石川勇一(臨床心理士、公認心理師、相模女子大学人間社会学部人間心理学科教授、行者)

第8回    在家修行者としての生き方


59.コロナ襲来で急いで帰国

    このように私は完全無言行に励んでいましたが、巷では新型コロナウィルスの感染が拡大し、タイでもクラスターが発生して緊迫した事態になっていました。隣のマレーシアは3月20日に出入国禁止となり、まもなくタイも追随するといわれ、次々と飛行機が欠航していました。そこでターナタンモー比丘が無言行中の私に突然話しかけてきました。「石川さん、命にかかわることではないので応答しなくても結構ですが、一応お知らせします。新型コロナがタイで広がっていて、飛行機が飛ばなくなってきています。このままだと国境が閉鎖され、石川さんは日本に帰れなくなるかもしれません。修行を中断しますか」。これを聞いて私は突然現実に引き戻されました。個人的にはタイで引き続き修行ができたら幸せでしたが、4月から大学で授業を担当しなければならないので、そういうわけにはいきません。したがって、どうしても3月中に帰国しなければなりません。そこで「お知らせいただきありがとうございます。沈黙行を中断させてください」と、久々に言葉を発しました。ここからは急展開になりました。私が予約していた月末の帰国の便はすでに欠航となっていました。急いで他のチケットを予約するのですが、次々とそれも欠航になってしまいました。旅慣れたターナタンモー比丘に手伝っていただきながら、最終的には3月22日の21時チェンマイ発、バンコク乗り継ぎの夜行便で成田に向かうタイ国際航空のチケットを予約し、これが飛ぶことに賭けて、予定を早めて寺を出ることに決めました。