アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日は「将来に対する危機管理・リスクマネジメント」と、仏教が説く「今を生きる」ことは両立できるのかどうかについてスマナサーラ長老が答えます。

[Q]

   日本には「転ばぬ先の杖」ということわざがあります。世の中では「リスクマネジメントは欠かせない」「将来への備えを」と言われることが普通です。これに対して仏教では、「今を生きること」「将来を心配しないということ」が強調されます。どう考えればよいのでしょうか?
 
[A]

■リスクマネジメントとは「今」の問題
 
    確かに、現代社会には「リスクマネジメント」という単語があります。しかし、実際には誰もリスクマネジメントなどしていません。日本は立ち上がれないほど経済状態が悪いのに何も気にしてないようです。格好をつけて、いまだに無駄遣いを続けています。原発は危険だということは子供でもわかるのに「日本の原発は世界で一番安全だ、絶対に安全だ」と言い続けて、最悪の大事故を起こしてしまいました。
    大変なのは「今」です。「今」何とかしなければいけないのです。将来がどうのと妄想して、あれやこれや考えても意味がありません。飛行機のパイロットは精密にハザード訓練をしているでしょう。彼らは飛行機がちょっとしたことで墜落するのは、「今ここ」の現実だと知っているからです。危険が現実だと理解して対応するならば、その分は確実に安全になります。
    私たちは「将来」を妄想して偽善世界に生きることをやめるべきです。リスクマネジメントは現実であって、今の問題なのです。今金融市場に投資しても、ドカンと金が無くなる可能性があります。五年先ではなく、今がどうなっているか観察すればわかることです。金融市場は気まぐれな空気や気分で揺れ動きます。それで、実業をしている人々が迷惑するのです。私が経営者ならそういう世界からは離れます。誰かさんの気分で、人々の長年の努力がパーになるような経済システムはおかしいですからね。
    私たちは眼の前の現実を見て、日々調整して生きていかないといけません。世界に冠たる日本の自動車メーカーも、販売不信の時のリスクマネジメントは無かったのです。よくよく見ると、リスクマネジメントというのは掛け声だけで誰も実行していません。ウソをついて、無駄な金を使っているだけです。
    人間はどうしても、見えないからこそ先を見ようとします。それで却って足下が見えなくなるのです。足下が見えなければ、当然、倒れます。今の現実の自分をしっかり見据えることが、即ちリスクマネジメントです。ビジョンではなく現実を見るべきです。
    将来を気にしてもしょうがないのです。「老人が転ばないように杖を持って歩く」「運転する前に道路標識を理解する」これは、今の現実への正しい対処です。しかし、将来が不安だからと言って、若者が杖を握りしめても意味がありませんね。日々トラブルは起こり得るのです。常に現実を見て、その都度適切に対応するべきです。


■出典     『それならブッダにきいてみよう:ライフハック編』   

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