山下良道(鎌倉一法庵)


山下良道師の師であり禅の修行道場である安泰寺の第六代住職の内山興正老師の哲学を紐解きながら、現代日本仏教の変遷をその変革の当事者としての視線から綴る同時代仏教エッセイ。「もうひとつの部屋」をめぐるシーズン5の第5回。


第5話    禅定に入ってからのパオ・メソッドの階梯②


■仮想空間の消えた午前3時の大安楽

    午前3時に不思議なことが起こってます。
    もう夢も見てない。悪夢にうなされてもいない。
    夢という仮想空間そのものが消え去った。
    この仮想空間を「仮想」だと見抜けずにいた私は、その中で、時に幸運に恵まれて有頂天になり、時に不運に出会っては絶望してきた。その繰り返しが人生だと思ってきた。なんとか幸運に恵まれますように、不運から逃れられますように、と、一生懸命祈ってもきた。
    でも、それらすべてが仮想空間の中のできごとだった。
    そしていま、不幸が消え去り、幸運だけが残ったわけではない。幸運も不幸もすべてが消え去ることで、今までとまったく質の異なる「大安楽」が広がっている。
    ここが究極の幸福なのか。
    どうもそうらしい……

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午前3時問題に直面していたころの筆者

        ……と、その時、思いもかけない指示が、瞑想指導者から来る。


「その状態を認識せよ!」


    え、ちょっと待ってください。
    認識っていったいなんですか?    認識作用そのものも、仮想空間が消えるなかで、一緒に消滅したのではないですか?

    我々はとんでもない問題にとうとう出会ってしまったようです。
    マインドフルネスと只管打坐の間の原理的矛盾どころではないほど深刻な問題です(後に両者が密接に繋がっているのは後に判明しましたが)。ここは慎重なうえにも慎重にゆきましょう。その問題の中にすぐに飛び込む前に、少し時間を遡ります。一気に鎌倉時代まで。