〔ナビゲーター〕

前野隆司(慶應義塾大学)
安藤礼二(多摩美術大学)

〔ゲスト〕
阿純章(東京都圓融寺)
小野常寛(東京都普賢寺)

慶應義塾大学の前野隆司先生(幸福学研究家)と多摩美術大学の安藤礼二先生(文芸評論家)が案内人となり、各宗派の若手のお坊さんをお呼びして、それぞれの宗派の歴史やそれぞれのお坊さんの考え方をざっくばらんかつカジュアルにお聞きする企画「お坊さん、教えて!」。連載第2回は、天台宗の阿純章(東京都圓融寺)さんと小野常寛(東京都普賢寺)をお迎えしてお送りします。


(7)円融の世界を目指すために


■未来は懐かしさでできている

前野    誰もが平等に成仏できるという考え方や一乗思想は、現代社会においてとても必要である気がします。現代社会は「自分が富を得るために勝つんだ」「発展して豊かになるんだ」というトレンドでずっと来ていましたけど、その限界が来ています。環境問題がありますし、日本は少子化ですし、貧困問題もある。そういう課題があるときに、すべての人、すべての考え方を平等に受け入れる思想というのは、すごく大事だと思います。天台のお話というのはそういうお話で、最澄さんというのはそういう人だったということがわかりました。
    これからみんなで力を合わせて、みんなが幸せな、みんなが悟れる世界を目指すという方向になれば本当にいいなと思います。いいと思うのですけど、世界の中ではそういう一乗思想のようなものはマイノリティーではないでしょうかね。
    今後はどうすればいいのでしょうか。「よりよい世界を作るために最澄のように頑張るべきだ!」とつい力んだりもしたくもなるのですけど、そのへんはどうお考えですか。未来はどうなるべきでしょうか。

    未来は自分の思惑通りにはいかないものです。自分の人生すら思い通りにいきません。こうしようと思っても、大きな流れの中で然るべくして流れていくものですから、そこで別にあたふたしたり、不安に思ったり、恐れたりする必要はないと思います。なるようになっていく、それが仏教の大きな教えだと思いますね。
    今という時代は、20世紀の価値観が崩壊して、どんどん生きづらくなって、再び新しい幸福なものを見出そうと模索している精神的な大変革期だと思います。20世紀は矢印型の社会といいますか、自我というエンジンを積んで、この先には幸せがあるのだ、と前へ前へと進んできた社会です。でも結局ただ進むだけで何も見つからなかった。自分の居場所はなく、馬の鼻先のニンジンのように、幸せは追っても追っても得られない。そんな誰も幸せになれない社会だったんですよね。それがどうもおかしいとみんな気づき始めています。
    おそらくこれからは、矢印ではなく円の社会へと価値観がシフトしていくのではないでしょか。円の上だったらどこを歩いていても、誰が先でもなく、誰が遅れているわけでもなく、いま立っている場所がすべてゴールなんですよ。みんなそれぞれ違った場所にいながらも、でも一つの円の上にいるよね、一乗という大きな乗り物にいるよね、というような価値観になっていって、期せずして最澄さんが思い描いていた一乗の世界というものがだんだん実現しつつあるのではないかと思います。
「ああ、そうだ、自分の人生って、自分ってこれでいいんだ。いま歩いているこの道がすべてだったんだ」と、それぞれがだんだん気づいていく時代になってきているのかなと思いますし、仏教ではそういう精神でずっと来ていますので、私たちはいわば後ろから支えていくようなことができればと思っています。
    先ほど安藤先生が、昔に遡ることが実は未来につながると仰っていましたけれど、私も未来というのは懐かしさが支えていくのではないかと思っています。懐かしいものをどんどん掘り下げていくと、明るく懐かしい未来が見えてくると共に、我々の持っている命というものに原点回帰していく。命という懐かしさを見出すという幸せの方向に我々は向かっていっているのではないかと思います。
    ですから、お坊さんどうこうとか、あるいは将来どうなっちゃうとか、あんまり心配はしていないですし、流れていくままに任せればいいのではないかと思っています。

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中国厦門・南普陀済寺にて
済群法師(戒幢仏学研究所所長)と
(写真提供=阿純章)
前野    ありがとうございます。さすがお坊さんはお坊さんらしい答えをなさいますね。

■円融の世界を作る

前野    常寛さんは未来についてどのように思われますか?

小野    2年前、インドに行ってダライ・ラマ法王に謁見させていただいてお話を伺う機会がありました。ダライ・ラマ法皇は「21世紀、22世紀にもっとも重要なのは慈悲と調和(compassion and harmony)である」と仰っていました。まさにこれは日本が、日本の仏教がやろうとしてきたことであり、仏教のみならず、日本人が持っている精神性だなということをインドのダラムサラで感じました。
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インドのダラムサラにて(写真提供=小野常寛)
    私は和会通釈(わえつうしゃく)という言葉が好きなんです。和して一緒に通じるものを作っていきましょうよという意味ですけど、それは日本仏教が歴史上ずっとやってきたことだと思います。浄土教と禅はどうやって通じるのか、法華経と密教はどうやって通じるのか、そういうことをずっと考えてやってきたと思うんですよね。神道と仏教もそうですし、スリランカでいえばヒンドゥー教と仏教もそうです。それが習合の文化でです。それを日本はずっとやってきました。
    だから、先ほど阿さんが仰ったように、自分たちがやってきたことを見返せば、そこに答えはあるのかなと思います。和するためには相手をリスペクトし、自分自身、慈悲を持っていなければいけませんので、和するというのは実はけっこうハードルが高いのですけれども、それができるという可能性は持っていると思います。
    その結果、円融の世界が目の前に出てくることになる。そういう円融の世界をいかに自分の周りに作っていけるかが、私が考える今後の生き方かなと思います。
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円融の世界を目指して(写真提供=小野常寛)
前野    ありがとうございます。本当に素晴らしい内容のお話をありがとうございました。全体として、とてもよく理解することができました。法華経や最澄について、これからいろいろ学んでみたいという気持ちになりました。
    次回は日蓮宗から大場唯央(静岡県大慶寺)さんと、佐々木教道(千葉県妙海寺)をお迎えしてお送りします。どうぞお楽しみに。

(了)

2021年慶應SDMヒューマンラボ主催オンライン公開講座シリーズ「お坊さん、教えて!」より
2021年5月24日    オンラインで開催
構成:中田亜希

(6)比叡山で一乗の理想を目指す