ブラザー・ファップ・ユン(Brother Chân Pháp Dung    釈真法容)


2024年3月、禅僧ティク・ナット・ハン師(2022年遷化)が創設したプラムヴィレッジから僧侶が来日し、実践の指導を行なう『プラムヴィレッジマインドフルネスジャパンツアー2024 Being Peace』が開催されます。
今回来日されるダルマティーチャーの中では「ブラザー・ファップ・ユン」が最古参。プラムヴィレッジでも中心的な存在のひとりです。
9年前の2015年に来日した際に日本のサンガメンバーである島田啓介さんがブラザー・ファップ・ユンにインタビューを行いました。全3回連載の最終回です。


第3回    ディスカッションと寛容


■「WAKE UP!」=ディスカッショングループ

ファップ・ユン    「WAKE UP!」は数人いれば、始められます。ロンドンの「WAKE UP!」は3人でスタートしました。3人でスタートして、最初の瞑想フラッシュモブのときには、50~60人ほど集まったのではないかと思います。
    フラッシュモブの翌日、その様子をニュースで見た人たちから、「どんな組織がフラッシュモブを運営しているのか」と問い合わせのメールがたくさん届いたんですよ。きっと皆さん、大きな組織があると思ったんでしょうね(笑)。でも実際はたった3人です。それがすべてです。
「WAKE UP!」の企画は本当に楽しいんですよ。もしぼくが日本の「WAKE UP!」グループのメンバーだったら、地下鉄の瞑想をやってみたいですね。20人ぐらいで地下鉄を半日ほど楽しむ地下鉄旅行です。どこかに行くための旅行ではなく、地下鉄で移動すること、地下鉄の中で座っていること、立っていること、それをただ楽しむ旅行。階段の上り下りも、マインドフルに行います。
    地下鉄の瞑想は、そうですね、3つのグループでスタートしましょうか。そしてどこかで落ち合うんです。落ち合ったあとは、ちょっとしたピクニックをしてもいいですね。楽しそうでしょう?(笑)
    もし日本の「WAKE UP!」にサポートが必要であれば、プラムヴィレッジから「WAKE UP!」の始め方などが書かれたパッケージをお送りすることもできます。もちろん、日本の「WAKE UP!」グループがプラムヴィレッジに来るのも大歓迎ですよ。
    ぼくたちは各国の「WAKE UP!」のグループとプラムヴィレッジでいろいろな問題について話をしています。仕事のことや、野心について。お金を稼ぐことについても話しますし、性的なことや、人間関係、パートナーとの関係についても話します。ポルノ、インターネット、マスターベーションについても話します。愛についても話します。男の子はブラザーと、女の子はシスターと本音でディスカッションをするんです。
    みんな苦しんでいます。だから話すべきですなんです。誰もが自分の父親や母親、夫、妻、子どもたちとの関係について、問題を抱えています。誰もがプレッシャーを感じていて、ストレスで疲れています。そうではない人がいるでしょうか?    苦しみは共有する必要があります。共有すると、誰もが苦しんでいると知って、互いに寛容になれるのです。
    ですから「WAKE UP!」とは、いろいろな問題についてディスカッションをするためのグループ、とも言えますね。ディスカッション自体が瞑想です。ディスカッションというのは、男性として、女性として、若い人間として、どのようにすれば健康的な人間関係を持てるだろうかと、自分の人生を深く観察することだからです。
    プラムヴィレッジに来て学べば、日本に戻ったあとに、より深い気づきを得ることができるでしょう。それに、皆さんが一緒にプラムヴィレッジに来れば、みんなで同じ経験をシェアすることになりますから、家族のような深い関係を築くこともできますね。

■「WAKE UP!」というムーブメント

島田    「WAKE UP!」が世界各地で盛んになっていますが、そのムーブメントについては、どのように感じていますか?

ファップ・ユン    「WAKE UP!」のムーブメントを最初に起こしたのはブッダです。ブッダという名前は、目覚めた人、という意味です。ぼくたちは、ブッダの名前から、「WAKE UP!」の名称をいただきました。
    ブッダは経験しました。財産があっても幸せではない。権力があっても幸せではない。有名であっても幸せではない、と。そして、「立ち止まれば、だれもが幸福に気づくことができる」、ということに気づき、目覚めたのですね。
    ムーブメントというのはダイナミックです。文化に対して、何かしらの変化をもたらすものですから、ぼくはワクワクしています。ムーブメントには、小川の流れのように、ある種の方向性があります。「WAKE UP!」のムーブメントは、若い人たちが、より健全でゆったりとした方向へ、生き方をシフトするのに役に立っているのではないかと思います。
    皆、一生懸命、仕事をしていますよね。大学の学位を取るために借金をしていれば、その返済のために一生懸命働かなくてはなりません。あれこれ買い物もしますから、ますます働く必要が出てきます。家やマンションも買いますね。結婚もしたいですね。
    でも誰も、どうやって仕事をして、どのように社会に貢献し、どのようにパートナーとの人間関係を築けばいいかについては、教えてくれないのです。おとなはみんな、「早く結婚相手を見つけなさいよ」と、ただ若い人たちに言うだけなんですね(笑)
    そんなふうに言われますから、若い人たちはパートナーを探すわけです。しかしパートナーとの良い関係を、長く続けることができません。みんな自分自身を深く知らないからです。自分自身を愛する方法を知らない人が、どうして他の人を愛することができるでしょうか。
「WAKE UP!」では、こんなふうに言うんですよ。「急がなくていいですよ。あなた自身がハッピーであれば、自然に人間関係が育ちます。そして同じようにハッピーな人が、あなたの人生に訪れます。探しにいく必要なんてないのです。もしパートナーが見つからなくても、それはそれでいいのです。一人でもハッピーということなのですから」とね。
    タイはこんな人に、サーティフィケイトを授けたいと言っていますよ。幸福でいる方法を理解している人。自分自身の取り扱い方を理解している人。どうすればリラックスできるかを理解している人。穏やかな気持ちでいるにはどうすればいいか、平和的で、過剰に反応しないようにするにはどうすればよいかを理解している人。怒りや悲しみ、性的欲求や自分の欲望に、どう対処すればよいかを理解している人。話を深く聞くコミュニケーションの方法を理解している人。批判的にならず、周りの人たちと発展的な関係を築く方法を理解している人にです。
    真の幸福というのは、誰かに褒められたり、何かを成し遂げたりして得られるものではありません。幸せは自分の内側にあるものなのです。「自分自身が幸福になるためには、素の自分でいなさい、美しく生きなさい」、これがタイのヴィジョンです。

