アルボムッレ・スマナサーラ
【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】
皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日は「自我で凝り固まった人とどう接すれば?」という相談にスマナサーラ長老が答えます。
[Q]
自我で凝り固まってしまった人と接しなければならない場合、例えば老いた母が、病気のせいか嫉妬深くなり、物を盗られたと言い出したり……。私から見ると「それは妄想では?」と思うのですが、このような、自我に凝り固まってしまった人と接する時、自分の自我を消してもどうにもならないように思えてしまいます。どうしたらいいでしょうか?
[A]
■そんなものだと諦めて 環境に適した反応をする
その場合は「そんなものだ」と諦めるしかないのです。「あぁ、そう」で終えてしまわなくてはいけない。希望も期待も持たないことです。
自分の子供にでも希望をかけてみてください。とたんに苦しくなってしまいます。子供に四十五分、じーっと座って宿題をやりなさいと命令する。タイマーまでかけて徹底管理してもやりませんよ。二〜三分はおとなしくしているかもしれませんが、そのうちイライラしてよそ見を始めます。冷静で落ち着いた人間に育てたいという希望があるから、失望して腹が立って、子供に当たってトラブルを起こすのです。
相手が自我の塊で変わらないと思ったのは自分で、変わって欲しいと思ったのも自分ですから、放っておけば楽なのです。他の答えはありません。これは逃げでも何でもありません。「私の○○が盗られた!」と言われたら「ああ、そうかしらねぇ」と受け流す。「もう! 大変なんですよ!」と言われても「ああ、それは大変ですねぇ。じゃあ探しましょう、でも今は忙しいから後でね」。後と言っておけば、相手はその頃にはもう忘れているから、その瞬間に対応するだけで充分です。
自我がある人は相手を変えようとします。歳をとって、肉体の自由も思考の自由もなくなった人に対して、私たちは一方的にプログラムを作って押し付けますが、相手はそれに合わせた反応なんかできませんよ。だから「頑固だ、バカだ」と不満を言うのですが関係ありません。放っておけばいいのです。”Let It Go”という態度で放っておく、流すことです。
自分が期待を持たない・希望を持たない・そうであって欲しい・こうはあってはならないということを消してしまえば、おだやかな〝流す〟世界にいられますね。
私たちは環境に適した反応をするだけ。それができないと悩み苦しみが生まれます。つまり、その場その場に適した反応をすれば何のこともないのです。
寝たきりになってしまった人に「また元気になって歩いて欲しい」と思うのはあくまで自分の希望でしょう? 適切な反応ではありません。治療やリハビリがうまくいけば勝手に立ち上がるものです。希望があってもなくても、年寄りだったら、寝たきりになったら、まず戻ることはないんだから、期待する必要はありません。「今日の調子はどうですか?」と看るだけで充分です。「どんどん酷くなるんだ」と思った瞬間に過去が蘇って来るのです。前と比べたらどんどん悪くなっている……と。真理の人にはそういう考えは出てきません。日々変わるだけです。どんどん状況が悪くなっていく……と考えるなら、エビデンスというか、きちんと過去のデータを参考にしなくてはいけません。今さらそういうことを言っても過去には戻れないのですから無意味です。
例えば、とても喉が渇いたので、蛇口からグラスに水を注ごうとした時に、ぶつけてグラスの口がちょっと欠けてしまったとします。水が漏れていないなら、欠けていない部分から破片を避けて飲めばいいだけ。その場の反応なのです。「これから死ぬまで欠けたグラスで飲むぞ」とか、そんな哲学を作る必要はありません。グラスの安全なところに口を付けて飲めばいいのです。喉の乾きが満たされた後に新しいものを買って来ればいいだけ。その状況に適切な反応をするだけの話です。
人生では、この「放っておくこと」の訓練をしましょう。放っておくとは、世界に対して余計な希望や計画を持たないこと。何で持たないのでしょうか? それは、「持てないから」なのです。「世界はこうあるべき」と思っても酷く苦しむだけ。世界は流れるのです、誰の話も聞きません。地球が自転することと同じです。私たちはそれに適切な反応をすればいいのです。地球が自転するから夜になる。だったら暗くなったことに対応する。しばらくすると朝になる。そうしたら明るくなったことに対応する、それだけ。
そういうことで、お年寄りの方々、病気の方々、介護が必要な方々を治そうとしないでください。変えようとしないでください。その場でその場で必要なことをしてあげるだけで充分です。それだけで楽になります。
■出典 『それならブッダにきいてみよう: 人間関係編2』
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