熊野宏昭(早稲田大学人間科学学術院教授)

『EQ2.0』&『実践!マインドフルネス』シリーズ 刊行記念

第4回    そのままにしておく:マインドフルネスが教える不安との向き合い方

    マインドフルネス瞑想は、「自分をもっと理解したい」「人間関係を円滑にしたい」といった悩みに答える強力なツールです。呼吸や身体感覚に注意を向けることで、自分の感情や思考を客観的に観察する力が養われます。さらに、周囲の状況や他者の感情にも気づけるようになり、対人関係を調整する力(EQ)も自然と高まります。
    この記事では、マインドフルネスを使ってEQ(感情的知性)をどのように高めるのか、マインドフルネス研究の第一人者である早稲田大学人間科学学術院教授の熊野宏昭先生が、具体的な実践方法とともに解説します。


■そのままにしておく

    「することモード」に陥ったとき、マインドフルネスが取る戦略は「そのままにしておく」です。

    いま自分が不安になっていると気づいたら、その不安を無理に取り除こうとせず、そのままにしておく。患者さんからは「そのままにしておいたら、ずっと不安なんじゃないですか?」とよく聞かれますが、そんなことはありません。我々は生きていて、刻々と変化しています。だから、不安もしばらく経つと自然に変化し、やがて消えていくのです。
    不安の原因が現実に続いている場合は、不安も持続するかもしれませんが、その原因が自分の頭の中で作り出したものである場合、時間が経てばなくなることがほとんどです。

4.jpg 178.45 KB

■あることモードの練習

    マインドフルネス認知療法は、「することモード」から「あることモード」に心をギアチェンジしていく練習だと先ほど述べました。「あることモード」とは言い換えれば、「目指すものがない状態」です。目指すものがない状態を目指す──という逆説的な練習です。
    では、具体的な実践法です。まずは、自分の体験に気づく練習から始めます。心を閉じない、呑み込まれないでありのままに気づく。気づいたらどうにもしないで、そのままにしておく。
    集中力は必要ですが、それだけでは十分ではありません。一点集中だけだと、現実の一部しか捉えられないからです。だから、一点集中からもっと広くいろいろなものに気を配る状態に移行することが、マインドフルネスでは非常に重要です。
    ウォーキングは、この実践にぴったりの方法です。ただし、自動操縦状態のウォーキングでは意味がありません。ウォーキング中の一つ一つの体験に気づいていることが大切です。先ほどの5つの質問にもあったように、「五感を通した体験にどれくらい気づいていますか?」ということです。
    五感を通した体験に気づきながら歩くと、目に見える風景が変わっていき、さまざまな音が聞こえ、風が吹いてきて肌寒さを感じたり、匂いを感じたり、足の裏が地面に触れる感覚もあります。こうしたウォーキングは、とてもよいマインドフルネスの練習になります。
    もちろん、歩きながら考え事は出てきてしまいます。しばらく考えていると、その考え事が自然と消えていくこともあるでしょう。あるいは、「いま五感に気づきながらマインドフルネスウォーキングをしているんだった」とハッと気づき、考え事をいったん脇に下ろして、再び歩き始めることもできます。
    こうして30分ほど歩くと、だんだん心が軽くなっていることに気づくでしょう。気がかりになっていることをたくさん道端に下ろしてきたような感覚です。そんな時間を過ごすと、「いい時間を持てたな」と感じられるはずです。


■マインドフルネス瞑想の実践法

    もうちょっと正式に練習する場合は、マインドフルネス瞑想がおすすめです。瞑想をする際は、呼吸に注意を向けることが一般的です。呼吸に特別な意味があるからではなく、私たちはいつでも呼吸しているので、注意を向ける対象として手軽で、いつでも実践できるからです。
    呼吸は自然の一部なので、早くなったり遅くなったり、不規則になったり、規則的になったりと、常に変化しています。そのため、呼吸に注意を向けることは、変化している現実に気づく練習にぴったりです。

