ブラザー・ファップ・ユン(Brother Chân Pháp Dung    釈真法容)


2024年3月、禅僧ティク・ナット・ハン師(2022年遷化)が創設したプラムヴィレッジから僧侶が来日し、実践の指導を行なう『プラムヴィレッジマインドフルネスジャパンツアー2024 Being Peace』が開催されます。
今回来日されるダルマティーチャーの中では「ブラザー・ファップ・ユン」が最古参。プラムヴィレッジでも中心的な存在のひとりです。
ブラザー・ファップ・ユンは世界各地の「WAKE UP!」の活動と深い関わりを持っており、9年前の2015年に来日した際には、日本の若い人たちとともに原宿で行われた「WAKE UP!    若者向け一日瞑想会」の活動に参加されました。
当時のツアー終了後、日本のサンガメンバーである島田啓介さんがブラザー・ファップ・ユンにインタビューを行い、日本の印象や、世界各地の「WAKE UP!」の活動についてお話を伺いました。
ブラザー・ファップ・ユンのフレッシュな感想や、生き生きと話されている様子をお楽しみください。


第1回    東京とマインドフルネス


■今こそ日本の人にはプラクティスが必要

島田    日本の印象はいかがですか?    また、来日するに当たって日本や日本の人にどんなことを期待していましたか?

ファップ・ユン    日本を訪れるのは今回が初めてです。ぼくはアメリカのロサンゼルスで育ちました。住んでいたのがリトルトーキョーのすぐ近くだったんです。リトルトーキョーは楽しくて、よく行っていました。リトルトーキョーで日本のドキュメンタリー映画を見たこともありますよ。
    南カリフォルニア大学で建築の勉強をしていたので、大学時代は日本のアーティストの作品に触れ、多大な影響を受けました。安藤忠雄など、日本のアーティストは、とても創造性が豊かです。自然の要素をアートに取り入れているところも大好きです。日本のアーティストに憧れ、日本の建築に興味を持っていたので、ずっと日本に行きたいと思っていました。
    東京も大都市ですが、ロサンゼルスよりも自然が多い感じがします。想像以上に自然が多かったですね。
    昔から日本の人たちは、精神的なことをとても大切にしてきましたよね。お互いの存在をリスペクトし合って、公共の場や、コミュニティーを大事にする。東京は都会ですけれども、多くの木や花があって、公共の空間が、非常に丁寧に扱われています。
    他人をリスペクトしたり、みんなで使う場所を大事にしたりすることは、仏教の素晴らしいプラクティスです。まさに無我の実践ではないかと感じます。
    ぼくはこれまで、シンガポールや韓国、中国、香港などのアジア諸国を訪問しました。どの国も経済的に発展していて、文化的にもかなり西洋化されています。もはやアジアの国とか、東洋の国とは言えないような感じです。西洋の国よりも西洋的という気さえしますね。ハイパーカルチャーというのでしょうか。しかし、その奥には他人に対する深い敬意があるのを感じます。
    その一方で、ぼくは日本に来て、今こそ日本の人にはプラクティスが必要ではないか、とも思いました。
    昔の日本の人たちは、仏教を実践し、それを発展させてきました。しかし現代の日本の人たちは、テクノロジーや物質的なことなどばかりに意識が向いていて、良識を持つことや、真実を知ること、人生の美しさを感じることなど、心にとって大切なことが、おざなりになっているように感じます。精神的なことが軽視されているのではないでしょうか。日本のお寺や教会などの伝統がその効力を失い、役割を果たせない状況にあるのではないかと思います。
    感情を抑制していると言ったらよいのか、東京の地下鉄でも、皆さんは他人に迷惑をかけないようにと、とても気にしていますよね。本当はリラックスしたいのに、みんながお互いにびくびくしている、そんなふうに感じました。
    東京の地下鉄に乗ったとき、子どもたちが近くにいたので、ぼくは口笛を吹いたり、「ニャー、ニャー」と猫の鳴き真似(まね)をして見せたりして、みんなと仲良く遊んでいたんです。スーツを着ている周りのおとなたちは怪訝(けげん)な顔を見せましたが、ぼくが子どもと一緒に遊んでいることがわかると、みんなほっとしたような笑顔を浮かべていました。
    みんな本当はリラックスしたいんじゃないでしょうかね。誰も他人を恐れながら地下鉄に座っていたくはないはずですよね。
    約2週間という短い日本滞在ですが、日本の印象として、今そんなことを感じています。
    日本や日本の人に期待していたこと、というご質問もありましたが、期待は特になく、ただ日本に学びたいと思って来たというのが答えですね。

■マインドフルな一歩

島田    今回のツアーの中で、何がもっとも印象的でしたか?

ファップ・ユン    たくさんありますが、一つ挙げるとすると、ある女の子との出会いですね。日本のテレビで、ティク・ナット・ハン師とプラムヴィレッジの特集が放送されたそうなんです。その放送をある10歳の女の子が見て、「わたしもリトリートに行きたい。行ける?」とお母さんに言って、実際に富士山のリトリートに来たんですよ。素晴らしいことですよね。
    富士山でのリトリートの後、その子は原宿で行われた「WAKE UP!」の瞑想フラッシュモブにもお母さんと参加してくれました。その子は神宮橋から歩いて5分のところに住んでいて、モブの会場が家の近所だったんです。それでフラッシュモブに参加している様子をもし学校の友だちに見られたら、と少し心配していました。瞑想中もみんなの陰に隠れるようにして、後ろのほうに座っていました。
    神宮橋で座る瞑想をしたあと、ぼくたちは明治神宮の森の中で歩く瞑想をしました。びくびくしていた女の子も、ここまで来ればもう友だちに見つかることはないと安心したのか、ぼくの隣に来たんです。ぼくたちは手をつないで森の中をゆっくりと歩きました。
    そのまま代々木公園まで歩いて、そこでお昼にしました。お昼のあと、女の子は一度家に帰ったのですが、ぼくたちがダルマディスカッションをしている場に、学校の友だちを連れてきたんですよ。さっきまで友だちに見つからないかとびくびくしていたのに。

