスは全部これです。大量生産型のアイデアがここ何百年かずっと富を生んできました。
    大量生産型というのは経済学でいうと収益逓減型になります。投資をした額と儲けが正比例するのではなく、投資を増やせば増やすほど儲ける率は下がっていく。たとえば居酒屋の店主が新宿に一店舗構えてまあまあ儲かったので二店舗目を渋谷に作った。じゃあ儲けが2倍になったかというと、2倍にはならなくて1.8倍くらいになったりする。さらに北千住にもう一店舗作りました。そしたら3倍になるかというとそんなことはなくて、2.4倍ぐらいにしかならない。というのは店主が全部の店を見て回らないといけないのでね、時間も取られますので3倍も儲からないということになります。
    投資すれば投資するほど、正比例して儲かるのではなく、儲かる率はだんだん下がっていくことを示したのが収益逓減型のグラフです。大量生産型ビジネスは規模が大きくなればなるほど儲かりづらくなるような仕組みになっています。


■収益逓増型モデル

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    それがインターネットが出てきて変わりました。収益逓増型になったんです。儲かれば儲かるほど儲かる、みたいな話です。具体例として2つあります。1つがコミュニティのネットワーク効果です。電話で考えるとわかりやすいですよね。たとえば僕しか電話を持っていないと、いくら電話を持っていても使い道がありません。でも友達の1人が電話を持つようになったら、2人でやりとりできるようになりますね。それが3人、4人と増えて、みんなが電話を持つようになったら、電話の価値はめちゃめちゃ高くなります。人が増えれば増えるほど価値が上がるというのが、この収益逓増型のグラフです。
    もう1つはAIです。AIというのはデータが増えれば増えるほど儲かります。というのはAIはデータを元に学習するので、データが多ければ多いほど賢くなるからです。賢くなるとサービスが良くなって、サービスが良くなるとさらにユーザーが増えて、その結果データがさらに増えて、データが増えるとAIがより賢くなって……という正のスパイラルが勝手に起き始めるので、このグラフのようになるわけです。


■この10年間で儲けたのはインターネット大手だけ

    「失われた30年」とか、「なんで日本の経済はアメリカほど成長しなかったんだ」とか言われていますけど、実はアメリカの経済もそんなに成長してはいません。確かにS&P 500と日経平均を比べると、ここ10年ぐらいはアメリカのS&P 500のほうが伸びています。ところがS&P 500からインターネット大手の5社を抜くと、グラフの伸びは日経平均と同じぐらいになるんです。
    つまり、この10年間で儲けたのはインターネット大手数社だけで、日本企業もアメリカの企業もぼちぼちしか儲かってないんですよね。
    それだけ、その新しい収益逓増型のビジネスモデルというのがすごいということでもあり、テック大手だけがどんどん儲かるので、これだと困るよね、ということでWeb3が出てきたということになります。

(第4回につづく)


2022年9月11日    Zen2.0 2022    鎌倉・建長寺にて
構成:中田亜希
撮影:編集部



第2回 ブロックチェーンで変わる世界
第4回    Web3とAIが生みだす富

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Zen2.0
禅とマインドフルネスの国際カンファレンス2023
開催へ向けて

    ZEN・マインドフルネスと先端科学の国際カンファレンスZem2.0。
    9月2日(土)、3日(日)に会場(北鎌倉    臨済宗建長寺)+オンラインで開催。
    テクノロジーと古来の叡智のコラボレーションから、調和的な世界を創造します。

