チャディ・メン・タン (SIY創設者・著者・社会活動家)

宗隆フォラル(禅僧)

〔ナビゲーター〕
木蔵(ぼくら)シャフェ君子
荻野淳也 


第2回    宗隆・フォラル師講演「苦しみの終わりを実現する」


■仏教の目的は苦しみの終わり

宗隆    皆さん、仏教の目的はなんだと思いますか?    そうです。苦しみの終わりです。つまりすべての生きとし生けるものが涅槃に到達することです。
    仏教には生き物を殺してはいけないという戒律があります。仏教の中にある戒律、モラル、倫理、それから仏教による人格形成、こういったものはすべての生命を殺さないことを目的としています。
    私は若い頃、人間が他の生命を殺している現実に気づいて苦悩しました。そして、そういった現実に対して見て見ないふりをするのではなく、そういう社会を変えていこう、すべての生きとし生けるものを助けていこうと決心しました。その思いが今の私の活動の原動力になっています。
    ブッダは喜び(joy)と叡智(wisdom)と思いやり(compassion)の大切さを私たちに教えてくれました。
    私たち自身はすでに喜びと叡智と思いやりを持っている。それに気づくことがまずは大切です。
    そして次に、喜びと叡智、思いやりを組織やシステム作りに活かしていくこと。さらに、そういった組織から喜びと叡智、思いやりに満ちたテクノロジーを生み出していくこと。この3つが今の時代においては、とても重要です。

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宗隆フォラル師

■愛に惹かれた幼い頃

宗隆    私は小さな頃から愛に関心がありました。当時は仏教のことをまったく知りませんでしたが、生きる命にとても惹かれていました。母との散歩中には、道を行き交うアリやクモたちと友達になりたいと思って、いつも地面に這いつくばって虫たちを観察していました。
    父が漕ぐ自転車の後ろに乗っていたときには、道路に美しい蛇があらわれたのを見て感動しました。天気の良い日に、温かい舗装道路の上を蛇が散歩していたのです。それに見惚れていると、遠くのほうから走ってきた車がいきなりその美しい蛇を轢いてしまいました。その時の心をえぐられるような感覚は今でもはっきりと記憶に残っています。
    4歳になると、「生き物を殺さないようにすることが僕の人生の目的なんだ」と親に宣言しました。まだ小さかったのでエコシステムや絶滅危惧種の問題は知りませんでしたが、人間の活動によって生命に生存の危機が訪れていることを小さいながらに感じ取っていたのだと思います。とはいえ4歳だったので、そのために自分が何をすればいいのかは全然わかりませんでした。
    12歳のある日、はらっぱに寝転んで空を眺めていると、これまでに感じたことのない平和を感じました。本当にすべての生きとし生けるものと自分が一体となったような感覚がありました。より高次の愛を感じた瞬間でした。


■臨済宗の僧院での修行

宗隆    生き物を殺さないことを人生の目的に据えてはみたものの、自分が実際に生きとし生けるものの命を救えているのか、生きとし生けるものの苦しみを救えているのかと、青年期はひどく悩みました。いったい自分は他の生命の苦しみに対して何ができるのだろうか。実際何もできていないじゃないかと。
    しかし考えても答えが見つからず、私はだんだん焦りを覚えるようになりました。
    そんな私が幸運にも仏教と出会ったのは17歳のときでした。仏教と出会い、自分のやるべきことが明確になったので、私はすぐに日本に行き、臨済宗の禅僧である原田正道老師のもとで修行を始めました。
    この書は原田正道老師が書いてくださったものです。
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    心優しい原田老師のもとで修行するうちに、私の心の中の憎しみや怒りは消え、忘れかけていた愛を取り戻すことができました。私はいつの間にか憎しみや怒り、自分と他者との対立によって愛の視点を失っていたのです。
    苦しみを生み出している利己的な煩悩や欲、執着といったものから自由になっていく方法を仏教は教えてくれます。仏教は喜びと叡智と思いやりを育む大切さを教えてくれます。おかげで私の内面には大きな変化が起きました。


■心の教育が世界を変える

宗隆    これからの世界がよりよきものになっていくために大切なことは、喜び・叡智・思いやりを、個人だけではなくもっと広い規模で実践していくことです。戦争や環境破壊、テクノロジーの悪用などはすべて人間の心が作り出したものです。私たちの心が、私たち自身を危機に追いやっているのです。
    だからこそ、私たちが心をどのように育んでいくのかがもっとも重要なポイントです。私たちは同じビジョンを持っている人と協力して、コラボレーションして、どうすればよりよい世界を作れるかを考えていかなければなりません。
    そのためには教育が大切です。人間の心をどのように育んでいけばよいのか。私が僧院で経験したような心の教育をどのように世の中に広げていけばよいのか。そして喜びと叡智と思いやりを現代社会やモダンテクノロジーとどのように共存していくのか。とても難しいことではありますが、それこそがよりよい世界の実現につながると思います。
    まずは自分自身が持つ喜び・叡智・思いやりに気づくこと。それを組織全体で共有すること。さらにそういうビジョンで新しいテクノロジーを生み出していくこと。この3つを実現できれば、私たちは存在的危機という状況から脱却できると思います。
    これを強力に広げていくことが、私たちの命を救っていく道です。
    皆さん、共に進んでいきましょう。
    生きとし生けるものが幸せでありますように。どうもありがとうございました。

(つづく)

2021年10月3日    Wisdom2.0Japan    オンラインセッション
構成    中田亜希

第1回    チャディ・メン・タン氏講演「仏教という新たな希望」
第3回    苦しみの世界から喜びの世界へ


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Wisdom2.0Japanカンファレンス2022 開催へ向けて

混沌とした時代の叡智ある生き方を探求する
マインドフルネスのカンファレンス&コミュニティ
10月15日(土)-16日(日)に会場+オンラインで開催

チャディ・メン・タン氏も来日登壇予定!

