アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日は「上司とのトラブルで解雇されそうになっている」という相談にスマナサーラ長老が答えます。

[Q]

   
上司とぶつかって、職場から解雇されそうになっています。上司の態度は理不尽だと思うので徹底して戦うべきか、「負けて勝つ」というか、争いからきっぱり離れるべきか。家族もいるので葛藤しているところです。
 

[A]


■身の安全は各自で守らなくてはならない

    個別のケースによるので一般論では答えにくいのですが、職場の関係で「一方的に相手が悪い」と決め付けることはできません。ですから、上司がどんなに酷いかということと別に、自分にはどんな原因があるのかと調べる必要があります。この社会では、不正なやり方に反対する人や真面目で正直な人を疎ましがる、ということもあるのです。ですから、いくら自分が正しいと思っても社会はあてになりません。身の安全は各自で守らなければいけないのです。
    他人をどうにかしようとするよりも、自分を直すほうが確実です。他人を制御することなど、まず成り立たないことですから。

■戦い方を学びましょう

    例えば、自分の「正直に仕事すること」が上司に嫌がられている可能性だってあります。そこは相手から見えないように工夫して直すしかありません。世界はいつも見た目で判断するので、見た目で判断する世界を変えることも不可能です。自分が変わることで自分の身を守るのです。
    法的に争うのだと裁判を起こしたからと言って、正しい人が勝つわけではありません。やっぱりズルい人が勝つのです。裁判を起こして、良い弁護士を雇って自分が勝てるように証拠固めをして有利にことを進める算段ができるのか、その能力が自分にはあるか、ということも考えないといけません。その判断のためにも、相手を悪いと決めつけないことです。客観的に状況を判断して、将棋をするように駒を組み合わせて、自分が勝てるように持っていかないといけないのです。家族を守るために戦うのだったらなおさらです。
    しかし一般的に見ると、日本人は〝戦い方〟を殆ど知らないのですね。凶暴になって騒ぐことは知っていますが、しっかり戦って、最終的に皆が幸せになる方法というのは全く知らないようです。ただ凶暴になって騒いでも、結局は冷静な敵に負けるだけなのに。
    問題に直面した時にも「他者を攻撃しないで、ぶつかることもせず、良い結果だけもたらそう」というのが仏教の戦い方なのです。もちろん、いつでも上手くいくわけではありませんが。

■能力ある人が上に立つとは限らない

    上司との付き合い方についてひとつアドバイスします。人に雇われて働く場合、従業員の側が、微妙に雇用主の立場を守ってあげないと上手くいかないのです。能力の無い人が上に立つと、自信が無いからよけいに高圧的になります。反対に、能力のある人が上に立つと、すごく組織が滑らかになります。しかしサッカーチームと違って、社会では能力ある人が上に立つとは限らないのです。
    能力のある人は、正しい答えを知っていても皆の意見を聞いて、それを取りまとめる形にしてことを進めます。でも本当はそのリーダーの方針通りに進んでいるのです。しかし世の中はそうなっていないのですから大変です。能力の無い上司たちがいっぱいいて、部下を抑えて自分の意見を強引に通そうとします。やり方がまずいと部下がわかっても上司は聞く耳を持ちません。部下の話を聞くと自分の立場が失くなると思っているのです。
    それから、上司に言われるとおりにことを運んで、悪い結果になってもその上司は責任を取りません。部下のせいにしようとします。能力の無い上司につくことは部下にとっては不幸なことです。しかし、上司を降格させることは部下にはできないでしょう。残っている手段は、何とかして自分の身を守ることです。それでも上司に何か言わなければいけない場合も出てきます。その時は上司の意見が間違っている、という気持ちにさせてはいけません。上司の意見を仰いでいるのだ、という錯覚が上司の心に起こるようにしてしゃべった方が身のためです。そうすることで自信の無い上司であっても、仕事は滞りなく捗るようになりますから。



■出典      『それならブッダにきいてみよう:人間関係編」

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