シスター・チャイ・ニェム(釈尼真齋嚴)(プラムヴィレッジ ダルマティーチャー)
島田啓介(翻訳家/執筆家/マインドフルネス・ビレッジ村長)
Zen2.0 2022より、プラムヴィレッジのダルマティーチャーであるシスター・チャイ・ニェムと、プラムヴィレッジスタイルの瞑想実践者であり、ティク・ナット・ハンの書籍の翻訳家でもある島田啓介さんの対談をお届けします。全4回連載の第2回。
第2回 お母さんのように優しく温かなタイ
■世界でも珍しいファミリーリトリート
島田 私がプラムヴィレッジに最初に行ったのは1994年のことでした。今と比べるとコミュニティは小さかったものの、やはり大家族だなという感じでした。夏の間は世界中から人が集まって、リトリートをやるんですけど、それが「ファミリーリトリート」という名前なんですよね。リトリートというのは、まあ瞑想の合宿ですよね。ファミリーと言っても別に家族で来ないとファミリーじゃないよっていうのではなくて、そこに集まった人たちがみんなファミリーなんだ、という感じで、たいへん親切にしていただきました。
瞑想というと、じっと静かにしてなくちゃならないのかなというイメージがありますよね。もちろんそういう場面もありますけれども、ファミリーリトリートではみんなで歌ったり踊ったり、何かゲームをしたりするんです。私も広島デイ、長崎デイ【*1】では、折り鶴をみんなで折るワークショップをさせていただきました。
プラムヴィレッジは、元々みんなファミリーなんだ、ということを思い出す場所なんですよね。その印象が強く残っています。
【*1 プラムヴィレッジでは毎年8月6日、9日の原爆被災の日の近辺に、平和を祈る催しPeace Festivalを開催している。】
過去に開催されたPeace Festivalの様子
©Plum Village Community of Engaged Buddhism, Inc.
シスター・チャイ はい、そうですね、今、いろいろな国にいろいろなスタイルの瞑想センターがありますけれども、子どもを連れて一緒に瞑想する場所というのは少ないと思います。だいたい沈黙が基本となっていますのでね。ですから、静けさを求めて初めてプラムヴィレッジに来られる方は、結構びっくりされていますね。
でも考えてみれば、リトリートに来るのは、マインドフルなライフスタイルを学んで、それを日常生活に持ち帰りたいからですよね。だからリトリートでの環境と普段の自分が生活している環境があまりに乖離していると、学んだものを日常生活で続けていくことが難しいと思います。
プラムヴィレッジは子どももたくさんいますし、みんなでわいわい話したりもしているので、あまり外と変わりません。もちろん沈黙の時間もありますが。
プラムヴィレッジでは日常で扱えるマインドフルネスを皆さんに身につけていただいて、自分の生活に持ち帰ってもらえたら、というような感じでやっております。
■今このとき、すばらしいこのとき
島田 そのリトリートの生活のなかでは、タイのガーター(瞑想のための短い詩)があちこちに貼ってあります。手を洗うときとか、トイレに行くときとか、ごはんを食べるときとか、いろんな短いガーターが目に入るようになっているんです。
プラムヴィレッジのあちこちに掲示されているガーター
© Plum Village Community of Engaged Buddhism, Inc.
シスター・チャイ 持っていますよー、ガーター。
『今このとき、すばらしいこのとき Present Moment Wonderful Moment』ティク・ナット・ハン[著]/島田啓介[訳]、サンガ)を手に
島田 あ、それです。いま日本語に翻訳された『今このとき、すばらしいこのとき Present Moment Wonderful Moment』【*2】を今シスターに見せていただいていますけれど、このなかに、プラムヴィレッジのあちこちに散りばめてある、たくさんの小さな身近な言葉が入っています。ガーターを見ると、「ああ、プラムヴィレッジでやったことは、うちでもできるな」というふうに思います。
今、シスター・チャイが私の自宅に来られた時のエピソードを思い出しました。たくさんの人が集まってシスターと一緒にうちで瞑想会をやったのですが、プラムヴィレッジの出家の方が来るとなると、みんな緊張するじゃないですか。何かちょっと非日常的な雰囲気になっちゃうんですよね。「シスターがいるんだから、いつもよりちゃんと歩く瞑想しなきゃ」とか、真面目な気持ちになってしまって。
つまり緊張しているんですよ。その時にシスターに言われたんです。「もっと、遊びましょう。もっと楽しくやってください。遊ぶということはとても大切ですよ」って。今でも覚えています。
その後も毎年のように、プラムヴィレッジからいろいろな先生方が来てくださっていますけど、皆さん、いつも大切だと仰るのが「プレイフルネス」ですね。「遊ぶということを大切にしてください」と。
今、シスターが言われたように、日常と瞑想の間にギャップを作らないこと、そして子どもたちも一緒に瞑想するということも、大切なキーになるんじゃないかなというふうに、僕自身いつもそれをリマインドしています。
【*2 ティク・ナット・ハン[著]島田啓介[訳]『今このとき、すばらしいこのとき Present Moment Wonderful Moment』は、2017年にサンガから刊行された後、『今このとき、すばらしいこのとき―日々の暮らしの中で唱えるマインドフルネスのことば』として、2023年に野草社より刊行されました。】
〔Amazon〕『今このとき、すばらしいこのとき―日々の暮らしの中で唱えるマインドフルネスのことば』
シスター・チャイ ダーさんのうちにお邪魔したのはいつでしたっけ?
