山下良道師の師であり禅の修行道場である安泰寺の第六代住職の内山興正老師の哲学を紐解きながら、現代日本仏教の変遷をその変革の当事者としての視線から綴る同時代仏教エッセイ。
第6話 探究の旅の始まり
■いたずらっ子のいない1人部屋のおもちゃ箱
私の大切なおもちゃをきちんと整理して収納していた「おもちゃ箱」は、もののみごとにひっくり返されてしまった。床の上に乱雑に散らばった、そのおもちゃ達を呆然と眺めていた私は、意外なことに絶望に沈んでいたわけではなく、不思議な希望に満ちあふれていたことを、前回お伝えしました。
きちんと整理して収納されていた「おもちゃ箱」とは、宗教(仏教)のそれぞれの宗派の整理し尽くされた教義のことです。他者のいない子ども部屋のなかでは、「おもちゃ箱」は美しく整頓されて小宇宙を作っています。その小宇宙を構成する星のひとつひとつを理解することで、全体の構造もわかり、そのなかで安らぎながら生きることが、仏教徒としての幸せな生き方。もうどこにも迷いはない。ありがたい、ありがたい。
はずだったのに……。