シスター・チャイ・ニェム(釈尼真齋嚴)(プラムヴィレッジ    ダルマティーチャー)
島田啓介(翻訳家/執筆家/マインドフルネス・ビレッジ村長)


Zen2.0 2022より、プラムヴィレッジのダルマティーチャーであるシスター・チャイ・ニェムと、プラムヴィレッジスタイルの瞑想実践者であり、ティク・ナット・ハンの書籍の翻訳家でもある島田啓介さんの対談をお届けします。プラムヴィレッジをご存知の方も初めて知る方も、ティク・ナット・ハンがもっとも大切にしてきたインタービーイング(interbeing)の真髄に触れられるこのセッション。フランスと鎌倉・建長寺をzoomでつないだセッションは、オンラインであることを感じさせない温かな雰囲気で進んでいきます。


第1回    自分の中にあるマインドフルネスを再発見する


■自然にできたプラムヴィレッジ

島田    シスター、本日はよろしくお願いします。

シスター・チャイ    日本の皆様、こんにちは。よろしくお願いします。

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シスター・チャイ(画面中央)と、島田啓介さん

島田    最初にそちらから鐘を招いて【*1】いただいてよろしいですか。

【*1    プラムヴィレッジでは「叩く」「鳴らす」などとは言わずに、invite(招く)という表現で敬意を表する。】

シスター・チャイ    はい、わかりました。3回、鐘の音を招きます。皆さん、体全体をリラックスして、そして耳からだけではなく、体の細胞一つ一つ、体全体で響きを感じてみてください。

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プラムヴィレッジで鐘を招くシスター・チャイ

島田    さて、会場にたくさんの方がいらっしゃっています。合掌して、微笑みながらお互いに挨拶しましょうか。
    今日はシスターに、フランスのプラムヴィレッジからつないでいただいています。こうした形で対談できて光栄です。私は今日、午前中は歌ったりして楽しく過ごしていたんですけど、今はなんだか緊張し始めています。プラムヴィレッジはいま何時ですか?

シスター・チャイ    朝の8時10分です。先ほどまで朝日が眩しかったんですけど、やっと日が昇って今、いい感じです。

島田    日本は午後の3時10分です。非常に暑いですよ。今鐘を招いていただきましたけど、それが静まると蝉の声が聞こえています。
    今日は最初にシスターからプラムヴィレッジについてご説明いただけたらと思うのですけれども。よろしいでしょうか?

シスター・チャイ    はい。プラムヴィレッジという僧院はですね、1982年にティック・ナット・ハン先生、私たちはタイ(ベトナム語で先生という意味)と呼んでいますけれども──が、ベトナム戦争の時代に、ボートピープルの人たちを助けるなどの平和活動をしていた仲間とともに、フランスのボルドーから車で1時間ほど離れた田舎に欧米の活動家たちとベトナム難民たちが共同生活できるコミュニティを築いたのが起源です。
    元々タイには、お寺を建てたり弟子僧侶を育てるような計画はなかったのですが、タイの教えには人々の助けになる深い智慧がたくさんありましたので、いつしかたくさんの人たちがここに集まって一緒に生活するようになりました。そして自然にできたのがプラムヴィレッジです。

島田    自然にできたという話はいま初めて聞いた気がします。そういう経緯だったのですね。

シスター・チャイ    そうですね。タイは仏教を広めるためにフランスに来たというわけではなく、亡命生活のなかで平和活動をしているうちに、だんだんと周りに人が集まってきて、プラムヴィレッジができました。
    タイは本当にコミュニティを大切にしていました。どんなに才能があっても、どんなにすごい人でも1人では何もできない、一番大切なのはコミュニティだよ、って。それがタイの教えの一番大切なところです。
    プラムヴィレッジは今年でちょうど40周年を迎えたところです。先ほど休憩時間に皆さんがご覧になられていたのが、40周年記念のために作られたスライドショーです。

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「40 Years of Plum Village in Pictures」より抜粋
©Plum Village Community of Engaged Buddhism, Inc


