アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日は廻向(えこう)について、スマナサーラ長老が答えます。

[Q]

     「廻向(えこう)」というものがよくわかりません。どういうものか教えてください。
 
[A]

■善行為に賛同・賛成してエールを送ること

    「廻向(anumodana/随喜)」というのは、自分が持っているものを他人にあげることと同じ働きです。決して難しい意味ではありません。ただ、廻向という単語を使うのは、「功徳」というものをあげる時だけです。例えばお金が無い人にお金をあげる時は、廻向という単語は使いません。その場合は「寄付」という単語を使います。自分が持っている功徳・善行為の力をあげる場合に廻向というのです。ですから、持っているものは何でもあげることができます。難しいことではありません。
    お金をもらったり食事や衣服をもらったりする場合は、実際に物質を交換するからわかりやすいのです。廻向の働きの場合は、「賛同する」「賛成する」ということになります。ある人がとても良いことをする。それを目にした人が、「素晴らしいことだ」「立派なことです」と賛同すると廻向になるのです。人間は良いことをする人を非難・批判しこそすれ賛同はしません。それは悪行為になります。この世の中、昔も今も良いことをする人はかなり非難されます。本来、みんな心が汚れていて悪人ですからそうなっているのです。良いことをする人をどうにかしてダメにするため、書いたり、ネットに投稿したり、噂を立てたり、あらゆる方法で攻撃するのです。証拠は要りません。人間は事実が書いているサイトより、ゴシップ記事などのサイトの方が好きなのです。ゴシップ記事はすべて事実ではありません。嘘ばっかりです。本来、心は汚いのですから仕方ないのですが。
    廻向というのは、良いことに賛同する・賛成するということ、「よかった、よかった」とエールを送ることなのです。それで「よかった」と賛同した人も、心の喜びを感じることができるのです。廻向を受けた、ということです。物質・モノと違うのはそういうところです。廻向は気持ちの交換ということになります。同じ気持ちの交換です。ある人がものすごく悪いことをして、それに気持ちで賛同・賛成してしまうと、ただ賛同した人も悪いことをしていることになるのです。どちらにも力があります。

■SNSの「いいね!」も廻向

    例えばユーチューブ(Youtube)で歌などを投稿すると、その投稿にアクセス数が多ければ多いほど歌った本人が人気者になっていきますね。例えくだらない歌であっても二十万ぐらいの視聴回数や評価があれば、その人は人気の歌い手として世界に知られることになったりします。なぜそこまで力があるのかというと、それはやはり皆の賛成でそうなったのです。お互い様なのです。投稿や動画を見て「Like!(いいね!)」ボタンを押す人たちは、それを見て喜んだからLikeと押すわけでしょう。そこでも廻向という心理的な働きが起きているのです。ネットで記事でも読んで、自分が「あぁ、よかった」「なるほど」と喜びを感じたから賛成のボタンを押す。それで一万や二万、二十万という数のヒット・評価になってくると、投稿者は大物で影響力のある立場になっているのです。
    ニューズウィーク(NewsWeek)の「今年のヒーロー」という記事で、2017年は「#MeToo」という言葉が選ばれていました。「Me too」「私も」という意味ですね。アメリカでセクシャルハラスメントに遭った人々がずっと声を出せずに黙っていた状態があって、そこである人が組織を作って、被害者の標識として「#MeToo」とハッシュタグをつけてSNSで発信したところ、一日経って朝起きてみたら、二十万以上の返信・賛同があったそうです。その中には有名なタレントや女優さんたちも結構いるみたいです。雑誌の半分以上ページ数を割いて、その内容の記事が載っていました。これは世界的な運動になっています。この場合でも心理的に廻向という働きがあるのです。ですから、賛同する人々がたくさんいるという廻向の働きによって、このセクハラ被害を訴える活動家にものすごい力が入ってきたのです。すごい力ですよ。

■賛同は偉大なる力になる

    廻向というのは、心の気持ちを分かち合うということになります。これは簡単に考えてはいけません。この力は並ではありません。今のIT時代で考えたとしても、相当な力になるとわかるでしょう。仏教では昔から、そういう心の働きを明確に知っていたのです。賛同することは、偉大なる力になるということを。功徳を他人にあげることに廻向と言うのです。この働きは普通のことで、神秘的な考えではありません。廻向というのは心理学的な要因であって、毎日あることなのです。別な言葉で置き換えれば「応援する」「支持する」「後押しする」でしょうか。子供が自信を無くしたり緊張したりすると心配して親が、「お母さん(お父さん)がついているから」と言って応援したり励ましたりするでしょう。その一言で子供は元気を取り戻して、自分の仕事をするのです。それはすごい力になります。心理学的な働きによって起こる力なのです。


■出典     『それならブッダにきいてみよう:瞑想実践編2』 

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