2023年    Zen2.0のテーマ

Be like Water    加速の時代に、水のごとく在る
〜Source, Flow, Alignment〜

    世界のあちこちに顕在化している分断や対立だけでなく、地球温暖化の問題や大手テック企業での大量解雇・AI技術の加速度的な進展など、時代のスピードは加速し、変化の大波が明らかに来ています。
    そのような環境下だからこそ、私たち一人ひとりがしっかり本来の自分・大切なコアの価値観(Source)に繋がり、そして水源から湧き出る泉が川となって流れるが如く、そこからのエネルギーで自然な流れ(Flow)が創り出され、そして、私たちのコミュニティ・社会・地球の中でそれぞれのパーパスに繋がったアクションに繋がり(Alignment)、広い海へと循環・浸透していく。今年のZen2.0ではその想いを「Be like Water    〜Source, Flow, Alignment〜」という言葉に込めました。
    禅語に「一滴潤乾坤(いってきけんこんをうるおす)」という言葉があります。一滴の水が大地を潤し、樹木草花を育み、緑に輝く地球を作りあげている大いなる循環。ひとしずくの水滴が、循環の水脈につながっているという事実は、世界がどう変化しようとも、古来から今も変わりません。私たち一人ひとりが、自分の思考や感情・身体との関係を深めることで、この「ひとしずくの力」に気づき、内面から湧き出る力と世界を繋げ、変化と加速の時代を水のように、自由自在に生きていく。今年のZen2.0では、この本質への気づきを深め、共に語り合える場をつくっていきます。

開催概要

    • 日程:2023年9月2日(土)・3日(日)
    • 参加方法:会場(北鎌倉    臨済宗建長寺)+オンライン(zoom)
    • 詳細・申込:https://www.zen20.jp

登壇者の皆様

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    藤田 一照(曹洞宗僧侶)
    横田 南嶺(臨済宗円覚寺派管長)
    ジョアン・ハリファックス(禅僧、医療人類学者(PhD))
    前野 隆司(慶應義塾大学)
    サティシュ・クマール(平和活動家、Schumacher College創始者)
    ももえ(Zen Eating 代表)
    三宅 陽一郎 (ゲームAI開発者、東京大学)
    荻野 淳也(MiLI代表)
    茂木 健一郎(脳科学者)
    伊藤 穰一(千葉工業大学)
    有本 奈緒美(ネイリスト、社会活動家、起業家、Plumeria Nail代表)
    鬼木 基行(プライムプラネットエナジー&ソリューションズ(株)
    スティーブン・マーフィー重松(スタンフォード大学)
    和 真音(一般社団法人シンギング・リン協会代表理事)
    原田 友美(イエナプランスクール大日向小学校グループリーダー)
    工藤 煉山(尺八演奏家)
    小笠原 和葉(ボディーワーカー/臨床身体学研究者)
    SHIHO(モデル)
    宮崎 姿菜子(太極拳研究家/気功整体療法士)
    藤野 正寛 (NTT コミュニケーション科学基礎研究所)
    鎌田 東二(京都大学名誉教授)
    水野 みち(株式会社日本マンパワー)
    二木 あい(フリーダイバー・水族表現家)
    oba(ダンサー・モデル・庭師)
    (順不同・敬称略)

プログラムのご紹介

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プログラムの詳細は    https://www.zen20.jp    を御覧ください。
   ※プログラムは変更になる可能性があります。

チケット情報

    チケットは、Zen2.0公式ホームページにて販売開始しております。お得な「早割」は8月19日までの販売期間となりますので、お見逃しなく!

<リアル参加チケット>
    通常:28,000円
    早割:23,000円(8月19日まで)
    学割:9,000円

<オンライン参加チケット>
    通常:12,000円
    早割:8,800円(8月19日まで)
    学割:4,400円

※いずれも2日間通しでの販売となります。
※チケット購入者は、後日動画でのアーカイブ配信をご覧いただけます。

    チケット購入はこちら→  https://www.zen20.jp/?utm_source=other&utm_medium=referral&utm_campaign=nl2

主催:一般社団法人Zen2.0について

    Zen2.0は、先端テクノロジーと禅の精神性の融合を目指し、2017年以来、北鎌倉・建長寺を舞台に毎年開催されている国際カンファレンスです。今年で7回目の開催となります。登壇者は、ヨーロッパ・北米・アジアなど世界各国から参加し、日本語と英語の同時通訳で参加できます。これまで、のべ登壇者数165名・のべ協賛企業70社・のべ参加者数3,000名・コミュニティ4,200の規模に拡大しています。
    ぜひ、Zen2.0のカンファレンスとコミュニティにご参加ください。

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