アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日は親子関係の悩みに、スマナサーラ長老が答えます。

[Q]

   十代の息子のことで困っています。甘やかされて育ったせいか、親や身内の言うことを全く聞かず、気にいらないとすぐ逆ギレして暴力をふるいます。現在は資格の取得を目指して専門学校に通っており、一時は一人暮らしをしていましたが、朝起きられずに学校を休んでしまうことが多く、親元から通うように言ってもなかなか言うことをきかず、どう接したらよいか悩んでいます。小中学校時代に非行グループ入っていて二、三日帰宅しないこともよくありました。その頃から夜更かしの習慣がついてしまい、仲間と縁が切れた今も夜の眠りが浅く、昼間に熟睡するという悪循環が続いていて、朝は起きられないし、寝過ごして午後からの授業も欠席してしまう状態です。一時期はバイトも頑張ってやっていましたが、寝坊して無断欠勤が続き、結局続けられませんでした。アドバイスをお願いします。

[A]

■子供をペット扱いするのは大罪です

    決して珍しい相談ではありません。このようなケースは日本では(もしかすると)あり過ぎなのです。
    どんな子供にも反抗期はあるので、それは何とかなります。後に親に感謝するような人間になります。しかし、日本の親は子供とは自分の所有物・生き甲斐・アクセサリーだと思って育てているようですね。我が儘を何でも聞いてあげて、叱ることもしないで、自分が嫌われないように頑張っています。親にとっては楽しいことでしょうね。
    しかし、大罪を犯していることに気づきません。このような育て方は犬猫のようなペットの育て方と変わりないのです。言葉をしゃべるペットですね。しかし、ペットと違ってこの連中は大きくなります。飼い主より強くなります。飼い主より長生きします。独立しようとします。問題です。これは人権を侮辱すること、人権侵害です。大変な罪です。親の仕事は、子供を育てて、躾をして、独立した人間として社会に送り出すことです。それが、自分を一人前の社会人にしてくれた(親も含む)社会に対する恩返しでもあります。預かった命を自分の所有物にすることは犯罪ではないでしょうか?    肉体的に人を所有することはできません。しかし、感情的には「私のもの」です。ですから、子育てで、厳しく精神的に悩む羽目になってしまうのです。

■自己管理できないままで成長すると……

    この質問の筋はこちらにあります。
    ペットが大きくなりました。強くなりました。自分の気持ち通りではなく、勝手に行動するようになりました。しかし、ペットは可愛いしいないと寂しい。昔と同じように生きていて欲しいという願望があります。
    では、ペットとして熊とか虎とか、ライオンとかの大きくなる動物を赤ちゃんの頃から哺乳瓶で育てたとしましょう。最初は上手くいきますよ。すごく可愛いのです。じゃれたり遊んだりもします。しかし大きくなりますね。強くなりますね。向こうは牙を出して遊んできても人間は危ないのです。相手をすることはできません。それで、そのペットの大型動物も自分のことを嫌っていると思って、腹が立ちます。攻撃したくなります。又は、独立したくなります。自分のいる場所を探したくなります。
    大型動物は、飼い主を攻撃するより独立の道を選んで逃げることが良いやり方です。しかし、赤ちゃんから可愛がって育てられた大型動物は自然界で生活できません。獲物を捕れません。誰かが食べやすいように捌いた肉をあげないとだめなのです。ですから、また、人間界に入って食べ物を奪おうとするから大変な問題になります。捕獲されるか抹殺されるかですね。
    あなたのお子様も自分一人では何もできません。自己管理できません。社会人として責任感はありません。自分自身で、これから一人で生きてゆくために必要な技を磨かなくてはいけないことを知りません。親にとって危険な存在になるか、何時まででも親のすねをかじる人間になるか……です。

■縁を切って独立させることが親の義務です

    ではどうしましょう?
    まず、自分の育て方が悪かったと思う必要はありません。自分は自分なりに頑張りました。子供に「お母さんの育て方が悪かった、ごめんね」と謝ることは絶対禁止です。
    子供にこのように言うのです。
「自分は、親の責任を出来る範囲で果たしました。あなたは大きくなって独立したいと思っているところです。独立を考えているかいないかはわかりませんが、親から離れたいということは確かです。これはとても良いことで自然の流れです。ですから、これから微塵も親に頼ることをしないで、自分の責任は自分で担って、自分のことは自分で管理して生きてみなさい。いろいろ失敗することや上手く行かないことがあるかもしれませんが、それは誰にだってあることです。皆、頑張って乗り越えます。ではさようなら。たまに電話して下さい。でも、それすらなくても、親は文句を言いません。」
    このように言ってあげて縁を切ってください。独立させてあげて下さい。首に鎖を付けて引っ張らないで下さい。何の能力も無いまま、大きくなったあなたのお子さんが可哀想でたまりません。親が縁を切ったと、それも自分のことを心配して、自分を愛するゆえの決断だと知った子供は、間違いながらも頑張るでしょう。私もそう願っています。
    時期を見て独立させることが子を愛する親の義務です。それこそ親切な行為です。


■出典   『それならブッダにきいてみよう:教育編1』

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