武井浩三(経営思想家、社会活動家、社会システムデザイナー)
湯川鶴章(ITジャーナリスト)


社会システムデザイナーとして活動されている武井浩三さんと、テクノロジーの第一線で次のトレンドを予測し続けてきたITジャーナリスト湯川鶴章さんが、「Web3から創る、多様でマインドフルな時代の可能性」をテーマに、近未来のお金のあり方や組織のあり方、富を分かち合う方法について語り合います。全5回記事の第4回。


第4回    Web3とAIが生みだす富


■Web3は半端ない富を生む

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湯川    Web2.0と比較にならないぐらいWeb3は社会に富を生みます。いま世界で一番賢いAIはGPT-3(ジーピーティースリー)と呼ばれるようなAIです。GPT-3に何か尋ねると、人間が書いた文章かAIが書いた文章かわからないぐらい、完璧なものを作って答えてくれます。
    GPT-3がどんなデータを元に学習したかというと、インターネット上で無料で取ることのできるデータなんですよね。Wikipediaやブログ記事、ニュース記事やTwitterの投稿、そういう無料の情報だけでGPT-3は非常に賢くなりました。
    Web2.0の時代、インターネット企業は我々の出している情報だけで著しく儲かるようになりました。でも実は我々はもっともっといろんな情報を作っています。出してはいないんですけどね。たとえば医療情報や健康データ、財務データ、いろいろありますけど、もしそういうデータもすべて学習させれば、AIは今まで以上に半端ないくらい賢くなります。
    AIが半端ないくらい賢くなると、半端ないくらいの富を生み出します。ですから実はWeb3になったほうが、社会は一気に進んで豊かになっていくと思うんですよね。


■ほんとうにそんなことができるのか

    まあでも、実際にそんなことができるのかということです。

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    というのも今の我々は「個人情報を出すのはよくないよね」と思っているからです。近い将来、「個人情報を出したほうがAIが賢くなって富を生むんだ」というふうに我々の価値観が変わるのかというのが1つ目のポイント。2つ目は、莫大な富が生まれた時にそれをどういうふうに分けるのかという問題です。今みたいにテクノロジー大手が全部持っていっていいのか。みんなに平等に分けるにはどうすればいいのか。これが2つ目のポイントになります。

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    個人データを我々が積極的に出すためには、3つの条件がそろえばいいんじゃないかと僕は思っています。1つはセキュリティです。悪用されないよね、という安心感。2つ目は個人データを出したことによって個人が何か得をすること。3つ目はそれが社会貢献になるとわかることです。


■個人データを出すことは社会貢献になる

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    まず社会貢献の話ですけれども、たとえばガンというのはまだまだメカニズムが解明されていません。なぜ解明されていないかというと、被験者の数、データの数が少なすぎるからです。しかし、もし地球上の70億人の食事、運動、睡眠、ライフスタイル、DNAなどのデータと、その人がガンになったかどうかというデータをAIに学習させれば、AIはパターンを見つけるのが人間を遥かに超えて上手ですから、こういうライフスタイル、こういうDNA、こういうものを食べて、こういうふうな運動をしている人のガンになる確率は何パーセントです、というのを割と正確に予測できるようになっていきます。
    そうなると、こういう食生活はやめよう、ということも可能になっていくのではないでしょうか。今は食生活を変えようが変えまいが、よくわからない。タバコを吸ったらガンになる確率は高いかもしれないけど、ヘビースモーカーだった俺のおじいちゃんはガンにならなかったし、みたいなことを思っちゃうので、あまり真剣にライフスタイルを変えようとは思わない。でもデータが全部正確に取れちゃうと、何をすればガンになる確率が高まるかというのがはっきりわかるようになってくるので、そうするとみんなライフスタイルを変えるようになるんじゃないか、とOpenMindというボランティア団体が言っています。
    痴呆や鬱病もデータが大量に取れるようになったらメカニズムがわかるようになるかもしれません。幸福とは何かということも今はなんだかよくわからないですけど、それもデータをたくさん取れるようになるとわかってくるのではないかと思います。僕はまあ瞑想でめちゃめちゃ幸福になるんですけど、ひょっとしたら瞑想なんかやったところで幸福にならない人もいて、この人には効く、この人には効かないとういうこともデータによってはっきりわかってくると、今より幸福になる人が増えていく可能性があるんですよね。

