前野 隆司(慶應義塾大学大学院教授)
サティシュ・クマール(平和活動家)
平和活動家であるサティシュ・クマール氏と慶應義塾大学大学院教授の前野隆司先生による「Zen2.0 2021」オンライン対談をお届けします。地球的な規模の視点から、人類の幸せ、世界の幸せについて探究されているお二人から、これからを生きる上で大切なことについて語り合っていただきます。
第4回 一人の行動が世界を変える
■小さなドングリが大木になる
前野 いやあ、サティシュさんはエネルギッシュですね。85歳とは思えません。私ももっとエネルギッシュな男になろうと思いました。
私は本当にシューマッハー・カレッジのような大学を作りたいと思っていて、それが夢なのですが、どうすればいいのでしょうか。一言、「作りなさい」と言われそうですけど(笑)。
サティシュさんはどうやってシューマッハー・カレッジを作ったのですか? 最初はどのような感じだったのでしょうか。
前野隆司先生
サティシュ 何かを作りたいときは、まず小さく始めるんです。Small is Beautifulです。大きな樫の木も、最初は小さなドングリでした。人間にできることは、ドングリを土の中に植えることだけです。植えればお日様が助けてくれて、雨が助けてくれて、そして土壌が助けてくれます。そのうち、小さなドングリは大木になります。川も同じです。川も小さく始まりますよね。しずくが集まって流れになり、流れが集まってどんどん大きくなって大きな川になるのです。
物事も同じです。小さく始めるのです。大きくスタートを切らなければ、なんてことは全然心配しなくていい。シューマッハー・カレッジも小さく始まりました。30年前のことです。それが今や世界中で15,000人の卒業生を抱えるまでになりました。日本の卒業生グループは、日本でシューマッハー・カレッジを始めたいと言っています。中国の卒業生グループも中国でシューマッハー・カレッジを始めたいと言っています。ブラジルの卒業生も言っています。そんなふうにして、世界中に広がっています。
ですから心配しなくていいのです。すぐに結果を出さなければ、計画を達成しなければ、といった心配は無用です。小さく始めて、その「小さく始めた」ということに満足する必要があります。小さな小さな種が大きな木に育つのです。
今の時代は小さいことの美しさがあまり理解されていません。しかし、小さな行動や、小さな言葉、一つの愛の言葉が大きなものを作ります。たった1つのリンゴの種から何千本ものりんごの木が育つのです。
だから忘れないでください。自分にできる小さな行動から始めてください。自分の国で、自分の村で、自分の町で、自分ができることをするのが大切です。
ブッダも、そんなふうにして始めましたよね。最初は一人で瞑想して、そして一人で歩き始めました。すると旅の過程で4人の人に出会いました。そして彼らが最初の弟子となりました。4人の弟子から始まって、今やどうでしょう。何百万人もの仏教徒が世界に広がっています。
どんな分野でもそういう例は見つかると思います。小さなところから始めて、コミットする。献身する。信頼する。誓う。自分の行動にそういう価値観を込めていくのです。そうするとの行動が輝きを放ち始めます。その輝きに感動した人々が、手伝いたいと言って自然に集まってくるのです。
サティシュ・クマール氏
前野 人類はこれまで自分の大きさ以上のことばかりしようとして、この地球を破壊してしまったわけですよね。で小さな種から始めるというのは、まさにエコシステムだなと思います。私も小さいところから頑張っていきたいと思います。
■質疑応答
──世界に影響力のあるような人たち、たとえば政治家やビジネスマン、裕福な人たちが内側と外側のエコロジーという観点から物事を考えるようになるために、私たちにできることはあるのでしょうか。同じ人類として、彼らを目覚めさせるべきなのか、あるいは無視したほうがいいのか、アドバイスをお願いいたします。
サティシュ そうですね、少し過激かもしれませんが、「政治家のことは気にするな。企業のことも、産業界のことも、気にするな」というのが私の意見です。
ブッダの活動も別に王宮から始まったわけではありません。キング牧師もホワイトハウスから始めたのではなく、草の根運動から始めました。ガンジーも、ニューデリーからではなく小さな村から始めました。人々の力が民衆の運動を起こして、インドを植民地支配から、帝国主義から解放しました。
ですから、皆さんも草の根の力を信頼してほしいのです。人々の力こそが一番大きな力です。スーパーパワーというのはアメリカのことではありません。中国のことでもロシアのことでもありません。人々の力、私たちの力なのです。
私がキング牧師に直接お目にかかるという光栄な機会を得たとき、キング牧師からこのように言われました。「私たちは、草の根レベルの活動をしていかなくてはいけないですよ。ホワイトハウスは最後に付いてくるのです」と。
ホワイトハウスのリーダー、クレムリンのリーダー、東京や北京のリーダーを説得することに無駄に自分たちの時間を浪費しないほうがいいです。まず草の根レベル、人々のレベルで始めることです。そこからムーブメントを作るのです。たとえばエコな生き方のために、地球を汚しているプラスチック製品は買わない。ボイコットする。するとそれがムーブメントになります。ムーブメントになれば法律ができますし、産業界も「あれっ、みんなプラスチック製品を買っていないぞ。どうしたもんだ」と言って、作るのをやめるでしょう。
人々の力こそが最高のパワーです。人々が決めたことに政府は従うのです。
──自分を信じて何か行動したいと思っても、同調圧力があったり、誤解などで孤立するようなこともあると思います。そういうときに、どうしたら希望を持ち続けられるのか、強くあることができるのか、ということについてお聞きしてもよろしいでしょうか。
サティシュ 答えは、「期待を持たずに行動すること」または「達成の欲望を持たずに行動すること」です。行動すること自体が素晴らしいことです。あなたが世界のなかで見たいと思っている姿を、まず自分自身でやってみる。見本になるのです。するとあなたは光り輝きます。決して人を強制することはなく、ただ光り輝くのです。ガンジーも、キング牧師も、マンデラも、マザー・テレサも自分自身が見本になって、光り輝いて、周囲に影響を与えていきました。
ですから結果は気にしないでください。気にしてほしいのは、ただ自分の行動が純粋で善良であること、そしてコミュニケーションです。詩には力があります。音楽にも力があります。あなたが美しい歌を歌えば、他の人も歌いたくなります。ジョーン・バエズ(Joan Baez)のように、ジョン・レノンのように平和の歌を歌ってください。詩や歌を通じて、アイデアをコミュニケーションしてください。たとえ誰も聞いてくれないとしても、あなたはただ続けるだけです。歩く、歩く、歩く。行動する、行動する、行動する。信じてやることです。
(了)
2021年9月18日 Zen2.0 2021オンライン対談
構成:中田亜希第3回 世界のなかで、愛を、慈悲を実践する