島田 おそらく8年前ぐらいだと思います。
シスター・チャイ ダーさんのお子さんもまだ小さかったですよね。プレイフルネスとか遊ぶこととか、いろいろ日本の皆さんとお話した覚えはありますけど、私が来たことによってダーさんが緊張されていたというのは今初めて知りました。(笑)
島田 そうなんですよ。話しているうちに普通になりましたけど、シスターと話すというだけでやっぱりちょっと身が引き締まるというか緊張する癖がついているんですよね。
シスター・チャイ そうですか。
島田 お顔を見るとね。でも楽しそうに話されているから徐々に安心するんですよ。
シスター・チャイ みんなシスター、ブラザーですしね。ダーさんから見ると私は姪っ子みたいな感じじゃないですか。
島田 出家しているお坊さんとか尼さんというと緊張するのですが、実際にプラムヴィレッジの出家の方たちとお会いすると途端に安心するんです。あり方そのものが「もっと肩の力抜きなさいよ。もっとリラックスしなさいよ」という感じなので。
タイがそういう方でした。ここ鎌倉にも来られていますし、私も何回かお会いしましたけれども、やっぱりお会いする時には、「この人はすごく偉い先生だからちゃんと挨拶しなきゃ」とか「ちょっとでも隙を作るとマインドフルじゃないとか思われるんじゃないか」とか、いろいろ考えました。「タイは心地よく過ごされているかな」とか、もう思考でいっぱいになっちゃって。
でもそういう私の思いとは全然関係なく、タイはとても楽しそうに歩いておられました。タイは姿そのもので教えてくださいますよね。
■タイはみんなのお母さん
シスター・チャイ タイももちろん厳しいときは厳しかったんですけどね。特にmonasic dayという、一般のリトリート参加者が入ってない出家のための法話の時は、厳しくて、自分の家族があまりいいことしてなかったら叱るような感じでした。
でも普段は本当に優しくて、私たちのお母さんみたいな温かい存在でした。お父さんというよりはお母さんみたいな存在だったんです、みんなにとって。
タイご自身の先生も、そうだったんです。タイの先生は昔、ベトナムで食べるものも十分になかったような時代に、若い修行僧のために、十分食べるものがあるかとか、温かい服があるかとかを気にかけて、洋服も縫ってくれたりするような先生だったそうです。タイはそういう本当に温かな先生のもとで育ったので、その精神を受け継いでいらっしゃいました。
島田 プラムヴィレッジでは、誕生日に「Happy Birthday!」ではなく、「Happy Continuation!」と言いますよね。誕生日は「継続の日」であって、その日に誕生したことよりも、継続を祝う。僕たちは継続してるんだ、ということを誕生日にあらためて思うんです。まあ、生まれた日自体も親から継続した日ですし、生まれた後も、親以外からもいろいろ学んで継続している。そういうことを思い出す日ですよね。
それと同時に、誰かが亡くなった日も「継続の日」だというふうに僕は思います。亡くなった方、たとえば親から、あるいはタイから何を私たちは継続しているのだろうと思います。タイが亡くなってからは特に強く思うようになりました。
(第3回につづく)
2022年9月10日 Zen2.0 2022 鎌倉・建長寺にて
構成:中田亜希
タイトル写真:© David Nelson
第1回 自分の中にあるマインドフルネスを再発見する
第3回 インタービーイングの誕生とジョアンナ・メイシー
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