アルボムッレ・スマナサーラ
【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】
皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日のテーマは「仕事をするということ」です。
[Q]
ずっと専業主婦でしたが、子供が中学生になったので、そろそろ少しずつ社会に貢献しなくてはと思いパートタイマーの仕事を始めました。すると同僚は毎日長時間働いていますし、とても頑張っているのに、私はといえば子供のことが気になったりとか、あまり出勤日を増やしてしまうと長老の本を読んだり動画を見たり、瞑想をしたりする時間が取れなくなるからということで、週二回・数時間程度に抑えています。俗世間のことはほどほどにきちんとやればいいという長老の言葉通り、パートの時間は数時間でも きちんとほどほどにやればいい、修行の方を怠けずにきちんとやればいいと思うのですが、『それで良いのだろうか?』と、みんなが必死になる姿を見て時々迷っています。実は私はもしかして腰抜けなのでしょうか?
[A]
■仕事は小さな一粒の積み重ね
だいたい私たちが考える〝周り〟は、既知のすごく狭い範囲のことなので、俯瞰するなら〝全ての外の世界〟まで広げた方がいいんです。なぜかというと、狭い世界にいるとこころも小さくなって、世の中のことは知らないまま。かといって広い世界に行くと、悩みばかりが出てきて、それで自己破壊に陥るということもあるんですけどね。こころは欠陥だらけでややこしいんです。ですから、きちんと整理しなくちゃいけません。
比較すること自体は悪くないんです。でも、自我で比較する場合は危険です。「私」という言葉で比較するのはただちに止めるべきなんです。例えば自分が仕事をして結果が出る、それから他の人が同じ仕事をして出した結果を見て、そこで比較してみることは自分の能力向上に役に立ちますね。自分は時間をかけ過ぎたので、効率よくするためにどうすればいいか考察するとかね。比較する時はそういうふうに客観的にしないと、自分の能力が判断できないところがあります。
この方は、家事だけをしていたというそれまでの状況が不本意だったんでしょうか? 言いたいのは「何でもいいからしっかり、できるだけ完璧にやればいい」ということです。世の中には小さくて名前も無い仕事が無数にありますからね。子育ても一つの仕事でしょう。だから、それぞれのその瞬間の仕事をしっかりやればいいんです。比較すると悲しくなるだけですから。ある人はずーっと子育てと家を守ることだけで人生が終わるかもしれませんが、別にそれはそれで、自分の仕事を完璧にこなしていれば問題無いんです。これが中途半端になると困りますね。子育ても中途半端で、社会貢献したいと言い張ってバイトに行ったのはいいけれど、それも中途半端になったらダメでしょう。
それぞれの瞬間で、私たちには誰でもやらなくちゃいけない仕事があるんです。何もしなくていいということはまずありません。その場その場で、自分のやるべきことを、美しく綺麗に完璧にやることです。カップを洗わなくちゃいけなくなったなら、きれいに汚れを洗い流せばいいだけです。その瞬間の行為を完了させて、「ああ、うまくできた」という喜びを感じてみれば、それだけで人生は全て完成すると思いますよ。たまに、「今日は何をすればいいんだろう?」と悩む時もあるけれど、悩む時間があるぐらいなら目の前にあるタスクをさっさとこなした方がいいんですね。休もうと思ったら、後ろめたさなど感じないで思う存分休むことです。「休んでやるぞ!」と、胸を張って休むぐらいにした方がいい。寝る時も「寝てやるぞ!」と気持ちよく、かっこよく寝ればいいんですね。歯を磨く時でも、しっかりやるぞ! と。そういうふうに一個一個の仕事を完成させる。そこから何となく「ああ、よくできた」と〝こころへのフィードバック〟をする。そうすれば問題は無いと思います。
どんなことでも気楽に楽しく、ただしやるべきことを完璧にこなして「よくやりました」という充実感を得るようにする。それで問題は解決します。能力が無い人ほど精神をピリピリ張って、緊張して、神経をガリガリすり減らして、命を賭けちゃうんですね。それで自分の義務は果たさないで「仕事があってこれが大変なんだよ」と文句ばかり。何の得になるんでしょうかね?
仕事も、最初から大きい仕事は存在しません。すごく小さな単位のものが集まって出来上がっているんです。皆さんは見たことは無いと思いますけど、シロアリはあんな小さいのにとても大きい蟻塚を作ります。土に唾液を混ぜて見事な建材に変えるんですね。昔は自分の国(スリランカ)では、シロアリの巣から土を取って、家を造る時の壁材にしたほどです。すごく頑丈なんです。雨が降っても、何をやっても崩れない。とても強靭です。中には二〇坪くらいの巨大な塚もあります。作るのはすごい労働なんですが、一匹は砂一粒しか運びません。一粒ずつ運んで、唾液で練ってつけるんです。また一粒運んで、自分の唾液で練ってまたつける。それが最終的に膨大な量の仕事になっているんです。いきなり大きく物事を捉えたがるのは人間だけですね。時間を延ばして、過去も、たくさんの未来も入れて、壮大なスケールで見てしまう。そうすると仕事ができなくなってしまいます。この、今の瞬間の小さな仕事を一粒一粒行うことが正しいんです。
■出典 『それならブッダにきいてみよう: ライフハック編2』
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