今年のテーマは、”The inner world changes the outer world."
私たち一人ひとりの内側にある世界の在り方が 、私たちを取り巻く外側の世界を変えていく。
Wisdom 2.0がこれまで発信してきた世界観の根底にある哲学です。

2020年からはじまったパンデミックや今年2月からの世界を巻き込む欧州での戦争、また各地で災害をもたらしている気候変動など、目に見える形で外側の世界が急激に変化をしている時代に、私たちに求められているのは、どれだけ世界が変わろうと、その変化の波に飲み込まれず、その波を乗りこなし私たちの在り方です。それはまた、新たな波を生み出していく起点ともなるでしょう。

その鍵は、私たちの内側にある意志と叡智の発動。
Wisdom2.0Japanは、今年も、世界に真のウェルビーイングをもたらそうとする人類の意志と叡智を発信していきます。

【Wisdom2.0Japan 2022 開催概要】
●日程:2022年10月15(土) 16(日)
●参加方法:オンライン / 会場(Lstay & grow晴海    先着60名限定)
●詳細・申込:https://event.wisdom2japan.com/

【Wisdom2.0Japan 2022 プログラムのご紹介】
10月15日(土)

①「SHOW UP! 〜 マインドフルネスのネクストステップ」
        Pandemic of Love創設者:シェリー・ティゲェルスキー
②「社会共通資本がもたらすこれからの世界のカタチ 〜 経済学者・宇沢弘文氏のWisdom(仮)」
        宇沢国際学館代表取締役:占部 まり(会場参加予定)
③「欧州、中東から見る2030年の世界の未来予想図 〜 一人ひとりの内なる創造性が世界を拓く」
        英国王立国際問題研究所 研究員:玉木 直季(会場参加予定)
④「SEL、マインドフルネスによる教育改革 〜 豊かな日本のための教育者たちの挑戦」
        かえつ有明中学・高校 副校長:佐野 和之(会場参加予定)
        日本SEL(Social Emotional Learning)協会代表理事:下向 依梨
⑤「『世界標準の経営理論』とWisdom 〜 コンパッション、マインドフルネスによる経営実現(仮)」
        早稲田大学大学院 経営管理研究科教授:入山 章栄
        華道家:山崎 繭加(会場参加予定)

10月16日(日)
①「最新テクノロジーとしての原始仏教」
        SIY(Search Inside Yourself)創設者:チャディ・メン・タン(会場参加予定)
②「リジェネレーション 〜 気候危機を今の世代で終わらせるための叡智」
        環境保護活動家:ポール・ホーケン
③「パンデミック、戦争との向き合い方 〜 コンパッションで世界に平和をもたらす」
        Upaya Zen Center禅僧:ジョアン・ハリファックス
④「ビジネスにおけるウェルビーイングとマインドフルネス 〜 セールスフォースにおけるウェルビーイングの取り組み」
        プラムビレッジ ダルマティーチャー:シスター・チャイ
        株式会社セールスフォース・ジャパン:佐藤むつみ
        株式会社セールスフォース・ジャパン:酒寄久美子
⑤「内なるプラクティスと世界平和 〜 マインドフルネスで平和を実現する」
        曹洞宗僧侶:藤田 一照(会場参加予定)
        SIY(Search Inside Yourself)創設者:チャディ・メン・タン(会場参加予定)
        プラムビレッジ ダルマティーチャー:シスター・チャイ

【Wisdom2.0グローバルネットワーク(韓国との共同開催)】
◯Wisdom2.0 創設者:ソレン・ゴードハマー
◯Wisdom2.0Korea創設者:ユ・ジョンウン(会場参加予定)
◯Wisdom2.0Japan共同創設者:荻野 淳也(会場参加予定)
◯Wisdom2.0Japan共同創設者:木蔵 シャフェ君子(会場参加予定)

【プレイベントのご案内】

Wisdom2.0Japanでは、7月から12月までの半年間、プレイベント、アフターイベントを毎月開催し、マインドフルネスのプラクティスを深めたり、世界のWisdomに触れ、自分の内側をより豊かに育んだり、また、Wisdomに基づく社会変革に関する活動も紹介しております。

●Wisdom2.0 2022 ”EMERGENCE”動画視聴&対話(日本語通訳付)
●書籍『コンパッション』×アクティブ・ブック・ダイアローグ®️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️×マインドフルネス
●「リジェネレーション」をダイジェストで学びマインドフルに探求する
●【購入者限定】マインドフルな対話交流会
●マインドフルネス・リトリート
●企業パートナー様とのコラボイベント

ぜひ、このカンファレンスとコミュニティにご参加ください。

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