川本佳苗(仏教研究者、日本学術振興会特別研究員PD)
2018年から旧サンガのWEBサイトで連載を開始して好評を博した川本佳苗さんの仏教エッセイ「ぶぶ漬けどうどすか?」をサンガ新社のプラットフォームの「WEBサンガジャパン」で全編再録します。気鋭の仏教学者である川本さんですが、ほぼ別人格(当社比)のスナンダ節をお楽しみください。なんでも今年6月に『ぶぶ漬けどうどす』なる映画が公開されるようですが、本家はこちら、あちらさまは二番煎じということで、よろしくお願いいたします。今なお色褪せぬフレッシュなダンマトーク、テーラワーダ仏教色濃厚な異色連載をご堪能ください。
※リンクなどは当時のものです。一部リンク切れになっていますが、ご了承ください。2025年2月現在、編集部で確認して切れているものは(編集部注:リンク切れです。m(__)m)を付しています。
第3回 「『マハーナマッカーラ』はパーリ語ラップ?」
こんにちは、法名スナンダこと川本佳苗です。2019年が始まり、もう1月も終わってしまいましたね。皆さまはどんな新年を迎えましたか?今年の目標は決めはりましたか?
■ディーパンカラ・サヤレーの瞑想合宿のご報告
わたしの年末年始は、房総半島で行われるミャンマーの尼僧ディーパンカラ・サヤレーの瞑想合宿で通訳するのが慣例です。最近はサヤレーとも慣れた仲でバンバン突っこまれ、「あんた髪型ヘン」と言われました。ちなみにこんな感じでした。合宿中は八戒を守らなきゃいけないからオシャレせず髪の毛ボサってるのに──。
(ToT) ひどい、サヤレー!
中央:ディーパンカラ・サヤレー、
左:瞑想合宿を企画した「はらみつ法友会」代表の岩倉さん(ウェブサンガデビュー)、
右のボサ子:スナンダ
この合宿では、すてきな浜辺で歩く瞑想もできます。ぜひ、今年の年末はご参加くださいね!そして、帰りのバスターミナルで思わず買ってしまったものが……。だってわたくしカントリーマアマー(カントリーマアムを愛する者)なんですものー。
合宿会場近く、南房総の浜辺
合宿中に設置した仏壇
私のタンハー、カントリーマアムびわ味
それと、ニュースが2点あります。まず、最近スナンダのツィッターを始めました!かなりアホなことを呟いていますけど、フォローしてくださいね。@Kanae_Sunanda(編集部注:現在使われていないアカウントです。m(__)m)
二つ目は、昨年12月6日に開かれた「K.N.ジャヤティラカ博士 論文集』刊行記念イベント」のDVDが発売されたことです。トレーラーはこちら【トレーラー1『K.N.ジャヤティラカ博士 論文集 第1弾』 刊行記念イベント】です。スマナサーラ長老と島影サンガ社長、そしてわたくしスナンダという異色メンバーでお送りしています。それにしてもわたし笑いすぎ!
さて、第3回目は「仏教道徳は誰のため?」についてお話しすると予告していました。のですが……、年明けにサンガ宛にスナンダへの感想メールが届いたのです。あんまり嬉しかったので、今回はお返事を兼ねて書こうと思います。どうもありがとうございます!!!(^ω^)
■マハー・ナマッカーラ・パーリについて
まず、大阪府のA様より、第二回目連載で触れました「『マハー・ナーマッカーラ』というのはどのようなお経なのか」という質問をいただきました。
わたしが前回、スペルを間違えており失礼しました。 正しくは『ナマッカーラ』または『マハー・ナマッカーラ・パーリ』と言います。
これは、ブッダゴーサが編纂したとされる、ブッダを讃美する詩偈集です。タイやミャンマーのテーラワーダ仏教圏では、寺院での礼拝時に唱えられます。全部で33偈ありますが、私が修行したパオ僧院では夜の礼拝時に26番目の偈までを唱えます。
これらの偈の、語呂合わせと韻の踏み方がパキパキでめちゃくちゃ美しいんです。ブッダゴーサ、パーリ語ラップかい、とツッコミたくなるほどです。
第一の偈を紹介しますね。わたしの粗訳なので、おかしいところがあるかもしれませんが、ミャンマー留学時代のパーリ語の先生から教わった解釈を基にしています。
Sugataṃ sugataṃ seṭṭhaṃ, kusalamkusalaṃ jahaṃ;
Amataṃ amataṃ santaṃ, asamaṃ asamaṃ dadaṃ.
Saraṇaṃ saraṇaṃ lokaṃ, araṇaṃ araṇaṃ karaṃ;
Abhayaṃ abhayaṃ thānaṃ, nāyakaṃ nāyakaṃ name.
