【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】
皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日のテーマは「パニック症状とのつきあい方」です。
[Q]
パニックになる症状が出て、仕事に行けなくなりました。処方された薬を飲みながら気持ちを整えて、仕事を続けながらも自分を変えたいということで、瞑想をしてみるのはいかがなものでしょうか?
[A]
■脳は大きな誤解をしている
それほど大きな問題ではありません。誰だって自分の能力を超えるとパニック状態になるのです。パニックとは、脳がどうすればいいのかわからなくなった状態です。その治療のために薬を使うことは、とても良くないのです。
われわれの脳は大きな誤解をしています。自分に処理できない問題が起きているのだと勘違いしているのです。例えば「仕事に行く」ということを前にすると、「そんなことできるわけがない」と脳が勝手に思い込みパニックを起こしてしまう。仕事ができないと思うなら辞めればいいのですが、一方では辞めたくないし、仕事に行かなくては、という気持ちもある。それで「行ったところで仕事なんかできるわけがない」という状態になって脳がパニックを起こすのです。
パニックの発作が出た時など、一時的に薬を使うことは仕方ありませんが、だからといって脳自体は薬では治りません。かえって脳の機能が弱ってしまうのです。ですから答えは至って簡単です。「この世の中でパニックになるようなことは、ひとつも起こらない。すべてはシンプルであって、大したことはない」というふうに、事実をそのまま理解すればいいだけです。
■誰でもできることしかやってない
私たちは人生でいろいろなことをしていますが、それらは全て「できることをやっているだけ」なのです。できないことは、初めからきれいさっぱり諦めています。まず、この事実を理解してください。世の中を見て「あぁ、あの人はあんなことができる。この人はこんなことができる」と思うのは私たちの錯覚なのです。「あの人は、すごく元気で明るく仕事をしている。それに比べて私はダメだ」と思うことはただの勘違いなのです。他人や世間と自分を比べてみても何の意味もありません。
私から見ても、能力を持った人は世の中にいっぱいいますよ。例えばYoutubeなどで検索してみると、信じられないような歌唱能力を持った子供がたくさんいることがわかります。だからといって「それに比べて私は能力が無い」と落ち込む必要はありませんね。その子供たちには声量があって、自分が気に入っている歌手の真似をしているだけです。それを勘違いして、自分も歌えなくちゃダメだと思うと、脳がパニック状態に陥ってしまうのです。決して、その子供たちのようには歌えませんから。
管轄外のことは放っておいて、自分のできることをやる。歌が上手い子供たちにもできないことは山ほどあるのです。私たちは誰だってそうなのです。自分にできることをやっているだけです。私は今、皆さんに説法しているでしょう。何かすごいことを言っているように感じるかもしれませんが、私にとっては単純にできることをしているだけなのです。決して大胆なことをしているわけではありません。しかし「説法なんかやめて料理を作りなさい」と言われたら困り果ててしまいます。
あなたにしても、自分にできることをやって生きているだけなのです。ですから落ち着いて下さい。パニックになる必要はありません。脳・こころにバカげた錯覚をやめさせて「誰だってできること以外やっていないのだ」と理解させることです。
■「不可能なことは起こらない」と念じてみる
他人のことを考えたり、余計なことを考えたりしてパニック状態に陥る必要はありません。「不可能なことは起こらない」と、脳に繰り返し教えてあげてください。私に起こる問題は、必ず私に解決できるのです。本当は問題でも何でもないことだと脳に教えてあげてください。誰だってできることしかしていないのです。魚は水の中で上手に泳げますが地面は歩けません。そのことに魚は悩んだり、パニックに陥ったりしないでしょう? もし魚が泳ぐのをやめて歩こうと頑張ったとしたらただの愚か者ですよ。
同じように、私たち人間には空を飛ぶ能力がありません。それなのに、両手をはばたかせて飛ぼうとする人がいたら「どうかしている」でしょう。あなたの脳はできないことを妄想してパニックに陥っているのです。自分の脳に向かって「いい加減にしなさい」と言ってあげることです。そうやって脳を自分で躾ければいいのです。何度か言い聞かせるうちに、脳は素直に聞いてくれるようになります。事実を受け入れるようになります。
■できるだけ身体を動かすこと
あとは、できるだけ身体を使ってください。身体を動かすと自動的に脳が正常に働き始めるのです。適当に歩いたりするだけでもいいし、忙しく身体を動かして、とにかく考える暇をなくすことです。ゴチャゴチャ考える暇なく身体を動かしてみましょう。身体はいくら疲れてもいいのです。疲れるまで身体を使うことで、脳はすごくおとなしく落ち着いた状態になってくれます。
何よりも、最初に教えたことが肝心です。私たちはできることをやっているのであって、できないことは最初からやっていません。ですから、パニック状態に陥る必要はないのだと理解する。そうすれば、すぐにこころは落ち着きます。
■出典 『それならブッダにきいてみよう:こころ編2」