【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】
皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日は「楽しい思い出でも、かみしめてはダメ?」という質問にスマナサーラ長老が答えます。
[Q]
過去と将来について考えてはいけないということなのですが、過去の楽しい思い出とか、そういうことも考えてはいけないのでしょうか?
[A]
■過去を思い出すのはもったいない
過去を考えると、あなたは現在を忘れてしまいます。それはもったいないことなのです。過去でご飯を食べて美味しかったということが何になるのですか? お腹が空いているならば、今食べなくてはいけません。楽しい過去であろうが、悲しい過去であろうが関係なく、それを考えることはもったいないのです。
《思い出して楽しい気分になったとしても、もったいないのでしょうか?》
そうであっても、もったいないのです。今の瞬間を失ってしまうからです。今・現在はもっと楽しいはずです。「今」ということに集中すると、ものすごく楽しいし充実感があるのです。今が悲しい・不満であると勘違いしているから、過去を思い出して妄想の喜びを味わおうとしているのです。いわゆる、今から逃げようとしていることになるのです。
思い出してしまうということは誰にでもありますし、避けられません。危険なのは過去の思い出に足を引っ張られて、現実的な今の生き方を台無しにすることです。過去のことを思い出して少々、楽しくなってしまったら「それは過去のことだ。現実では無いのだ。時間を無駄に費やしてはいけないのだ」と、過去に対する感情を捨てなくてはいけないのです。
■思い出は足かせになる
《例えば、過去の楽しいことを思い出して、「よし、もう一度楽しい気分になりたいな」と活力にすることも違うのですか?》
世間ではそのような考えもあります。過去の成功を思い出して、これから張り切って頑張ろうではないか、という考えです。現実のありのままの姿を全く知らないからそのように思うのです。過去の条件と今の条件は同じではありません。過去の成功を思い出して頑張っても、今、挑戦することは失敗で終わる可能性もあります。今の状況を正しく判断して、どのように挑戦すればよいのかと考えるならば、成功する可能性が高くなります。過去の思い出が足かせになって、今を失敗に終わらせる可能性の方が遥かに大きいのです。例えば過去に友達と一緒に旅行してものすごく楽しかったとしましょう。それを思い出してしまうと、もう一度その同じこと・気分を再現・繰り返したくなってしまいますがそれはあり得ないことです。
また同じ友達を集めて同じ場所に行ったとしても、それは過去の経験とは違うものになります。そうすると面白くなくなるのです。過去と同じことを再現しようとしても同じような楽しみは生まれてきません。もう慣れてしまっているのです。つまらなく感じます。ですから、いつでも「今の瞬間を楽しまなくてはいけない」ということを心がけてください。
■妄想を楽しむのは危険
恋愛の場合は、もっと酷いことになる可能性もあります。別れても男性は仲良く一緒にいた時の楽しみが忘れられないのです。それを取り戻そうとするけれど、女性はきれいさっぱり忘れて、男性のことを嫌になっています。性格が悪い・乱暴でケンカ早い・だらしないなど、何だかの理由があって別れたのですから。
男性は自分が相手に対してやってきたことは忘れ、その女性と一緒にいたことをすごく楽しかったと思い、それを取り戻そうとするのです。女性が断ると事件沙汰になったりする場合もありますから、楽しい過去を思い出すことを軽く見ない方がいいですね。
男性のことを例に出したのは、現実社会でこの類の犯罪が起きているからです。しかし私たちは過去の楽しい思い出を自分の都合のいいように解釈して、再び同じ現象を再現しようとするのです。それは不可能なことです。余計な悩み苦しみが生じて、その悩みから脱出できない状態に陥ってしまいます。子供が二、三人いるお母さんがある日、自分の結婚式のアルバムを見返す。綺麗なドレスを身にまとっている自分がとても美しく写っているのです。それで楽しくなります。では、その楽しみを引き金にして、あの状況を再現することはできますか? もしそんな無理なことに挑戦しようとしたならば、頭がおかしくなったと言わざるを得ないのです。その人は、今現在の幸福を台無しにしているのです。
過去は過去で終わりました。思い出しても、今思い出したことで楽しんでいるのです。過去を楽しんでいるのではなくて、今、頭の中で回転している妄想で楽しんでいるのだ、と理解しなくてはいけません。
■「過去は上手くいってきた」とまとめる
別な見方で言えば、今元気でいる・生きているということは、過去で上手くいったということでしょう。だったら、総合的に「過去は上手くいった」とまとめてしまえばいいでしょう。過去が上手くいっているのだから、今元気でいるわけですし。過去にすごく失敗していたら死んでいるかもしれません。
たとえ過去に事故に遭ったり、ケガをしたり、損をしたことがあったとしても、今生きているのですから、上手くいっているのです。そういうことを乗り越えてきたのです。ですからいちいち過去を項目ごとに思い出す必要もなく、「まあ過去は良かった」とまとめてしまうのもいいのです
過去にどんなことがあっても「それでも私は生きている」。それでいいのです。過去をいちいち思い出すとすごく面倒なことになります。
ということで、ふと過去を思い出して楽しい気分になることぐらいは構いませんが、過去に生きるべきではありません。それを栄養にするべきではないのです。今に生きてみましょう。
■出典 『それならブッダにきいてみよう:こころ編2』