熊野宏昭(早稲田大学人間科学学術院教授)

『EQ2.0』&『実践!マインドフルネス』シリーズ 刊行記念

第6回    体が語る心の声:マインドフルネスで読み解く苦しみのサイン

    マインドフルネス瞑想は、「自分をもっと理解したい」「人間関係を円滑にしたい」といった悩みに答える強力なツールです。呼吸や身体感覚に注意を向けることで、自分の感情や思考を客観的に観察する力が養われます。さらに、周囲の状況や他者の感情にも気づけるようになり、対人関係を調整する力(EQ)も自然と高まります。
    この記事では、マインドフルネスを使ってEQ(感情的知性)をどのように高めるのか、マインドフルネス研究の第一人者である早稲田大学人間科学学術院教授の熊野宏昭先生が、具体的な実践方法とともに解説します。


■悩みと体の具合の相関関係

    私はもともと心身医学が専門です。悩むと体調が悪くなり、体が弱ると心も元気がなくなる──そんな心と体の相関関係を心療内科で診てきました。主にストレスを抱えて体にさまざまな症状が出ている患者さんの治療をしてきたわけですが、ある時ふと、「体に症状が出てきてくれればしめたもんだ」と気づいたのです。
    心というのはとらえどころがありません。悩み事を頭の中でぐるぐる考えて、でもどうにもならなくてますます不安になる。でも、体に症状として現れてくれれば、体を緩めたりケアしてあげることで、心の悩みも解消できることに気づいたからです。
    それと同じことを、マインドフルネス瞑想ではかなりミクロなレベルで行っています。呼吸に注意を向けている途中に出てきた考え事を呼吸と一緒に見つめてみると、「今呼吸が不規則になったのは、こういうことを考えているからなのか」と気づく。体の緊張や歪みが解消していくと、心の悩みも解消し、呼吸も規則的に戻る──そんな変化が起こるのです。


■実践!マインドフルネス

    では実際にマインドフルネス瞑想をやってみましょう。まず、始める前に、先ほども行った〔今現在の体験を測る5つの質問項目〕に答えてみてください。

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準備
    1. 背筋を伸ばして、目は軽く閉じましょう。
    2. 手は手のひらを下にして膝の上に置くか、お腹の前で重ねるなど、落ち着く位置に置いてください。
    3. 肩の力は抜いて、なるべく肩の線がまっすぐになるようにしましょう。

ステップ1:自分の状態を感じ取る
    まず、今の自分がどんな状態かを感じ取ってみましょう。
・ちょっと肩が凝っているな
・少し疲れているな
など、あまり細かくなくてもいいので、感じ取ってみてください。

ステップ2:呼吸に注意を向ける
    1. 呼吸していることが感じられる場所(お腹や胸など)に注意を向けます。
    2. 「ふくらみ、ふくらみ」「ちぢみ、ちぢみ」と、体が自然にする呼吸を気づきが追いかけていく感じで行います。
    3. やっていると、どこかでふっと途切れる感じが出てきます。そのときは、また呼吸に注意を向け直しましょう。

ステップ3:周りの感覚にも注意を向ける
・周りの音や風、光にも注意を向けて、「音、音」「風、風」「光、光」とやってみてもいいでしょう。
・自分が注意を向ける感覚を何か決めて、少しやってみてください。

ステップ4:雑念が出たら戻る
    1. 呼吸や五感に気持ちを向けていると、途中で何か考え事が浮かんできます。
    2. 何が出てきたのかなと少し考え事に注意を向けてみましょう。
    3. しばらく経ったら、「雑念、雑念」あるいは「思い、思い」と声を掛けて、その思いからちょっと離れます。
    4. 再び「ふくらみ、ふくらみ」「音、音」と、感覚に注意を向けていきましょう。

    これを繰り返していきます。

〜実践タイム〜


■苦しみの土台としての「私」

    実践してみていかがでしたでしょうか。先ほども行った〔今現在の体験を測る5つの質問項目〕に再度答えてみてください。過去2回と比べて、どのように変化したでしょうか。

    マインドフルネス瞑想には、さらに先があります。もう少し幅広く気を配っていく──そういうやり方に移行することが多いです。

    今までの実践では、呼吸の感覚に注意を向けながら、音や風、光などにも気を配り、かなり注意を分割して感覚を捉えていました。そこからさらにもう一歩踏み込んでいくのが、観察瞑想、洞察瞑想です。

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『呼吸による癒し:実践ヴィパッサナー瞑想』
ラリー・ローゼンバーグ[著]/井上ウィマラ[訳](春秋社、2001年)

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    先ほどご紹介した『死の光に照らされて』の著者、ラリー・ローゼンバーグが書かれた『呼吸による癒し:実践ヴィパッサナー瞑想』(春秋社、2001年)という本があります。
    この本は、私がこれまでに日本語でも英語でも繰り返し読んでいるもので、読むたびに新しい気づきを得られる、本当に素晴らしい一冊です。
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    この本から一部引用しました。
    「結局のところ、すべての苦しみの根本的な土台となっているのは「私」とか「私のもの」に対する執着なのです。」
    つまり、「私が幸せになりたい」「私が不安になりたくない」「私がいい思いをしたい」と「私」にこだわることで、心ここにあらずの状態になり、現実が見えなくなってしまう。
    しかし、このような「至高」の依存症を持っているのが、我々人間の基本的な特徴でもあります。
    ブッダはその教えを要約するように求められたとき、およそこのように答えました

「いかなる状況においても、何物をも『私』だとか『私のもの』として執着してはならない。」

    これがブッダの教えのエッセンスです。


★ここもcheck!
    敬愛するラリー・ローゼンバーグの著書には、ご紹介した2冊のほかに、『〈目覚め〉への3つのステップ:マインドフルネスを生活に生かす実践』(春秋社)があります。こちらは藤田一照先生が翻訳されています。比較的最近読みましたが、これも本当に素晴らしい本でした。
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『〈目覚め〉への3つのステップ:マインドフルネスを生活に生かす実践』
ラリー・ローゼンバーグ[著]/藤田一照[訳](春秋社、2018年)

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2025年2月5日    zoomにて開催
『EQ2.0』刊行記念オンラインセミナー「マインドフルネス&EQで磨く新しいリーダーシップ」第2回「マインドフルネスとEQで心の平穏と共感を育てる」を元に再構成
構成:中田亜希


第5回    そのままにしておく:マインドフルネスが教える不安との向き合い方
第7回 「私」を超えて:マインドフルネスが切りひらく無我の境地





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