善く進まれたお方(ブッダ)、最高なるお方、善悪を離れたお方
不死なる、寂静なる、比類なきもの(=涅槃)を与えてくださるお方、
この世の人々を避難してくださるお方、執着や諍いを失くしてくださるお方、
恐怖の無い安全な場所へと導いてくださる(この)お方に、私は頭を下げ礼拝します。
いかがですか? 「ブッダマジ最高!」とベタ褒めでしょう? 私の出家した寺院では、読唱時にパオ・サヤドーの録音を再生していました。Youtubeにも音声ファイルがありますね。 ↓ これです!(35秒目から始まります)
ブッダゴーサ「ブッダマジリスペクト!」と大絶賛です。
(https://www.youtube.com/watch?v=cI92mCCIeqI&t )
全文は、こちらの『パオ朝夕礼拝読経集』【https://www.dhammatalks.net/Books7/Pa_Auk_Daily_Chants.pdf】2ページ目から載っています。でも、わたしが僧院で聞いていたバージョンはこのYouTubeのものではなくて、パオ・サヤドーがもっと若い頃のだったのか、声に勢いもスピードもあってよけいにラップ感が強かったです。
■テーラワーダ仏教圏の女性出家者について
Aさんからは「女性の出家はどのような状況にあるのか」という質問もいただきました。これについてお話しするとすごく長くなってしまい、また私も熱くなってしまうので、簡単に説明します。
私が実際に訪れた国は、ミャンマー・タイ・ラオス・スリランカ・ベトナムで、そのうちミャンマーとタイでわたしは長期間暮らしました。これらの国々を見て、ミャンマーの状況はいろいろな点で特殊でした。
まず一つ目は、出家する年齢が低いことです。タイやラオスでは、未亡人や身寄りのない年配の女性が寺院に出家者として寺院で住まわせてもらい、食事の用意や作務をしていらっしゃるケースが多かったです。バンコクのような都市部では、大学を卒業した後、30代までキャリアウーマンだった英語も話せるメーチー(タイの女性出家者)にもお会いしたことがあります。彼女は大変頭の良い方で、瞑想センターで指導にあたっていらっしゃいました。でも、このような方は希少でした。
ミャンマーで、私の留学していたITBMU(国際上座部仏教布教大学)にサヤレー(女性出家者)が毎年20名ほど入学なさっていました。10歳未満で出家する男子が多いことに対し、ITBMUに進学するサヤレー達の出家年齢は、14歳以降または在家女性として大学卒業した後が多いです。それでも、他のテーラワーダ仏教国と比べて若手でしたし、かつ仏教大学に入学する前にすで化学や数学などの専攻で学士号をもっていらしゃる才女が多かったのです。
ふたつ目は、一時出家が盛んなことです。テーラワーダ仏教圏では、どの国でも男子ならば一時出家することは通過儀礼的な行事です。でも、ミャンマー以外の国で女子が一時出家することは珍しいです。一番人気の出家時期は、新年にあたる4月の正月休暇中です。寺院もイモ混みです。その後、雨期の6月にもなると、商店街や病院でネギ坊主みたいな頭の女の子と出会います。オーストラリア人の知人はこの時期に初めてヤンゴンに来て、街にツンツン頭の女の子があふれているのを見て、「わぁ、これが今ミャンマーで流行っているヘアスタイルなのね!」と感心したそうです。パンクかいな。
ネギ坊主ほどではありませんが、還俗直後のベリーショートだったわたしの姿を載せておきます。ディプロマの授与式だったので、はりきって浴衣を着ています。
還俗直後のスナンダ
【Kさんからのメール】
もう一人、ディーパンカラ・サヤレー瞑想合宿の参加者Kさんから、サンガ宛に合宿の感想を送っていただきました。私の関西弁な通訳を気に入ってくださったとのこと、嬉しいです。どうもありがとうございます!
「きっと川本さんはすごく気遣いができて正直なお人なんだろうなと私は勝手に思っています。(完全に妄想ですね)」そんなことないです! 妄想じゃないです! わたしって気遣いができて正直なんですぅぅーーー(この部分、編集者から削除されそう)。
メールを読ませていただいて、Kさんはすごく真面目な人なんだと思いました。真面目だから自己否定してしまうし、より良く生きたいと思って、仏教に興味をもたれたのでしょう。でも、現代社会は競争や欺瞞で満ちあふれていて、真面目な人が生きづらい世の中ですよね。一人だと周囲の力に負けてしまいそうになりますよね。
だからこそ、善き友・法友を大切になさってくださいね。ブッダもそうおっしゃっています。私はなかなか東京へ行けませんけど、瞑想合宿を企画した「はらみつ法友会」では、月例の自主瞑想会や勉強会も開いています。よかったら参加してくださいね。【@paramifriend】
次回の第4回連載こそ、「仏教道徳は誰のため?」についてお話しようと思います。でも、ミャンマー仏教で知りたいこと、スナンダに質問したいこと、連載で取り上げてほしいことなどのリクエストがございましたら、熱烈歓迎いたします。また、励ましのお言葉や嬉しい感想なども、メールアドレス[info@samgha.co.jp]宛に件名「ぶぶ漬け」と書いて送ってくださいね!(編集部注:上記メールアドレスは現在使われていません。2025年4月開始の新連載のための質問をオンラインサンガで募集中です! 記事の末尾をご覧ください)
それでは、皆さま、2019年も頑張っていきましょう~。
スナンダこと川本佳苗
第2回 「ミャンマーの僧院生活」
【編集部より】
2025年4月から新連載「(帰ってきた)ぶぶ漬けどうどすか?」(仮題)が始まります!
オンラインサンガ会員の皆さんから川本佳苗先生への質問を募集します。適宜、連載の中で取り上げさせていただきます。
質問は下記のメッセージ欄にお書込みください。
(オンラインサンガにログインしている方にのみメッセージ欄は表示されます。)
皆様の質問をお待ちしております!!