*会場で投影された映像「40 Years of Plum Village in Pictures」はこちらからご覧いただけます。
〔youtube〕40 Years of Plum Village in Pictures



島田    今までのあゆみを紹介したスライドショーですね。


■マインドフルネスを自分のなかに再発見する

シスター・チャイ    あらためてタイの智慧をすごいと感じるのは、ここを仏教の僧院としてではなく、「ヴィレッジ」と名付けたことです。この名前の選び方が本当にタイの教えそのものだなと思います。
    昔はどこの国でも村でみんなで共同生活をしていました。子どもはお父さんとお母さんだけに育てられるのではなく、おじいちゃんおばあちゃん、おじさんおばさん、近所の人たち、たくさんのなかで、体も心も健康に育っていきました。コミュニティも社会全体も、昔のほうが今よりもっと健全なものでした。
    それが20世紀になって、どんどん個人主義的になってしまって。今は、Nuclear Family、日本語だと核家族ですか。

島田    核家族ですね。

シスター・チャイ    おじいちゃんおばあちゃんが遠くに住んでいてなかなか会うことができなかったり、都会に住んでいると、お隣さんや近所の人たちと挨拶することもなかったり。それでだんだん人が孤立して、寂しくなって、うつ病などのいろんな精神的な問題が生まれてしまっています。
    これから世の中を健康にしていくためには、村のなかでみんな一緒に生活していくことが大切だよ、というのがタイの教えです。それがプラムヴィレッジの大切にしているプラクティスですね。

島田    タイがいつかの法話で、プラムヴィレッジのコミュニティのモデルはベトナムの大家族だというようなお話をされていたことを覚えています。そういえば日本もちょっと前までは大家族でした。日本は核家族だ、個人主義だ、と言われていますけど、ほんの一世代、二世代前は大家族を中心とした暮らしがあったんですよね。今は1人で住んでいたり、核家族で暮らしているかもしれないけれども、大家族で住んでいた伝統が血のなかに入っているんです。
    タイが日本にいらっしゃったときにね、マインドフルネスを外側に探そうとしないで、日本の伝統や自分自身を見直してください、そこにありますよ、というふうに言われたのを、今のお話でちょっと思い出しました。

シスター・チャイ    ええ、本当にダーさん(島田さん)のおっしゃる通りです。私はプラムヴィレッジで2009年に出家しましたが、2014年にタイが脳卒中で倒れられるまで、ほぼ毎日、タイのもとで生活も修行もすることができました。本当に恵まれていました。
    食事をするとき、タイは日本の話をよくしてくれました。日本ではマインドフルネスというカタカナ語がとても流行り出しているけれど、日本人は仏教徒であっても仏教徒でなくても文化そのものに禅が染み付いているのだから、新しいものがアメリカで流行っているから輸入しよう、というのではなくて、元々自分のなかに持っている智慧、仏教の血を大切にして、それをrediscover、再発見することが大切ですよ、と仰っていました。それが日本の人々に対するタイからのメッセージでしたね。

島田    それを聞くと嬉しい気持ちがすると同時に、「あ、そうだ、いつも外ばかり見がちだな」というふうに気付かされます。瞑想もね、自分自身を見つめるということしますけれども、やはり文化的にも新しいものや刺激になるものを求めがちです。
    なんでも慣れてしまうと当たり前になっちゃうんですよね。たとえばお辞儀するという動作もね、日本から出て初めて違う文化に行ったときに、「あ、ここではお辞儀しないで握手するんだ」と気づくとか。そういうときに、「僕たちはいつもお辞儀しているけれども、それはどんな意味なんだろう」とちょっと振り返ると、あらためてお辞儀の本当の意味がわかると思いますね。

(第2回に続く)


2022年9月10日    Zen2.0 2022    鎌倉・建長寺にて
構成:中田亜希
タイトル写真:© David Nelson



第2回    お母さんのように優しく温かなタイ



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