【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】
皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日のテーマは「仏教の交渉術」です。
[Q]
ある物事をめぐり、考え方の違うことに対して、折り合いをつけるために必要な会話の仕方・話し方・仏教的な交渉術というものがあるならば教えていただけると幸いです。
[A]
■生命は利己的、世間は騙し合い
基本的な問題があります。人間というのは正直ではないということです。対話や交渉をする時に情報を隠しておく、相手には編集加工した情報だけ出して騙そうとするのです。相手も必要な情報は隠し、編集加工した情報でこちらを騙そうとする。結局、互いに騙し合いの競争になってしまうのです。仏教的な交渉術は、互いに騙し合う畜生のような性格の人間には通じないと思います。
■交渉にも心の清らかさを忘れない
世の中の交渉というのは、どのようにして自分が儲けるのかと、自分の利益だけを重要視しています。そうすると交渉は壊れてしまいます。例えば私は月々百万円ぐらいの利益が欲しいから、あなた方は私の品物を買いなさいと言う。これは交渉と言えるでしょうか? 自分の利益だけを要求すると話はこじれます。相手は品物を買うことを拒絶します。そうではなくて、自分が百万円の利益を得たいと思っても、それは措いておくことです。まず問題点をテーブルの上に出して、相手とプラス・マイナスを話し合う必要があります。相手も何かを提案する。「こうしたら、あなたにとっては損ですね」と相手のことも心配する。相手がいて自分の商売が成り立つ。そのような気持ちで交渉すれば何とかなるものです。日本の場合は、相手を接待して酒を飲ませて、気分を良くさせて交渉を有利にしようとする習慣もあります。そのやり方はあまり効率的ではありません。
■交渉術のひとつ――互いに慈しむこと
例えば「この品物を月々百個買ってもらいたいのだけど、あなた方は違う商品も扱っているからいろいろ困るでしょうね」と話を整理整頓する。相手が品物を百個買うことのメリット・デメリット、品物の利用価値・利用方法が明確になっていれば、百個買ってもらうこともできます。大量に買ってもらえると、あなた方は商売を拡大できるし、うちの会社も安定する。そのように互いに得することを考えなくてはいけないのです。win-win状態と名付けられている状態です。
■世間では巧みに心を汚さないように努める
自分の利益のみを考えると心も汚れることになります。相手のことを心配することは心が清らかになるということ。心が清らかになると、当然頭も冴えてきます。商売繁盛というのは、決して自分の会社だけの利益が増えることで成り立つものではありません。経済はスムーズに回る必要がありますから、商売の話をする人は相手の商売が繁盛することも考えなくてはいけないのです。そのような気持ちになれれば自分の心が汚れないのです。
■相手の意見を聞くことも大事
私の場合は、相手の話(意見・提案)もそれなりの理屈がある、というスタンスで聞いて、しゃべります。最初から自分自身で相手を否定できない状態を作ります。そうして二人で正しい答えを導き出すようにするのです。始めから正しい答えが判っている場合もあります。しかし、いきなり答えを言っても相手は理解しませんから、正しい答えまで順序立てて話を進めていくしかありません。相手が理解・納得するまで進むためには、始めから相手を否定するように「あなたは間違っている」「それはおかしい」と言ってしまうと、全く話が進まなくなってしまいます。
■互いに持続可能な関係を作っていくこと
とにかく、利益・幸福は自分も相手も得なくてはいけません。先程も触れましたが、世間でも経済用語でwin-winと言うでしょう。ということで、交渉では互いにwin-win状態を作らなくてはいけないのです。世間一般や政治家が言っているのは、ただ口先だけの嘘です。そうではなく真剣に真面目にwin-win状態を作るように考えるのです。それが仏教的な交渉術です。
■出典 『それならブッダにきいてみよう: 人間関係編2』
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