(ノンフィクション作家)


佐々涼子


遅効性のくすり


 仏教の信徒になれるのではないかと思い、世界中の仏教寺院を渡り歩いたことがある。

でも、結局私には信心は向いていなかった。「佐々さんは、絶対にこちらに戻ってきますよ」と、私をよく知っている担当編集者が言っていた。こちらとは「ノンフィクション」を書く世界。さすが編集者、よくわかっていらっしゃる。私は世俗にまみれて生きるのが性に合っている。

 こんな私が新サンガのための原稿を依頼されてしまった。さて、何が書けるだろう。


 ある日私はインドのブッダガヤにいた。そこは仏教徒の聖地。悟りを開いたとされる場所には、菩提樹があり、その菩提樹を囲むように巨大な石の仏塔が建っている。

 仏教徒たちは、その周りをぐるぐると巡礼する。バングラデシュの僧侶についていった私は、夜明けとともにそこへ行き、毎日通路の端で瞑想をする。とはいえ、まともに瞑想したのは最初の数日で、結局私はそこで巡礼する人々を飽かず眺めていた。