アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日のテーマは「うつ病の友達にしてあげられること」です。

[Q]

    友達がうつ病になってしまい、時々会って話を聞いてあげたりします。しかし、病状が悪化して入院してしまいました。お見舞いに行っても暗い話ばかりです。そういう人に、どのような言葉をかけてあげればいいのでしょうか?    家族もいるので、明るい言葉をかけてあげたいなと思うのですが、どのように接したらいいでしょうか?

[A]

■うつ病には誰もが陥りやすい


    難しい問題ですね。うつ病というのはかかりやすい病気です。基本的に、小さな子供の頃から「人生には赤いじゅうたんは敷かれていない。期待・希望通りにはならない。人生はいつでもデコボコで茨の道である」と肝に銘じなくてはいけないのですが、皆それを認めようとしません。ですから、自分の業を適切に投資して、善行為によって育てて、大収穫を得られるという道を捨ててしまっているのです
    私たちは〝期待通りにならない〟という事実を直視する代わりに、いつでも「こんなはずじゃないのに」「もっと楽にいくはず」「もっと幸せになるはず」という根拠のない妄想を抱いて生きているのです。しかし現実は全く違います。そこで妄想と現実がぶつかってうつ病になってしまうのです。「こんなはずでは……」と思った時点で、「自分がやってきたことは無駄だったんだ」という暗い気持ちになってしまうのです。そうすると、次のことに取り組むエネルギーも無くなってしまうのです。
    理屈で言えば、仕事をすればするほど元気にならなければいけないし、頑張れば頑張るほど元気にならなければおかしいのです。大体、四十代や五十代はとても危険な時期ですね。特に男性は四十代になったらとことん気をつけなくてはいけません。女性は比較的うつにはなりにくいみたいです。女性はやることがあって忙しくて、結果を考える暇さえないほどですから。男性はその年代になってくると、「こんなものか……」と将来が見えてしまうのです。それまでずっと自分が行く道には両側にキレイな花が咲いていて、分厚いじゅうたんが敷いてあるものだと勘違いしていたのですね。ですから、うつが発病してからどうすればいいのかと聞かれても困ります。つまり、幼い頃から生き方のアプローチを間違えていたということですから。それを治すのは不可能ではありませんが難しいことです。

■ダメ元で新しいことに挑戦する

    それも本人が自分で考えと生き方を直さなければいけません。症状は薬で抑えることができますが、脳の配線(生き方)を薬で変えることはできません。だから脳を全体的に開発させなくてはいけないのです。新たに配線をし直さなければいけません。それは大胆なことに挑戦することでもあります。できそうにもないことに「ダメで元々だ」という感じで挑戦してみることです。失敗しても構いません、ダメ元ですからね。しかし、「挑戦してみて楽しかった」というポジティブなデータは脳に入ってきます。そのデータを繰り返すことによって、脳がポジティブに生きるコツをわかってくる、理解するのです。とにかく脳の配線を新しく作らないといけません。
    本人が大胆なことに恐れず挑戦することですね。男性の場合は冒険家など本当に大胆なことやる人がいますし、恐れを知らない人もいます。そういう人はうつ病にはなりません。人生は大失敗かもしれませんが、全然気にもしません。そして更に挑戦をする。奥さんに怒鳴られてもまたやる。例え全て失敗したとしても、本人はいつでもやる気だけは満々という感じで、うつ病にならない脳の配線ができているのです。極端すぎるとそれも困りますけどね。

■思考回路のプログラムを変える

    うつ病の人が前と同じ生活環境に戻ってきて、家族と同じパターンで付き合っていると、結局はうつ病を維持するだけのデータしか脳に入ってきません。違うデータが入って来ないと結果は変わりません。ですから、入院している場合は医者や看護師さんたちと仲良くするとかして、新しい世界を作ってみるのです。あるいは、やったことのないスポーツをやってみるとか。好きなことがあればいいのですが、そういう人に限って何の趣味も無かったりしますね。
    強制的にでも体や頭を使うスポーツや将棋などさせて、何とか挑戦する生き方・脳の配線を新しく作らなくてはいけません。そうでなければそのまま壊れていくだけです。うつ病は甘く見てはいけないとても危険な病気です。脳までは壊さないガンの方がまだマシです。
    精神病は思考回路のプログラムを変えることでしか治りません。そんな程度のアドバイスです。そのうち治るとか、できるだけ早く治したいとか、そう悠長に言っている場合でもないのです。一日何もしなかったということは、ただ病気を引き延ばしただけだと、ちょっと脅してあげた方がいいのです。そのまま放っておくと、どんどん時間だけが経って治る可能性を失っていくだけですから。
    最初から「人生は宿題の連続」という理解があれば、うつ病という問題は起こりません。そんな程度しかアドバイスできません。



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