アルボムッレ・スマナサーラ(テーラワーダ仏教(上座仏教)長老)


『ダンマパダ法話全集    第八巻』の刊行を記念し、2023年6月に刊行記念セミナーがオンラインにて開催されました。お釈迦様の智慧を理解し、実践するために、私たちはダンマパダとどのように向き合えばよいのでしょうか。全4回でお届けするスマナサーラ長老のご法話。最終回の第4回は質疑応答です。


第4回    質疑応答


■質問1

──325偈「食事と解脱の関係」の解説に、心の栄養は、「蝕(phassa)」「意思・意欲(mano sañcetanā)」「識(viññāna)」の3つであると書かれていました。3つ目の「識」は五蘊の「色受想行識」の「識」と同じと捉えてよいのでしょうか?    また、「受」「想」「行」は「心の栄養」とは関係ないのでしょうか?

スマナサーラ    Āhāraという単語は「食」と訳されることが多いです。しかし、仏教用語として使われる場合は、文字通りの「食事」という意味ではなく「栄養を取り入れる」という意味になります。英訳するとinput、生きるために、我々はいろいろなものをinputしなくてはいけませんね。
    一般社会でも、生きている者は誰だって食べなくてはいけないと知っているでしょう。食べるというのは物質をinputすることです。それぞれ体に合わせて異なる物質をinputしています。それが普通のāhāra、栄養です。
    しかし肉体に栄養を与えるだけでは、私たちは生きられません。心にも栄養をあげなくちゃいけないんです。
    心のinput systemが、phassa、mano sañcetanā、viññānaです。Phassaというのは眼耳鼻舌身意にデータが触れること。眼耳鼻舌身意にデータが触れると、思考したり妄想したりして心が回転し続けます。
    Viññānaというのは認識すること。認識すると、それが栄養になって、生き続けることができます。
    Mano sañcetanāというのは、生きていきたいという意欲。これがないと我々はうまく生きることができません。
    Phassa、mano sañcetanā、viññānaの3つは常に一緒に働きます。これらは受想行識そのものだと理解していただいて構いません。受がphassa āhāra、行がmano sañcetanā āhāra、想と識がviññāna āhāraになります。
    受想行識はすべて心の栄養になります。受想行識という場合は4つですが、栄養素に分類する際は想と識を1つにまとめるので、全部で3つになります。
    皆様の今の体は、皆様が生まれた時の体ではありませんね。我々の肉体は再生します。再生するために物質を取り入れる、つまり食事を摂っています。
    心の場合は、心が回転することが栄養になります。目耳鼻舌からデータが入ると心が栄養を受け取って、回転するのです。誰にだって「生きていきたい」という衝動があります。だから、心は再生し続けます。
    心の寿命は瞬間だけです。心は瞬間で死にますけど、我々は心が死んだことを経験しません。それくらい速く、心は認識し続けて、再生し続けるのです。
    ロウソクと同じです。再生にはエネルギーが必要です。ロウソクは、火を付けたらロウソクがなくなるまで燃え続けます。ロウソクは自分の熱でロウを溶かしてガスを出します。だからロウがなくなるまで、芯がなくなるまで、炎は恐ろしい速さで再生して燃え続けるのです。
    同じように、心も自分自身でエネルギーを作り続けるのです。


■質問2

──本文の解説に、「識が識を栄養にしている」とありました。「受」と「識」が回転すると、輪廻にも影響を与えるのでしょうか?

スマナサーラ    私たちは「識」を回転することで生きています。今の心が、次の心を生み出す。その心が次の心を生み出す。感情によって「識」が変わって、回転し続ける。
    輪廻も同じことです。「識」が「識」を栄養にしているから、輪廻転生するのです。物質が心を捨てても、心は回転し続けるので、別な物質に移動するか、自分で物質を作るか、ということになるのです。
    「識」が「識」を栄養にしないことにするのを「涅槃に入った」と言います。悟った人は心の栄養を徐々に減らしていって、亡くなった瞬間、最後の瞬間に次の栄養を摂らないことにします。それで輪廻が終了します。


■質問3

──お釈迦様は俗世間の身近な幸せを語っているように感じます。その楽しみを捨てて得る涅槃は、俗世間の幸せとつながっているのでしょうか?

