藤本晃 (誓教寺住職・『ブッダの実践心理学』共著者)

ただいまサンガ新社では、スマナサーラ長老の名著『ブッダの実践心理学』復刊に向けたクラウドファンディングを実施しています(2025年12月31日まで)。
そこで今回、『ブッダの実践心理学』の魅力と学ぶ意義をあらためてご紹介するために、シリーズ共著者である藤本晃先生に入門的な解説をお願いしました。

『ブッダの実践心理学』第一巻「物質の分析」は、世界と心の成り立ちを根底から揺さぶり、読者に衝撃を与えるシリーズの入口です。多くの方がこの巻をきっかけに仏教心理学の扉を開き、そこから夢中になって学びを深めていきました。
仏教が2600年前に見抜いていた物質の真実は、現代科学さえも驚かせるほど精密で、読む者の世界観を一気に塗り替えていきます。
そして今回、そのエッセンスを味わうために、共著者・藤本晃先生が「なぜ物質の解説から始まるのか」「この巻で何がわかっていくのか」を導いてくださいます。第一巻の核心に一気に近づきます

第一巻    物質の分析


■ 仏教が見抜いた「物質」の正体

    物質って、いったい何でしょうか。現代科学によってかなり詳しく明らかになっていますね。小さいほうは原子より小さな、もはや物質といえないレベルの素粒子群から、大きいほうは宇宙の果てから始まりから終わりまで、日々、新たな発見があります。
    そういう物質の正体を、じつはお釈迦様が2600年も前に見抜いていたと知ったら、驚きませんか。経典のあちこちに散りばめられたその知見をアビダンマ論師たちが整理して分かりやすくまとめ、そのテキストを、スマナサーラ長老が現代の科学知識を交えて解説したのが、『ブッダの実践心理学』第一巻「物質の分析」です。
    素粒子物理学の四つの力(重力、電磁気力、強い相互作用、弱い相互作用)は、仏教でいわれる地(重さ)水(引力)火(熱・留まれない、変化させる力)風(斥力)の四要素とよく似ています。仏教では、どんな小さな一つの物質にもこの四要素がすべて揃っており、物質世界はすべてこれらの量と組み合わせで成り立っていると見ています。
    驚くことに、空間も、物質とされています。これも現代科学を先取りしています。斥力がそもそも空間というか場の力ですが、たとえば部屋とは、床、天井、壁に仕切られた空間があってこそ成り立ちます。壁だけ、床だけでは、部屋にならないのです。これはまだ概念の問題かもしれませんが、もう少し注意深く考えてみましょう。
誰か、あるいは物質が「移動」できるのは、空間があるからです。留まっているだけでも、その分の「スペース」を占有しています。何かが「そこにある」ことが、そもそも空間なしに成り立ちません。
    また、何もなさそうな「空間」にも元素がたくさん飛び交っているのですが、気体です。気体は、液体や固体と同じく、物質に間違いありません。そもそも物質は、個体でさえ、ギチギチに詰まって確固不動なわけではありません。物質の最少部分では素粒子たちが巨大空間を元気に飛び跳ねて、間はがら空きで、電磁波だらけです。電磁波も物質エネルギーです。そしてあの広大な宇宙空間も、ただの空虚な真空ではありません。星たちの、それらを構成する素粒子たちすべての、引き付けたり押し広げたりの引力斥力電磁エネルギーのせめぎ合いで溢れています。お釈迦様やアビダンマ論師たちが語る物質とは、このような事実を瞑想でありありと確認した精密な分析の結果です。

■ 体・生命・心へとつながる「物質」の理解

    「物質の分析」は、物質の説明をする物理学に留まりません。生命の体の仕組みを解明する生物学でもあるのです。体は、心と緊密に連動する不思議な物質です。しかも、修行者は体を通して体の内と外で生滅する現象を観察し、無常・苦・無我を見抜くことが仕事ですから、この章「物質の分析」で体をも精密に分析することは、とても大切な学びになります。
    眼耳鼻舌身の五根という感覚器官とそれぞれの対象になる色声香味触。生きるエネルギー・命根も、生きている物質・体にはあります。現代の生物学では細胞に当たるでしょうか。
    さらに、生命の物質には男性と女性の区別があるとされています。分子生物学で細胞の染色体が発見されたのが、やっと百五十年ほど前のことです。ましてやDNAの発見とその解析により、男女の性を司る性細胞が発見されたのは、ほんの数十年前のことです。しかしお釈迦様やアビダンマ論師たちは、そういうものもすべて見抜き、分類しています。
    極めつけは、一瞬ごとに生滅する心が物質を作ると、そして業が物質を作ると説かれていることでしょう。それがどういう意味か、スマナサーラ長老の解説をぜひお読みください。
    最新の物理学、生物学にも勝るとも劣らないブッダの智慧のエッセンスは、ただ知識を得るためではなく、物質、特に体と認識対象の正体を知って修行の指針を与えるために説かれているのです。そのブッダのエッセンスをスマナサーラ長老が、現代科学の知見を紹介しつつ、いとも簡単に解き明かしています。




イントロダクション   はじめての『ブッダの実践心理学』 

第二巻    心の分析(近日公開予定)


お知らせ

 クラウドファンディング挑戦中!
スマナサーラ長老『ブッダの実践心理学』を紙書籍で復刊します![第一巻〜第三巻] 

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アルボムッレ・スマナサーラ長老の名著『ブッダの実践心理学』シリーズをサンガ新社より紙書籍で復刊します。ブッダが説いた心の法則が明らかになる全八巻(七冊)のアビダンマ講義。今回はプロジェクトの第1弾として『第一巻』『第二巻』『第三巻』を同時刊行。クラウドファンディング特別価格にて予約を受け付けます!(2025年12月31日まで)