アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

  皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日のテーマは「『中道』を理解するために」です。


[Q]

 「中道」についてお聞きします。長老の著書の中で、中道は間違っている極端の真ん中を取る道ではないと説明されています。私は正に両極の真ん中を取るものだと誤解していました。実際の中道とは、どういったものなのでしょうか?



[A]

■まず「中道」とは「八正道」だと理解する

 「中道(Majjhimā(マッジマー) paṭipadā(パティパダー))」とは、「八正道」という意味です。八正道には「正(sammā(サンマー))」という「ただしい」という文字が入っています。これは正しい道を選ぶことです。正道には「超越道」とも言うのです。
 シンプルに考えてみましょう。例えば「しゃべる」という行為があります。その反対は黙っていることです。それがプラス・マイナス(正反)です。では、どちらが中道になるでしょうか? しゃべることか、黙ることか。半分だけしゃべることでしょうか? 途中までしゃべりそれから黙ることでしょうか? しゃべる/黙るという両極端ではなく、話すべき正しい言葉をしゃべるのが中道です。それ以上はしゃべらないで黙るのです。その態度を「正語」と言います。形だけ見ると、しゃべる/黙るの間でほどほどにしゃべることに見えるかも知れません。ですから、しゃべる/黙るの真ん中を取って「中道」だと誤解する可能性もありますが本当の意味は違います。相手の役に立つ、また事実である言葉を、量と時期を知ってしゃべるのです。正語を実践する人に、真ん中を取っている気持ちは無いのです。

■「中道」として「正しく語る」とはどういうことか

 ですから、八正道ではしゃべる/黙るではなく「正語」を実践してくださいと教えています。「正語」を理解しやすいように四つの、①嘘をつかない、②荒々しい言葉を使わない、③噂を言わない、④無駄話をしない、という項目で教えます。この四つの項目を守るだけでも結構大変だと思いますが、正語は更に進まなければいけません。
 結局、人はなぜしゃべるのか? そのポイントがとても大事なのです。詳細に観ると、しゃべるということは自分の体の中で何かエネルギーが現れて来ることです。「アイデアがある」「しゃべりたい」という止まらない衝動が生じて来るのです。そのエネルギー・衝動を発散しなくてはいけません。それが言葉として出て来るのです。他のことに置き換えて発散できないのです。この、自分の中から出てくるエネルギー・衝動を発散するだけのためにしゃべるのだったら、あまり意味が無いでしょう。

■「正しい道」の実践によって、心は清らかになり衝動は減っていく

 「中道」というのは「正しい道」という意味です。しゃべるということは、外・他人に何かを伝えることでもあります。情報・データが他人の役に立つ、または相手がこの情報を知らなかったら困るということでしゃべるのです。正語・言葉の中道を実践する人々がしゃべらなかったら、大勢が損をするはめになって困るのです。他人の役に立つ目的でしゃべるのが正語です。それ以外は黙っていることが正語となる。ですから、それはただしゃべる・黙ることの真ん中を取っているわけではありません。正語を実践するためには、どうしても智慧が欠かせません。正語だけではなく、八正道には八つの項目があるのです。
 これで私は「中道」を説明したつもりですがいかがでしょうか? 難しければ一般的に「中道」というのは「正しい道(方法)」だと理解してください。生きている上で私たちは無数の行為をしなくてはいけません。無数の判断をしなくてはいけないのです。行為をする時は、正しい行為のみをするのです。判断する時は正しい判断をするのです。ということは、何の躾も無く行為をすることも、判断することも、良くないという意味です。どんな判断をするのか、どんな行為をするのか、と決めるべきところで、中道(超越道)を実践するのです。要するに、正しい行為と正しい判断をするのです。
 正しいか否かを判断することは難しいです。だいたい人は、正しいと思い込んで判断したり行為をしたりするものです。判断が終わってから、また行為をし終わってから、「間違えていた」と気づくこともありますがもう後戻りはできません。だから、お釈迦様が中道を八項目に分けて、その項目の内容も解説して教えたのです。
 私たちは「中道とは何? 正しい道はどう決めるのか?」と哲学的に思考して困る必要はありません。なぜならば答えは「八正道」だからです。八正道に「中道」と名づけているのです。決して「真ん中の道」という意味ではありません。



■出典 『それならブッダにきいてみよう:さとり編2』 

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