    では具体的なマインドフルネス瞑想のやり方を見ていきましょう。
5.jpg 194.35 KB

① 背筋を伸ばす
    瞑想するときは、背筋を伸ばすことがコツです。背筋を伸ばすだけで、気持ちがスーッと静まり、集中も高まります。
    まず、背筋をすっと伸ばし、その他の体の力は全て抜いた姿勢をとります。少しだけ前かがみになり、下腹にわずかに力が入るくらいがちょうどよいでしょう。

② 身体の動きと感覚に注意を向ける
    呼吸に伴う体の動きと、そのときに体に生じてくる感覚に静かに注意を向けていきます。呼吸は「ゆったりと」行い、なるべくコントロールしないようにします。自然の一部としての呼吸を観察対象にしたいからです。
    注意を向けるときは、お腹や胸など、呼吸を最も感じられる場所に注意を向け、「ふくらみ、ふくらみ」「ちぢみ、ちぢみ」と、感覚をそのまま感じとります。「風」という言葉を使うこともあります。吸う息も吐く息も風なので、「風、風」「風、風」と、呼吸に伴う体の感覚を気づきが追いかけていくような形で行っています。
    これが逆にならないように注意してください。「ふくらみ、ふくらみ」「ちぢみ、ちぢみ」という言葉で音頭を取って呼吸を合わせにいくのではなく、体の感覚が先に来て、その後に気づきと言葉が追いかけていく──この順序が大切です。

③ 雑念が出たら戻る
    この練習は非常に単調なので、やっていると必ず雑念が出てきます。「あ、考え事をしていた」とハッと気づいたら「雑念、雑念、戻ります」と声を掛けて、再び呼吸に伴う身体感覚に注意を戻しましょう。



2025年2月5日    zoomにて開催
『EQ2.0』刊行記念オンラインセミナー「マインドフルネス&EQで磨く新しいリーダーシップ」第2回「マインドフルネスとEQで心の平穏と共感を育てる」を元に再構成
構成:中田亜希



第3回 「することモード」から「あることモードへ:マインドフルネスが導く心の切り替え
第5回     気づきの3つの前線:マインドフルネスが守る心の平穏 





お知らせ

\ 話題の3冊、サンガ新社より続々刊行! /
熊野宏昭先生(早稲田大学人間科学学術院教授)推薦書・著書
EQとマインドフルネスの実践書が勢ぞろい!
いま注目の“心のスキル”が身につく、実践的な3冊をご紹介します!


2.png 652.91 KB

成果を上げる人の90%がEQ(感情的知性)に優れている!
世界で最も使われているEQオンラインテストで自分のEQを測り、
66の実践テクニックから「自分に最適な戦略」が見つかる!

[袋とじパスコード付き]最新EQテスト利用可能
全世界250万部突破、25か国語翻訳!

2025年1月9日発売/定価2,200円(税込)
推薦メッセージ-熊野宏昭.jpg 493.67 KB



3.png 639.93 KB

2万部超のベストセラー、待望の新版!
マインドフルネスの基礎を、心理療法と脳科学の観点からわかりやすく解説。
注意トレーニング音源付きで、実践しながら「今ここ」の感覚を育てられま
す。

注意の持続・転換・分割を鍛える「注意トレーニング音源」付
ACT(アクセプト&コミットメント・セラピー)の理論を凝縮
熊野先生の実践ガイドで「心の使い方」が変わる!

2025年3月4日発売/定価1,540円(税込)

4.png 671.7 KB

熊野宏昭先生による110分の特別ライブ講義をまるごと収録!
理論と実践が一体化した新しい学びのかたち。
動画視聴とブックレットで、体験的にマインドフルネスを深めましょう。


「あしたが変わるトリセツショー」(NHK)出演の熊野先生によるナビゲート
ストレスに負けない戦略が自然と身につく
購入者限定の特設ページで講義動画を視聴可能!

2025年3月4日発売/定価1,540円(税込)

 
忙しい日常にこそ、EQとマインドフルネスの力を。
ご自身の実践に、そして大切な方への贈り物にもおすすめです。