アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日のテーマは「素直さと成長」です。

[Q]

    現在三十歳。ずっと実家暮らしのニートです。両親は呆れて何も言って来ません。どんな仕事をしても三ヶ月以上続きません。プライドが高く人の言うことを素直に聞けないところがあります。もう自分のような歪んだ性格は死んでも直らないと思っています。こんな自分でも仏教の教えを実践すれば変われるでしょうか?

[A]

■プライドの高さは素直さの正反対

    解脱に達することができるのはどんな人でしょうか?    お釈迦様はたった一つだけ条件を出しています。それは「素直である」こと。年齢も学識も職業も性別も家柄も関係ありません。素直な人は、朝に教えたら午後にはもう悟っているとお釈迦様はおっしゃっています。あなたに無いのはそれでしょう?    プライドが高いというのは「自分こそ正しい」という、素直さとは正反対のことです。
    答えは簡単です。あなたは素直にならない限りはダメということです。頑固で意地を張っている人は、プライドが高いわけではなくて、人が言っていることや社会・環境を理解する能力が無いのです。「私はプライドが高いから」と自分を慰めているだけ。ただ、能力が無いということが批判のポイントではありません。字が読めない人や、脳の機能がそれほど優れていない人でも、素直でさえあれば仏教の瞑想はできるのです。ただ、素直でないと、もうどうにもなりません。
    素直とは字の通り「シンプルにまっすぐ」なことです。英語ならflexibleですね。人が言うことをそのままやりなさいということでは無く、臨機応変に理解する必要があります。合わないと思ったら「あなたが言うことは絶対やりません」と言っても構いませんが、その人が何を言っているのかは理解して欲しいのです。
    まぁ、人間は誰でも失敗しますよ。してしまったら「本当に申し訳ありません。悪いことをしてしまいました。これからまともな人間になりますからご指導お願いします。何でもやります」という素直さがあれば、たとえ死刑囚でも〝立派な人〟として生命を終えることはできます。もしかすると、悟りにも達して人生を終えることができるかもしれません。
    「自分は頑固で頭が悪い。人の言うことが理解できない。頭の中は妄想でパンパンになっていて、外からデータが入らない状態」だと理解しておけば、治療方法はありますよ。カウンセリングとかいろいろね。仕事が三カ月しか続かないというのも、現代の日本では珍しい話ではありません。驚くのは、なんでこんなに病的なケースが多いのでしょうか?    この点では社会的な問題があるのだと思います。

■他の人々にニコッと笑顔を見せてみる

    学校でも、とても性格が悪い、同級生を脅したり、物を盗ったり、表面的に悪そうに見える相手にどう対応するかによって、被害者の子供達の人格が向上するのです。温室でぬくぬくと大人になってしまうのは人間としては失格なのです。それを決めるのも本人です。
    また「頑固で死んでも直らないと思っています」とあります。死んでも私の性格をこのままで貫くのだと。質問そのものが矛盾だらけですね。「私は絶対にあなたの話は聞かないけれど、あなたのお話を聞けばいくらか直ることがありますか?」と訊いているのですから。屁理屈だということを理解して、素直になってみたら、その日からすごく人生は楽になります。
辛口を言うならば、頑固な人というのは、過去の業でたまたま人間になってしまっただけで、人間として幸せに生きられるほどの業の力を持ち合わせていないのです。そういう時には自分の業が、こころを守るために頭を頑固にしてしまうのです。しかし、それだと姿かたちは人間でも中身はかなり低いので、精神的な悩みに苦しめられるのです。結果的に、唯一の味方であるはずの親にまで捨てられそうな状況です。だからものすごく直りづらいと思いますよ。豊かで明るく楽しく、皆と仲良く生活する徳が最初から欠けているのですから。
    でも、それも運命だと諦めないでください。業は地球くらいの膨大な量があるので、幸福になる業を引き寄せればいいのです。
    仏教の業論は運命論ではありません。たとえ不幸になる業で生まれても、とりあえずそれを措いておいて、別の業を引き出してみるのです。その時も素直であることは必要です。素直なこころで、他の人々にニコッと笑顔を見せた時点で、明るい業が目覚めてくれます。頑なに死ぬまで今のままを貫こうとすると悪業しか実りません。こうして説いている私も、質問したあなたも業の量は同じくらいです。誰もが過去生で酷く悪いことも、凄く良いこともしているので、生命の差は付けられません。たまたま今、どんなカードを選んだかということです。それで勝ち負けが決まってしまいますが、人間は、カードをシャッフルして改めて引き直すことができます。〝明るく元気に生きる〟というカードを選ぶことができるのです。その気になるのでしたら頑張ってみてください。まず、人の気持ちがよくわかる人間になるところから始めてください。


■出典    『それならブッダにきいてみよう: こころ編5』