アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日は「気楽に生きたいが責任も果たしたい」という相談にスマナサーラ長老が答えます。

[Q]

「気楽に生きる」と意識すると無責任感や怠けが現れ、「責任を果たす」と意識すると、自分も他人も物事も、一から十まで管理管轄しようとしてしまい、怒りと緊張の、衝動のようなものに凝り固まり、どうもうまく行かない、という実感があります。「善のストレス、悪のストレス」という法話を聞いたことがありますが、これは善のストレスでしょうか?


[A]

■理性を使って生きること

    それは罠にはまっているんです、思考パターンのね。
    私たちは自分の生き方を計画したり、実践したりするとどうしても、過去・未来という時間の罠にはまってしまうんです。そうすると今言っても先はうまく行きません。
「気楽に生きる」と言った途端、過去のことも将来のこともどうでもいいと、今を無駄に過ごすことではないかと思ったりする。かといって「責任を果たす」と言ってしまうと、「将来に縛られてしまった」と思ったりする。それは「時間」という概念が自分に罠をかけているんです。”今の瞬間、私がやらなくてはいけないこと”はある、それはすごく流動的で、この瞬間に私はどこにいるのか、誰と一緒にいるのかということで変わるんですよ。それがわかっていれば気楽でいられます。
    例えば、ご飯を食べようと思っていたのに突然、人が訪ねてきた時などは、食事はちょっと置いておいて、その人に応対しなくてはいけないでしょう。時間と場所と環境で、今やるべきことが成り立つんです。「まず、ごはんを食べよう。それが終わってから次の仕事をしよう」などと頑なに考えていると、突然、人が訪ねてくるとか、予定外の問題が現れるたびに、すごくストレスを感じてしまうんです。「予定外で迷惑だ」とか「計画が崩れるじゃないか」とかね。そうすると正しい対応できなくて、お客さんを「別の時間に来い」と追い返してしまうとか、間違った態度を取ってしまいがちです。そういう時にこそ、理性を使って欲しいんですよ。

    《理性?》
    
    はい。そうすると気楽に「ああ、そういう用事ですか、それならこうすれば解決できるでしょう」とスムーズに済ませて、「ご飯を食べようとしていたところだから、私は食卓に戻りますね」と言えば気楽なんです。これは理解した方が良いんですよ。
    「義務」も”この時間”で、”この環境”だから成り立つことです。親は子供にご飯を食べさせなくてはいけないという義務があります。でも、親が出勤している時、昼になったらどうやって子供にご飯を食べさせますか?    その時は義務ではないんです。あらかじめ食事を用意しておけば良いだけでしょう。子供が学校に行っていれば給食や学食があるし気にする必要はありません。さっき言った通り、親が子供にご飯を食べさせるのは逃げられない義務です。でも、「今」と「今の環境」と「いる場所」によって、実行できるか・できないか、実行するべきか・関係ないか、いろんなケースが出てくるから臨機応変に対応して欲しいんですよ。
    そうすれば、問題は全く起きません。すごく気楽に生きられますし、自分の義務をきちんと果たしたことになるんです。今やるべきことをやっているということは、自分の義務を果たしていることなんです。

《優先順位というのは、柔軟に、いつでも入れ替わっているということですか?》

    心の中で固定した不動なものが優先順位だとしたら、そんなものはないんです。地震は予告して起こるものではないでしょう。大きく揺れたら、仕事も勉強もすぐやめて避難する。突然、計画が変わってしまうわけです。それが「今」を生きることなんです。イラつかずに楽しく対応しましょう。絶対変わらない優先順位なんか無いんですから。
    私は毎朝起きるとお経をあげてお勤めをします。でも入院中にはできませんでした。それでも、気にせず朝早く起きて雑用をこなしていました。「あぁ、家にいたらお経をあげる時間なのに……」という悩みはありません。だっている場所が違うんですから。看護師さんが血圧計りますよ、あれ調べますよ、これ調べますよ、としょっちゅう来ます。患者なんだから、お経を上げるよりまず検診を受けなければいけませんね。イライラせず気楽にいたからでしょう、私は病室では人気者だったんですよ(笑)。担当のお医者さんも忙しいはずなのに退勤前に顔を出して「調子はどうですか?」と挨拶してちょっとからかって帰っていきましたよ。その場、その場で生きてみればいつでも楽しいんです。


■出典    『それならブッダにきいてみよう: こころ編4』
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