私がバリー先生(※)から受け取ったのは、ファンタジーの中にとどまることなく、また死の恐怖に溺れ、悲劇の主人公として生きるのではなく、その有限な命が消えていく瞬間まで慈悲の実践に使いなさいという、きわめて現実的なメッセージだった。 そこには、死から目を逸らすのではなく、限られた時間の中で、勇敢に前進していくための智慧が込められていた。

※バリー先生:Dr.バリー・カーズィン    アメリカ出身のチベット仏教僧侶、医師


佐々涼子(ノンフィクション作家)    今年9月1日逝去    享年56歳
(別冊サンガジャパンVol.4「チベット仏教と死と医療」)
※肩書は掲載時