『草木成仏の思想:安然と日本人の自然観』
  末木文美士[著]

2,970円(税込)

サンガ新社[刊]

四六判/並製/272ページ

ISBN 978-4-910770-77-2

2024年4月刊行

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紹介

◆「草木が成仏する」という思想のルーツに迫る◆
「草木などの植物も仏になる」という草木成仏論は、いつ、どのように生まれてきた思想なのか?――それは単なる「自然の賛美」でもなければ、「日本古来の自然観」でもない。平安時代に注目され、議論されてきたその思想を根拠から問い直し、自然との向き合い方を再考する。

◆「山川草木悉皆成仏」は間違っていた!◆
日本古来の自然観を代表するかのように扱われる「山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)」という言葉。しかし、仏典にも日本の古典にも、この言葉は存在していなかった――「草木も成仏する」という草木成仏論は、本来の仏教思想ではなく、平安時代の日本の天台僧・安然(あんねん)が、中国天台の著作を大胆に解釈することによって生まれたものであった。現代日本を代表する仏教学者が、安然の思想がどのように生まれたのを丹念に検証しながら、日本人の自然観や災害観をあらためて考える。

安然『斟定草木成仏私記』現代語訳を収録

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目次

■第1章 「山川草木」と「草木国土」

第1節 「山川草木悉皆成仏」は間違っている
第2節 草木成仏論の前提
第3節 忘れられた大思想家安然

■第2章 草木は自ら発心・成仏するか―安然『斟定草木成仏私記』の世界

第1節 『斟定私記』の成立と概観
第2節 さまざまな草木成仏説
第3節 心の真理と草木成仏
第4節 草木成仏論の深化
第5節 密教的草木成仏論へ

■第3章 草木成仏説の基礎付け―安然の密教思想と草木成仏

第1節 草木成仏論の解決へ向けて
第2節 すべてを統合する「一即一切」
第3節 根源としての真如
第4節 真如と草木成仏
第5節 真如の深みへ

■第4章 日本人の自然観と草木成仏

第1節 本覚思想とその批判
第2節 密教と禅の草木論
第3節 東アジアの思想と草木成仏
第4節 「自然」とは何か
第5節 顕冥の世界観と草木成仏

■第5章 自然と災害を考える

第1節 災害天罰論再考
第2節 日本人の災害観
第3節 自然の奥へ

■付 現代語訳『斟定草木成仏私記』

〔1〕諸宗の説を論ず
〔2〕唐決をめぐって
〔3〕当今日本の議論
〔4〕円意の開顕

あとがき
文庫版あとがき
サンガ新社版あとがき
参考文献

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前書きなど

近年、さすがに「山川草木悉皆成仏」に関する世間の言説は、いささか下火になりつつあるようである。これは、この問題に関する歴史的に正しい理解が広まったから、というわけではない。おそらく、東日本大震災後、もはや呑気に「日本的アニミズム」を賛美している状況ではなくなったという事情があるのであろう。しかし、そのような状況であれば一層、古典に戻って日本人がどのように環境世界の問題を理解していたかを、きちんと解明することが不可欠である。(本文より)

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著者プロフィール

末木文美士  (スエキ フミヒコ)  (著/文

末木文美士(すえき・ふみひこ)
1949年、山梨県生まれ。1973年、東京大学文学部印度哲学専修課程卒業、1978年、同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学文学部・人文社会系研究科教授を経て、国際日本文化研究センター教授、総合研究大学院大学文化科学研究科国際日本研究専攻教授併任。現在、東京大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。専門は仏教学、日本思想史、比較思想。著書に『思想としての近代仏教』(中公選書)、『絶望でなく希望を』(ぷねうま舎)、『日本仏教史』(新潮文庫)、『日本思想史』(岩波新書)、『近代日本と仏教』(講談社学術文庫)、『現代仏教論』(新潮新書)、『日本の思想をよむ』(角川書店)、『親鸞』(ミネルヴァ書房)、『日本思想史の射程』(敬文舎)、『近世思想と仏教』(法藏館)など多数ある。