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ブラザー・ファップ・ユンとキッズプログラムに参加された親子。
女の子(左から三人目)がWAKE UP! にも参加した。


「歩く瞑想をしているときに、娘の中で何かが起きたようです。そのように感じました」と、あとで女の子のお母さんがぼくたちに教えてくれました。
    彼女は学んだんですね。
    明治神宮の森の中を歩いたとき、女の子の一歩一歩は、とてもマインドフルでした。小さい子でも学ぶことができるのです。彼女はここで学んだことを、ずっと忘れないでしょうね。
    この小さな経験が、今回のツアーではとくに印象的で、ぼくにとって忘れられない経験となりました。

(第2回につづく)


取材/島田啓介
翻訳・構成/中田亜希
*本記事は『ティク・ナット・ハンマインドフルネスの教え』(サンガ)を元に編集したものです。



第2回    世界と日本の「WAKE UP!」

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2024年3月、禅僧ティク・ナット・ハン師(2022年遷化)が創設したプラムヴィレッジから僧侶が来日し、実践の指導を行なう『プラムヴィレッジマインドフルネスジャパンツアー2024 Being Peace』が開催されます。


■ジャパンツアー趣旨

ティク・ナット・ハン師は「平和な世界は、自分の心の平和から生まれる」と説きました。
その波は、「私」から周りへ、そして世界へと広がっていきます。
そのためにはまず、私たちの中にある、苦しみ、悲しみ、怒りを解放し、平安な心を育むことが大切です。
今回のツアーは、テーマを「Being Peace~平和を生きる~」とし、来日するゲストの僧侶の在り方(Being)に直に触れながら、内なる平和(Being Peace)を育むための実践を共にします。

今回の来日は、ベトナムで執り行われるティク・ナット・ハン師三回忌に世界各地から集まるダルマティーチャー達が、法要終了後にアジア各地を訪れるツアーの一環です。広島を皮切りに、鎌倉、東京、愛知を巡る合計で9つの催しが行われます。

■ジャパンツアー詳細

Mindfulness Japan Tour 2024
Being Peace~平和を生きるウェブサイト
https://tnhsangha.wixsite.com/mindfuljptour2024

■講師/来日する僧侶のご紹介

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◆ブラザー・ファップ・ユン
世界のプラムヴィレッジの中でも最も敬愛されるダルマティーチャーのひとり。元建築士・デザイナー。あたたかく親しみやすい人柄とパワフルな法話に定評がある。アメリカのディアパーク僧院に暮らす。

◆シスター・リン・ニェム
タイ国生まれ、アメリカで学ぶ。ユニセフなど数多くのNGO団体で働く。タイ国プラムヴィレッジ建立に尽力し、重要な役割を担った。タイ国プラムヴィレッジに暮らす。

◆シスター・キン・ニェム
15歳で出家。15年以上ティク・ナット・ハン師のアテンド(付き人)を務めた。現在アメリカのディアパーク僧院に暮らし、お茶や笑いを分かち合うことを楽しんでいる。

◆ブラザー・ファップ・コイ
現在フランスのプラムヴィレッジで暮らす。山でのハイキングや自然の中での実践を好み、草木の手入れや動物の保護に心を寄せている。自称「怠け者の僧侶(Lazy monk)」。

◆シスター・チャイ・ニェム
アメリカで生まれ、子ども時代を横浜で過ごす。出家前は、世界的に活躍するプロのヴァイオリニスト。日本人出家者で初めてのダルマティーチャーとなる。

より詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。
https://tnhsangha.wixsite.com/mindfuljptour2024/monastics-profile



主催:プラムヴィレッジ招聘委員会 
共催:プラムヴィレッジ
            鎌倉イベント/ZEN2.0
協力:マインドフルネス・ビレッジ
            広島イベント/NPO法人ワンシード、イエスズ会長束黙想の家、
                                        株式会社PLAY SPACE、イニアビ農園 
後援:広島イベント/広島市、中国新聞 

主催:プラムヴィレッジ招聘委員会
Mindfulness Japan Tour2024 Being Peace事務局
連絡先: beingpeace.jp@gmail.com

ウェブサイト     https://www.tnhjapan.org/ 
Facebook     https://www.facebook.com/tnhjapan 
Youtube     https://www.youtube.com/@plumvillageinjapanese




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『サンガジャパンプラス Vol.3』    好評発売中!


シスター・チャイ島田啓介さんによるZen2.0での対談「ティク・ナット・ハン禅師が伝えたインタービーイングの世界」を収録した『サンガジャパンプラスVol.3』が2024年3月2日に発売になりました。

なんとか『プラムヴィレッジマインドフルネスジャパンツアー2024 Being Peace』の開催に間に合いました!

森竹ひろこ(コマメ)さんによるインタビューシリーズ 今ここにある仏教[第1回]「ティク・ナット・ハンを日本に伝え続ける実践と両輪の翻訳者――池田久代」も掲載されています。

ぜひジャパンツアー2024のお供に『サンガジャパンプラスVol.3』をお読みになってください!

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