スマナサーラ    俗世間の幸せについてはいろいろな人が語っていますよ。世の中の世俗的な幸福は、それなりに誰にでも語れるんです。新興宗教のエバンジェリストたちも、お金を設ける方法をたくさん語っているでしょ。
    ブッダがなぜブッダかというのは解脱を教えたからです。「宇宙意識で物事を見ると、すべては生まれては消えて、生まれては消えて、生まれては消えるとわかる。修行をしたり神にお祈をしたりして死後天国に生まれるとか、そんなことやったとしても宇宙意識で見ると、終わりなき回転の中にいるのだ。だから、それをなくすために解脱に達しなさい」というのがブッダの教えです。
「真理を発見しました」というのは、俗世間のことではありません。お釈迦様が俗世間の身近な幸せを語っているところはお釈迦様の教えのメインではないのです。ほんのついでの話です。
    仏教は解脱を教える専門的な教えです。仏教を学べば理性が強くなります。理性が強くなると感情に負けることがなくなって、俗世間の幸せも得られます。在家で頑張るぞと思う人々にも、お釈迦様はそれなりに正しい生き方を教えているのです。
    役に立つのは知識ではなく理性です。理性によって、生きるために知識をどう活かせばよいかがわかります。
    怒り嫉妬憎しみなどの感情は理性や知識にダメージを与えます。いくら知識人であっても、カンカンに怒ったら知識は使えなくなっちゃうんです。大学の先生が授業中に怒ってしまったら、もう授業はできませんね。
    仏教を学んでいくと、理性が強くなって、それに反比例するように感情は弱くなっていきます。
    理性が強くなっていくと、やがて人間の問題は感情であるのだとわかります。感情というのは煩悩です。それで「煩悩を全部捨てちゃえ」ということになる。それで解脱に達するのです。
    世の中の人々は、「仏教って哲学でしょう」とか「宗教でしょう」とか、「道徳的な人間として生きる方法を教える教えでしょう」とか、いろいろなことを言いますけど、そんなレベルじゃないんです、仏教は。
    仏教は専門的に解脱を教える教えなのです。


■おわりに

──そろそろ時間になりましたので、最後に一言いただければと思います。

スマナサーラ    皆様がクラウドファンディングを通じて資金を出してくださって、この本ができたことを、ものすごくありがたく感じています。皆様方は、世の中の人々に大事な知識を与える目的で、大変なドネーションをしてくださいました。感謝しております。
    皆様が幸福でありますように。三宝のご加護がありますようにと誓願いたします。

──皆様、今日はご参加いただきましてありがとうございました。サンガ新社ではこれからもクラウドファンディングを通じて皆様の事前予約を受け付けながら、スマナサーラ長老のご著書を出し続けていきたいと考えております。どうかこれからも、応援していただけると光栄です。


2023年6月14日    zoomにて開催
『ダンマパダ法話全集    第八巻』刊行記念オンラインセミナー
「スマナサーラ長老と『ダンマパダ法話全集    第八巻』を読む」
構成:中田亜希


第3回 「地獄の章」「象の章」を読む


お知らせ

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『ダンマパダ法話全集    第八巻』アルボムッレ・スマナサーラ[著]    電子書籍新刊&紙書籍のご紹介


2023年5月に紙書籍で刊行した『ダンマパダ法話全集    第八巻』ですが、2023年9月に電子書籍でも刊行しました。


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『ダンマパダ法話全集    第八巻:第二十一 種々なるものの章/第二十二 地獄の章/第二十三 象の章』アルボムッレ・スマナサーラ[著]
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一つ一つの法話から人生の指針を導き出す!

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第八巻は、「第二十一 種々なるものの章」の16偈、「第二十二 地獄の章」の14偈、「第二十三 象の章」の14偈を解説します。

一つ一つの偈ごとに完結した法話になっていますので、どの巻からでも、どの偈からでも読める法話集としてお読みいただけます。

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世俗的言説で薄めることなく、ストレートに語られる仏法に、
読者は多くの気づきを誘発されるに違いありません。
本書のクリアな語りによって、仏教の底知れぬ魅力と向き合ってください。
まさに仏教は人類の到達点の一つでしょう。
─序文 釈 徹宗
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【本書の内容】
第二十一    種々なるものの章
第二十二    地獄の章
第二十三    象の章
特別掲載    スマナサーラ長老から、東日本大震災直後のメッセージ


お知らせ②

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