シスター・チャイ・ニェム(釈尼真齋嚴)(プラムヴィレッジ    ダルマティーチャー)
島田啓介(翻訳家/執筆家/マインドフルネス・ビレッジ村長)


Zen2.0 2022より、プラムヴィレッジのダルマティーチャーであるシスター・チャイ・ニェムと、プラムヴィレッジスタイルの瞑想実践者であり、ティク・ナット・ハンの書籍の翻訳家でもある島田啓介さんの対談をお届けします。全4回連載の最終回。


第4回    世界の対立を超える「四つの真の愛の教え」


島田    先ほどシスターが紹介された「Call Me by My True Names(私を本当の名前で呼んでください)」という詩は、タイの代表的な詩であり、とても重要な詩で、いろいろなところで紹介もされています。本当にインタービーイングを象徴するような言葉だと思います。
    詩の最後はこのように締めくくられています。

私を本当の名前で呼んでください
私のすべての嘆きと笑いが
一度に聞こえるように
私の喜びと苦しみがひとつであると
わかるように
私を本当の名前で呼んでください
私が目覚め
このハートのとびらが開け放たれるように
慈悲という名のとびらが

(翻訳=島田 啓介)

 
〔Amazon〕『ティク・ナット・ハン詩集 私を本当の名前で呼んでください』 (ティク・ナット・ハン[著]/ 島田啓介[訳]、野草社)




   この詩はやはり、タイがベトナム戦争のなかで慈悲と智慧の瞑想を実践されたからこそ生まれてきたような気がします。


■コインの裏表は切り離せない

島田    この詩に象徴される気持ちを私たちはどのように実践していったらいいのか、つながりということを、敵味方という対立を超えてどういうふうに大切にしていったらいいのか、ということをシスターにお聞きしたいです。

シスター・チャイ    はい、今お話を聞いていて、予定していなかったんですけど突然思いついたので、皆さんにご紹介したいと思います。私が今いるのはプラムヴィレッジの尼僧院の2階にある展示ホールです。
    こちらにはタイの本や、ダルマツールと言われるタイが法話に使われていたいろいろな道具を展示してあります。こちらに飾られているものが皆さんから見えますか?

島田    見えます。コインのような。

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タイが法話に使われていたコイン

シスター・チャイ    そう、コインがこうやってたくさん飾られています。タイはいつも「仏教の教えというのはとてもシンプルなもので、子どもたちでも理解できるものだよ。もし理解できないと言われたら、それは教えるほうの問題であって、ちゃんと教えることができれば子どもたちでも理解できるものだよ」と言われていました。
    このコインは、よくタイが法話で使っていたものです。コインには裏と表がありますよね。裏と表というのは共存していて、どちらかを切り取るということはできません。表があるということは、必ず裏がある。どんなに薄い紙でも、表があったら裏がある。裏があったら必ず表があるんです。
    そういう意味で、コインを使って「ほら見てごらん」って仰っていました。
    皆さんにもこれが自分の長所で、これが自分の短所でとか、私はこういう人が好きだけどああいう人は苦手とか、政治家についてもいろいろ、ああだこうだと好き嫌いがありますよね。でもそれは光と闇なので、どちらかを取り除こうとしても絶対に取り除くことはできません。またその取り除こうとする自分の心、差別をする心が、苦しみを生み出すもとになっています。
    政治的にも右とか左とか、いろいろアイデアがありますよね。プラムヴィレッジに来られる方々はどちらかというと左のほうの方々が多いんですけども、よい社会を作るために、右が良くないと思って右を切り取ったとしても、棒を切るのと同じで、切ったところがまた新しい右になってしまうんですね。嫌だから取り除いたのに、また新たな右ができてしまう。
    だからまず、自分自身の心を苦しめないために、また、どんな人でも気持ちよく生活できる社会を作るためにも、こういうのは嫌だっていう心をなくす。とにかく自分の心を広くして、昔は嫌だったもの、昔はアレルギーを感じていたものも、すべて包容して大切にできる心を育むこと。それを慈悲の瞑想でやっています。
    慈悲喜捨という「四つの真の愛の教え」というものがあります。慈悲喜捨の「捨」は、漢字だと「捨てる」という意味ですが、サンスクリット語ではウペークシャ(upekṣā)と言って、equanimityやinclusiveness、non-discrimination、つまり差別のない心のことをいいます。「これは綺麗でこれは汚い」と判断してしまうような心をどんどんなくしていく。特に自分自身に対してですね。
    多くの人が苦しんでいるのは多分、自分の「嫌な部分」を受け入れられないからではないでしょうか。誰もが必ず、自分の嫌な部分を持っています。その嫌な部分も受け入れられるようになると、だんだんと周りの人たちの嫌な部分もアクセプトできるようになって、誰とでもハーモニーを持って一緒に生活できるようになる。慈しみの心を持って生活できるようになるんですね。それが私たちが日頃、修行していることでもあります。
    ダーさんとお話していたら楽しくて、本当に時間があっという間で。

島田    ありがとうございます。コインを見るたびに、またお札でも同じですけれどもね、シスターの今日のお話を、そしてタイから受け継がれたその教えを思い出したいと思います。


■おわりに

島田    最後に、プラムヴィレッジのみなさんが英語で唱和している般若心経を拝聴したいと思います。

〔youtube〕プラムヴィレッジの般若心経    The Insight That Brings Us to the Other Shore (Heart Sutra)



島田    シスター、今日はどうもありがとうございました。

シスター・チャイ    皆様どうもありがとうございました。Zoom越しではありましたけど、鎌倉の建長寺様で、このようにプラムヴィレッジの般若心経を聞いていただくことができて本当に、嬉しく思っています。ありがとうございました。

島田    ぜひ今度はシスターの来日も実現するといいなと思います。なかなかしばらくお会いしてないので、またぜひいらしてください。今日はありがとうございました。

シスター・チャイ    はい。プラムヴィレッジも今年の春から、皆さんが普通にリトリートに来られるようになりました。今週からちょうど雨安居という90日間のトレーニングの時期に入りますが、日本からも2名の参加者がいらしています。1週間単位でも参加できますし、法話など、日本語通訳を付けることも可能です。フランスは出入りしやすくなっていますので、いつでもお気軽に、プラムヴィレッジを味わいに来てください。お待ちしております。

島田    日本語でインフォメーションは「ティックナットハン・マインドフルネスの教え」というサイト( https://www.tnhjapan.org/ )がありますので、ぜひそれをご覧になってください。
    プラムヴィレッジのアプリもあります。僕も使っていますけれども、ダウンロードするとスマホやパソコンでセットした時間に鐘が招かれるようになっていますので、よろしければ皆様もお使いになってみてください。チャンティングや誘導瞑想などもありますので。本日はありがとうございました。

(完)

アプリ    Plum Village: Zen Meditation
〔App Store〕
https://apps.apple.com/jp/app/plum-village-zen-meditation/id1273719339
〔Google Play〕
https://play.google.com/store/apps/details?id=org.plumvillageapp&hl=ja&gl=US


2022年9月10日    Zen2.0 2022    鎌倉・建長寺にて
構成:中田亜希
タイトル写真:© David Nelson



第3回    インタービーイングの誕生とジョアンナ・メイシー


<お知らせ>
 
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