山下良道(鎌倉一法庵)

山下良道師の師であり禅の修行道場である安泰寺の第六代住職の内山興正老師の哲学を紐解きながら、現代日本仏教の変遷をその変革の当事者としての視線から綴る同時代仏教エッセイ。「もう1つの部屋」をめぐるシーズン5の第3回。
※最後のセクションで『マトリックス・レザレクションズ』のネタバレがありますのでご注意を。


第3話    二重構造を理解する仲間はどこに


■矛盾の生まれる構造の整理

    これまでこの連載のなかで、原理的にどうしても違う2つのものに直面したとき、必然的に起きてしまう人間ドラマを追いかけてきました。絶対矛盾に苦しみながら、誤魔化さないで耐え抜いた果てに、そこから生まれてくる何かが、当事者だけではなく、すべての人にとても大事なものだからです。その原理的に違う代表的なものが、マインドフルネスと只管打坐。そしてスピリチュアルとサイエンスでした。

    スピリチュアルとサイエンスの間にある齟齬も、昨今、社会的に大問題になってます。ヨーガなどのスピリチュアルな価値観を大事にしてきた人達が、原理的に違うからという理由でサイエンスを受け容れることが気持ち的にできないでいます。その結果として、現在の新型コロナ禍を切り抜ける鍵となるmRNAワクチンをどうしても打つ気になれない。そういう気分ではないようです。オミクロン株がこの日本でも猛威をふるうなか、それはとても危険なことだと感染症の現場で働く医師達が強く警告してますが、ではどう説得したらいいのか?    そもそもスピリチュアルとサイエンスがまったく違う次元のものだと理解してもらわないと説得は無理でしょう。

    スピリチュアルの原理を、サイエンスの次元に持ち込む必要はないし、持ち込んではいけない。サイエンスをサイエンスとしてのみ判断をする。ワクチンは純粋に医学的にメリットとデメリットを測りにかけて、打つか打たないを決めるだけ。スピリチュアルとサイエンスをきちんと棲み分ける。何故棲み分けができるかというと、スピリチュアルはまさに「もうひとつの部屋のもう一人」の領域だから。今までいた部屋の今までの自分の話ではないから。だから、今までずっと住んできた部屋のことは、すべてサイエンスにお任せすればいいだけです。となると、「もうひとつの部屋のもう一人」の究明が、ワクチンを巡る大混乱に終止符を打つ鍵にもなります。では、我々は先を急ぎましょう。