アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日のテーマは「自己判断という落とし穴」です。

[Q]

    仕事のことですが、ずっと自分には向いていないと感じながら続けています。仕事の中身そのものが向いていないわけではないと思うのですが、会社とかそういった所で働くことが非常にしんどいです。そのせいで本来できるはずのこともできていないように思います。ミスをしたりして周りにも迷惑を掛けています。本来、自分が持っている能力をもう少し生かせる働き方が他にあるのではないかと思ってしまいます。しかし、このような考え方はただの甘え・逃げではないかとも思え、しんどさと自分への無力感が積み重なり、意味の無い人生だなと悲観してしまいます。


[A]

■問題の本質は自分の性格にある

    今の仕事も上手くいってないのですから、別の仕事が見つかったとしても同じことになるでしょう。これは性格の問題です。
    仕事そのものはずっと続けられているのに、自分勝手な妄想で「私には向いてない」と思い込まないことです。そう思い込むことで仕事がいい加減になります。これはすごく迷惑です。いい加減な仕事をして給料を貰うということは、不正ということにもなります。

■どの世界にもユートピアは無い

    そもそも、この世の中で完璧に気に入る環境なんていうのは、決してあり得ません。ある一部は気に入って、ある一部は気に入らない。そんな程度です。私個人でも、自分の国(スリランカ)の環境は好きなのです。とても気楽で開放的で、閉じ込められていない世界です。そういう自由に精神が流れる世界にいた私にとって、他国で狭い部屋の中に閉じ込められているような感じはキツイのです。しかし、スリランカには無い便利さが日本にはいっぱいあります。まず自由に喋ることができるし、ちょっと歩けばコンビニがあって、品物が無いと気づいてから店に行っても充分間に合います。そのような便利さはスリランカにはありません。夜は早く閉まってしまうとか、在庫が乏しくて買えないとか、不便な点が多いです。つまり、自分の国に帰ったからといって完全な環境では無いし、だからといって日本が完全な環境でも無い--どこかで手を打たなくではいけないのです。そのように、会社や仕事を変えても、いくらかは気に入るし、いくらかは気に入らない。それが普通です。

■「私はこんな人間」という断定・自認(自我)につまずく

    質問者の問題は「この仕事は向いていない」という前提にあります。もし本当にその仕事に向いていないのだったら、もうとっくに失敗して辞めているはずです。その仕事に向いているのに、仕事ができるのに、丸っきり事実無根の妄想をしてしまって自己破壊しているようです。この人は自分で自分の地獄を造成して、もう半ば地獄に住んでしまっているような感じです。他人が作った地獄に無理やり陥れられたというなら仕方ないのですが、自分で地獄を作ってそこに永住しようとするのはバカらしいことです。自作自演です。そういう風に理解してください。「私はこの仕事に向いていない」という妄想概念を捨ててください、それだけです。
    ご自身でも「甘え・逃げかもしれない」と感じているようですが、その通りです。自我なのです。自分を高く評価しているからそうなってしまうのです。とにかく「私はこの仕事に向いていない」ということが妄想なのです。それは客観的で科学的な事実ではありません。なぜなら、実際に今仕事ができているのですからね。仕事というのは「向いている/向いていない」というのはあり得ないのです。

■具体的な問題には解決方法がある

    たとえば、仏教を真面目に信じる人が漁師になってしまったとします。魚を殺すことは誰にでもできる。仏教徒なので「あぁ、殺生してはいけない」と悩むはめになります。そもそも殺生してはいけないと決めているなら、初めから漁師にならなければ良いだけです。そこはハッキリしています。それは具体的な悩みです。生まれたのが漁師の家で、どうしても後を継がなくてはいけなくてショックを受けたとかなら理解できます。その場合でも、とっとと漁師を辞めて別の仕事を見つければ良いのです。具体的な本物の悩みであれば簡単に解決できます。

■原因である妄想は失くすしかない

    今回の悩みは妄想的な悩みですから、解決策は妄想を失くすしかありません。ひとつのアイディアとして、「この仕事は私に向いているんだ!」と念じて、思い込んでみたらどうでしょうか?    問題は「私が余計なことを考えて困っている」ということにあります。自分にぴったり合った気持ち良い・完璧な環境や仕事なんて、地球上のどこにもあり得ないと理解してください。



■出典    『それならブッダにきいてみよう: こころ編5』
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