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    経済もそうです。ネット上にある無料のデータだけでも、テクノロジー大手は膨大な富を生み出しました。我々が隠しているデータを共有することになれば、当然のことながら経済はもっと上向くことでしょう。


■セキュリティ

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「でもセキュリティはどうなの?」と心配になりますよね。でもブロックチェーンというのはそもそも非常にセキュリティの高いシステムです。公開していいSBTは公開して、公開したくないデータ、たとえば自分がお金をいくら持っているとか、どんな病気になったかとか、家族が何人いて、とか、そんなデータは別のところに隠しておくことができます。
    SBTでは、相手にわからないような方法で渡すとか、10分間だけ共有するとか、非常に細かく設定ができるようになっています。自分のデータを全部公開する必要はなくて、AIが学習するのに必要なデータだけをうまく提供できるような仕組みが徐々にできあがってきています。


■インセンティブ

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    インセンティブがないと、みんなデータを共有しないんじゃないかと僕は思っているんですけど、この話をすると、「いや、お金のためだからといって自分のデータを共有したりなんかしないですよ」と言う方がいらっしゃいます。
    僕は昔から割と自分のスケジュールでも何でも公開する派で、うちの奥さんに「そんなに情報を公開していたら大変なことになるよ。バカじゃないの」と言われています。
    でもうちの奥さんなんかショッピングモールに行って、「高級車が当たります!    ここに住所・氏名・年齢・職業・電話番号を書いてください」と言われるとさらさらと書いちゃうんですよ。車なんて当たるわけがないのに個人情報をぼんぼん出しちゃうんです。ですから、インセンティブがあれば意外と個人情報を平気で出すんじゃないかなというのが僕の考えです。


■企業よりも消費者のほうがデータ共有に積極的

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    インセンティブがあれば企業よりも消費者のほうがデータ共有に積極的になるのではないかと思います。
    企業もデータ共有しようとはしていて、電子カルテの話も数十年前から言われていますけど、現実問題データ共有はまだまだ難しいのが実情です。だから1つの病院に行ってから別の病院に行った場合に、「レントゲンを撮りますよ」「いや、前の病院で撮りましたけど」「いや、うちの病院でも撮ってください」といったやりとりが起きてしまうんですね。明らかに余分な医療費がかかってしまっています。
    データを集めたほうが社会は発展すると昔から気づいてはいるけれども、みんなが他の企業がどう動くかを様子見しているので、現実的にデータ共有が進んでいかない。だから消費者側がデータを持つほうが、データ共有が進むのではないかということになります。
    こういう話をすると、「いやあ、それって海外の話でしょ。日本人はプライバシーを重視するのでそんな未来は来ないですよ」とけっこう言われるので、こんなデータをご紹介します。

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    これは2020年4月のデータです。ネット大手が個人情報を収集していることを認識している人は、日本が42%、日本以外は74%です。「GoogleとかFacebookって個人データを取っていて危ないよね」と海外の人はだいたいみんな思っているけれども、日本人はそんなことに関心はない。プライバシーポリシーを一切読まない人も日本が21%、日本以外は10%以下です。
    だから「プライバシーを大事にしている国民です」と言っているのは口だけなんじゃないかなと思うんですよね。「個人情報は大事にしましょう」と政府からも小学校の先生からもずっと言われてきたので、出すのはよくないことだと思ってはいるんですけど、実際は平気で出しちゃうということがこのアンケートからわかるのかなと思います。

(第5回につづく)


2022年9月11日    Zen2.0 2022    鎌倉・建長寺にて
構成:中田亜希
撮影:編集部



第3回 Web3はなぜ生まれたのか?
第5回    ヒエラルキーがない組織へ

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Zen2.0
禅とマインドフルネスの国際カンファレンス2023
開催へ向けて

    ZEN・マインドフルネスと先端科学の国際カンファレンスZem2.0。
    9月2日(土)、3日(日)に会場(北鎌倉    臨済宗建長寺)+オンラインで開催。
    テクノロジーと古来の叡智のコラボレーションから、調和的な世界を創造します。

