中島岳志(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授)

第4回    受け取ることの難しさ

先ごろ『思いがけず利他』(ミシマ社)を上梓された、政治学者で仏教にも造詣の深い中島岳志氏に、利他の本質とは何か、お話を伺った。全4回に分けて配信する最終回。

■受け取るのが困難な時代

    利他問題は、受け取り問題でもあります。
    今、中島みゆきが10年ぐらい前に出した「ギヴ・アンド・テイク」という曲について原稿を書いています。この曲は「与えられることは心苦しくて」という歌詞から始まります。「施し物は人をみじめにする」「高いところから放られたものを、拾い集めるつらさは誰にもわからない」といった歌詞が続きます。それで最後に、それでも僕は受け取れると言うんですね。僕は受け取れる、僕は受け取れる、それによって世界が回るという歌で、中島みゆきってさすがだなあと思いました。受け取るということで世界が開いていくことをよく理解しています。でも、受け取るのは、本当に難しいんですよ。

    我々の利他プロジェクトでアンケート調査をしたところ、若い人は受け取るのがかなり苦手になっているのがわかりました。大好きな相手から物をもらうのが怖いと答えた人がたくさんいました。あるいは好きな人から、好きと言われるのも怖いそうです。自分はその好意に値する人間ではないから、好意に値するものを返せないからという理由で、好きな人から告白されるのを逃げているケースがたくさんあるんですよ。それほど、受け取るのが困難な時代になっています。
    それなら、僕たちはどうしたら受け取れるようになるのか。そのベースには世界に対する信頼があると思います。何か根源的な信頼があると僕たちは受け取れると思いますが、今はそこがどんどん欠けているのではないでしょうか。

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