シスター・チャイ・ニェム(釈尼真齋嚴)(プラムヴィレッジ ダルマティーチャー)
島田啓介(翻訳家/執筆家/マインドフルネス・ビレッジ村長)
Zen2.0 2022より、プラムヴィレッジのダルマティーチャーであるシスター・チャイ・ニェムと、プラムヴィレッジスタイルの瞑想実践者であり、ティク・ナット・ハンの書籍の翻訳家でもある島田啓介さんの対談をお届けします。全4回連載の第3回。
第3回 インタービーイングの誕生とジョアンナ・メイシー
■インタービーイングの生まれた瞬間
島田 シスターとの今日の対談テーマは「Thich Nhat Hanh禅師の伝えたインタービーイングの世界」です。また、今年のZen2.0のテーマは「Start from Inner Wisdom The Stories of Interbeing 〜すべての物語と共に生きる〜」です。インタービーイングは「相互存在」と訳されることが多いですね。
私たちは孤立した存在ではなく相互に存在し合っている、ということを最初に言われたのがタイでした。
ここからはインタービーイングについて、シスターとお話していきたいと思います。
タイは『ティク・ナット・ハンの般若心経』(新泉社)という新しい本の「第1章 インタービーイング」で、「インタービーイング」が生まれた経緯について書かれておられます。そこを紹介していただけますか。
『ティク・ナット・ハンの般若心経』(ティク・ナット・ハン[著]/馬籠久美子[訳]、野草社)〔Amazon〕『ティク・ナット・ハンの般若心経』
シスター・チャイ Interbeingは日本ではすでにカタカナ語のインタービーイングとして知られるようになっていますけど、元々は英語のbeingから派生してできた言葉です。「我々は絶対に一つのものとして孤立して存在することは不可能である」という意味で、タイは「beingという言葉は間違っている、他のもののおかげで、そして他のものとともに存在しているのが真理である」と仰っていました。それで「interbeing」という言葉を使われるようになったんです。
タイは1980年代にアメリカのカリフォルニア州で、平和活動家たちといろいろな活動をしていました。その一人が、ジョアンナ・メイシーさんという仏教徒の環境活動家です。
島田 タイは1995年に来日されましたが、その少し前の1993年にジョアンナ・メイシーさんも来日される予定で著書が出版され、そのときには来日がかなわなかったのですが、後年日本に来られた時にお会いしました。
シスター・チャイ ああ、そうですか。それならもう日本の皆さんには昔からおなじみですね。ジョアンナ・メイシーさんは本当に素晴らしい方です。もう90歳を超えていますけれども、とても元気なおばあちゃまです。
確か1982年ぐらいでしたかね。国連の核軍縮(nuclear disarmament)の会議に、タイが登壇者として招かれたんです。世界的な会議ですから、みんなピシッとした背広姿だったんですけど、そこにカジュアルな茶色い服を着た、1人の小さなアジア人男性が入ってきたんですね、休憩時間に。お掃除の人が来たのだろうと思われたらしいんですけど、実はその人がタイで。
タイは自分の番に登壇して、そしてポケットから紙切れを一枚出して、「今日は皆さんに詩を読みたいと思います」と言って詩を読まれました。そのときの詩が「Call Me by My True Names」です。「私を本当の名前で呼んでください」。これは詩集のタイトルにもなっています。
「Call Me by My True Names」という詩をタイが読まれた時、ジョアンナさんはとても感動されて、「彼こそが私の先生だ」と、それからタイから仏教を学ぶようになりました。
その後、確かカリフォルニアのタサハラ禅マウンテンセンターだったと思うんですけど、まだinterbeingという英語が作られていない時代に、タイは、アヴァタンサカ・スートラ(華厳経)に載っている「相即相入」のアイディアを一生懸命、みんなに説明していました。それで、これを表すいい英語はないかなあって、皆さんに相談していたんですね。togethernessとかどうだろうとか、何かいろんな言葉を提案して。でもみんな、「いやあ、ちょっと違う」「ちょっとしっくりこない」みたいな感じで。
それがある朝、起きてすぐにタイがジョアンナさんのところに行って「interbeingって言葉どう?」と言ったら、ジョアンナさんが「それよ、それ! それこそそれがアイデアを一番うまく表してる」と言って、そのときからinterbeingという言葉を使うようになったのだそうです。
皆さん説明しなくてもご存知かと思うんですけども、interbeingというのは相互依存、つまり「お互い様」という心ですね。全てが他の者のおかげで存在できているという仏教の教えです。
島田 ありがとうございます。『テックナットハンの般若心経』では、空の説明のところで、そのお話がありましたね。ジョアンナさんのお名前は出ていませんでしたので、それがジョアンナさんのことだとは初耳でした。
■私を本当の名前で呼んでください
島田 このあたりでもう一度鐘を聞きませんか? シスター、ぜひお願いします。
シスター・チャイ そうですね。プラムヴィレッジではベルの音を聞くのも瞑想の一つとなっています。ホールなどにある時計は15分ごとに音が鳴りますし、アクティビティが始まる10分前などにも鐘の音が鳴るんです。
プラムヴィレッジでは、鐘の音が聞こえるたびに、自分自身に立ち返ります。今やっていることや話していること、できれば考えていることもすべてストップして、自分の体に帰ってくる。そして体をリラックスして、自分の心の声を聞く、という実践を取り入れています。
最近ではいろいろなアプリでも、このベルの音を設定することができますので、よろしければ皆さんの日常でも実践してみてください。では、鐘の音を鳴らします。
鐘を招くシスター・チャイ
島田 ありがとうございます。
(第4回につづく)
2022年9月10日 Zen2.0 2022 鎌倉・建長寺にて
構成:中田亜希
タイトル写真:©David Nelson
第2回 お母さんのように優しく温かなタイ
第4回 世界の対立を超える「四つの真の愛の教え」
<お知らせ>紙書籍『サンガジャパン+ Vol.3』
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