2023年    Zen2.0のテーマ

Be like Water    加速の時代に、水のごとく在る
〜Source, Flow, Alignment〜

    世界のあちこちに顕在化している分断や対立だけでなく、地球温暖化の問題や大手テック企業での大量解雇・AI技術の加速度的な進展など、時代のスピードは加速し、変化の大波が明らかに来ています。
    そのような環境下だからこそ、私たち一人ひとりがしっかり本来の自分・大切なコアの価値観(Source)に繋がり、そして水源から湧き出る泉が川となって流れるが如く、そこからのエネルギーで自然な流れ(Flow)が創り出され、そして、私たちのコミュニティ・社会・地球の中でそれぞれのパーパスに繋がったアクションに繋がり(Alignment)、広い海へと循環・浸透していく。今年のZen2.0ではその想いを「Be like Water    〜Source, Flow, Alignment〜」という言葉に込めました。
    禅語に「一滴潤乾坤(いってきけんこんをうるおす)」という言葉があります。一滴の水が大地を潤し、樹木草花を育み、緑に輝く地球を作りあげている大いなる循環。ひとしずくの水滴が、循環の水脈につながっているという事実は、世界がどう変化しようとも、古来から今も変わりません。私たち一人ひとりが、自分の思考や感情・身体との関係を深めることで、この「ひとしずくの力」に気づき、内面から湧き出る力と世界を繋げ、変化と加速の時代を水のように、自由自在に生きていく。今年のZen2.0では、この本質への気づきを深め、共に語り合える場をつくっていきます。

開催概要

    • 日程:2023年9月2日(土)・3日(日)
    • 参加方法:会場(北鎌倉    臨済宗建長寺)+オンライン(zoom)
    • 詳細・申込:https://www.zen20.jp

登壇者の皆様

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    藤田 一照(曹洞宗僧侶)
    横田 南嶺(臨済宗円覚寺派管長)
    ジョアン・ハリファックス(禅僧、医療人類学者(PhD))
    前野 隆司(慶應義塾大学)
    サティシュ・クマール(平和活動家、Schumacher College創始者)
    ももえ(Zen Eating 代表)
    三宅 陽一郎 (ゲームAI開発者、東京大学)
    荻野 淳也(MiLI代表)
    茂木 健一郎(脳科学者)
    伊藤 穰一(千葉工業大学)
    有本 奈緒美(ネイリスト、社会活動家、起業家、Plumeria Nail代表)
    鬼木 基行(プライムプラネットエナジー&ソリューションズ(株)
    スティーブン・マーフィー重松(スタンフォード大学)
    和 真音(一般社団法人シンギング・リン協会代表理事)
    原田 友美(イエナプランスクール大日向小学校グループリーダー)
    工藤 煉山(尺八演奏家)
    小笠原 和葉(ボディーワーカー/臨床身体学研究者)
    SHIHO(モデル)
    宮崎 姿菜子(太極拳研究家/気功整体療法士)
    藤野 正寛 (NTT コミュニケーション科学基礎研究所)
    鎌田 東二(京都大学名誉教授)
    水野 みち(株式会社日本マンパワー)
    二木 あい(フリーダイバー・水族表現家)
    oba(ダンサー・モデル・庭師)
    (順不同・敬称略)

プログラムのご紹介

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プログラムの詳細は    https://www.zen20.jp    を御覧ください。
    ※プログラムは変更になる可能性があります。

チケット情報

    チケットは、Zen2.0公式ホームページにて販売開始しております。お得な「早割」は8月19日までの販売期間となりますので、お見逃しなく!

<リアル参加チケット>
    通常:28,000円
    早割:23,000円(8月19日まで)
    学割:9,000円

<オンライン参加チケット>
    通常:12,000円
    早割:8,800円(8月19日まで)
    学割:4,400円

※いずれも2日間通しでの販売となります。
※チケット購入者は、後日動画でのアーカイブ配信をご覧いただけます。

    チケット購入はこちら→  https://www.zen20.jp/?utm_source=other&utm_medium=referral&utm_campaign=nl2

主催:一般社団法人Zen2.0について

    Zen2.0は、先端テクノロジーと禅の精神性の融合を目指し、2017年以来、北鎌倉・建長寺を舞台に毎年開催されている国際カンファレンスです。今年で7回目の開催となります。登壇者は、ヨーロッパ・北米・アジアなど世界各国から参加し、日本語と英語の同時通訳で参加できます。これまで、のべ登壇者数165名・のべ協賛企業70社・のべ参加者数3,000名・コミュニティ4,200の規模に拡大しています。
    ぜひ、Zen2.0のカンファレンスとコミュニティにご参加ください。

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