アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日のテーマは「目覚めるためのパワーバランス」です。

[Q]

    修行を進めるにあたり、「五力(信・精進・念・定・慧)」を単純に育てるだけでは不充分で、各要素の強さに偏りが無いようにすることも重要であるという話をしばしば耳にします。どのような点に注意すれば、五力のバランスを保てるのでしょうか?


[A]

■進化するために必要な要素

    それは個人差があります。「五力」はパーリ語で「pañca(バンチャ)    bala(バラ)」と言います。最初の「信(saddhā)」とは、学ぶこと・理解することから納得・信頼が生まれて来ることです。それから修行中でも、素直に実践すれば教えた通り現象が観えて来て、「やはり、その通りだ」と納得して、さらに信が強力になります。
    次に、世の中で瞑想(自己観察)というのは一番やりたくない仕事なので、瞑想するぞと思ったとしても、必ず「精進(viriya)」という努力を育てなくてはいけません。瞑想すること、自己観察そのものが「念(sati)」です。瞑想を始めると自然の流れとして、次に「定(samādhi)」といって感情や認識が安定して集中力が生まれて来る。四つのバランスが整ったところで、総合結果として現象の姿・形・法則性が観える「慧(pañña)」が生まれて来るということになるのです。ということで、答えは「頑張るしかない」ということになります。
    修行中に自分の短所が観え、「私にはこれが足りていないのかも」とわかったなら、特別に足りない部分を訓練する。しかし「定」が足りないから「定」だけ訓練しようと思ったとしてもできません。個人に調整できるのは「信・精進・念」の部分だけです。その三つが育つように工夫し、繰り返し行ないパワーアップさせ、バランスを整えると自動的に「定」が生まれて来ます。そして四つが揃えば、「慧(智慧)」も生まれて来ます。もし、なかなか「慧」が生まれて来ない場合は、誰かにアドバイスをしてもらう必要があります。

■閃く瞬間のパワーが不足しているなら

    瞑想実践していると、聞きたいことが出て来ることがあります。宿泊瞑想会の時はインタビュー(面談)をやっているでしょう。元々、インタビューというのは、「慧」を引き出すためのアドバイスなのです。自分が実践している修行の具体的な内容や工程を報告するのですが、本当はその最後の部分(現状)だけ報告すれば充分です。特に男性は一年前に遡って事細かに自分の修行レポートを報告してくれるので時間がかかって仕方ないのですが、その前置きは重要ではありません。大事なのは修行をしている今の状況・ラストシーンなのです。なぜなら一年の結果が今に現れているのですからね。
    例えば自分の目の前にご飯があるなら「これがご飯ですよ」と言えばいいのです。それなのに「まず水を張った田んぼがあって、その田んぼの泥に稲を植えて、雑草を取り除いて……」という話をされてもそんなことはすでに知っています。「この農機具で耕して、この時期に稲刈りをして、干したら脱穀して、この袋に米を入れて、こんな炊飯器で炊きました」など、そんなことを時間単位で精密に報告する必要は、本当はありません。

■探求のパワーを最高潮にする

    瞑想実践は個人的なことなのに、そんな個人的な内容をなぜ他人に話さなければいけないのかというと、指導者には少し心配があるのです。人間は皆ワンパターンに嵌って、ゲージの中のハムスターのように回し車をグルグル回しがちだからです。誰にも「探求(exploration)」という精神が無いのですね。「これは何だ」「見つけてみよう」という精神です。そういう性格の人はとても少ないです。皆、口を揃えて「どうしたらいいですか?」と訊いてきます。指示を待っているだけのロボットみたいです。それでは五力は育てられません。心を成長させるためには探求する能力がどうしても欠かせません。そこを引き出すためにインタビューをする必要があるのです。「慧」が現れそうに無い場合、インタビューで指導者は探求心を刺激してあげるのです。
    ということで、自分の努力で何とかすべき「信・精進・念」を順番・段階的に強化していく。そうすると「定」も現れてきます。その四つのバランスを整えることはできます。瞑想実践は調子良く上手く進んでいるのに、なかなか「慧」が生まれて来ない場合には、説法を聞くか、経典を読んでみるか、先輩や指導者にアドバイスを受けるかして、そこで智慧を生む取っ掛かりを作るのです。



■出典    『それならブッダにきいてみよう: 瞑想実践編4』
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