■日本の人たちへのメッセージ

島田    最後に、日本の人たちに向けてメッセージをお願いします。

ファップ・ユン    成功することも大切ですが、幸せであることも、同じように大切です。成功によって幸福が失われると考えるべきではありません。
    アメリカの企業も、その点でたいへん苦労しています。成功している企業でも、従業員は幸せではないのです。ぼくたちはときどき、そういった企業に招かれて行くのですが、皆さん、たいていストレスで苦しんでいます。頭の切れる人たちも、決して幸せではないのです。皆、あまりにも利己的で、正しさばかりにとらわれ、他人に対して批判的だからです。頭が切れて、有能で、いつも正しい人というのは、同僚として一緒に働くには、ちょっと難しい存在になってしまいます。常に正しい人と一緒に働くのは、ちょっと大変ですよね。
    クラウドコンピューティングの「セールスフォース」という会社をご存知でしょうか。アメリカの大きな会社ですが、その会社のCEOであるマーク・ベニオフが、タイを招いたことがありました。マークは、いろいろなビジネス分野で、同じようにCEOをやっている友だち50人を集めて、タイと一緒に、マインドフルな一日を過ごしました。
    マークはプラクティスを経験したあと、「1、1、1の公式」というものを作りました。会社の資産の1%は社会貢献に使う。自分の時間の1%はボランティアに使う。自分の収入の1%は寄付をする。そんな公式です。
    彼の会社はとてもいい会社ですよ。ビジネス界の人たちも、ゆっくりと変わり始めているのではないかと感じますね。
    今回のツアーでは、マインドフルネスのプラクティスを日本のビジネスパーソンとも一緒に行うことができました。一日だけだったのでとても短い時間でしたが、おもしろかったですね。ある若い男性が、日本について教えてくれました。「誰かが作ったマシーンを、ぼくたちは完璧に操縦している。修理する必要もないくらい、美しく、完璧に。しかし、そのマシーンには、電源を切るボタンが付け忘れられていた。だからマシーンを動かし続けることはできても、どうやって止めていいかわからないんです」とね。
    彼はグループのみんなの笑いを誘いました。
    優れた洞察力を持っている彼は、プラクティスを通して、心を養う方法がわかったと言います。目覚めたんだと思いますね。

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    どんな会社でも、オフィスでちょっとしたトラブルが起きることがあると思います。トラブルが起きると、解決に1週間はかかりますよね。みんなプライドがあって、頭でっかちになっているからです。しかし、プライドや競争心は、集団をバラバラにしてしまいます。ですから、心を育てることが必要なのです。
    1週間に2回ぐらい、少し早く会社に来て瞑想するといいですよ。瞑想=怠けている時間ではありません。会社の瞑想スペースで座り、感情を鎮めれば、同僚とよりよい仕事ができます。仕事が効果的になるのです。
    と言っても、同僚に瞑想を強いる必要はありません。自分が始めればそれでいいんです。

    今回のツアーを通じて、目覚めた人が何人もいると思います。今後も、目覚めの火を絶やさないことが大切です。目覚めたことを過小評価せず、その火をキープして、育てていくのです。
    現代社会は、これまで以上にプラクティスが必要とされるでしょう。現代社会には差別が、メディアには憎しみが蔓延しています。今のメディアが扱うものは、批判、偏見、怒り、絶望、落胆ばかりです。メディアは世の中に何を供給するのか少し見直す必要があると思いませんか。
    世の中で起きているのは悪いことばかりではありません。良いことだって起きています。メディアはもっとそれを伝える必要がありますね。若い人たちが、自分もそれに参加したい、自分も世の中に良い変化を起こしたい、と思えるような、そういうポジティブな出来事を伝えるべきです。愛、思いやり、理解、喜び、希望を育てる方法を、メディアを使って広めるのです。
    プラムヴィレッジ来日ツアーのドキュメントブック『ティク・ナット・ハンマインドフルネスの教え』を刊行するのは、メディアとして、非常に価値のあることですね。これも「WAKE UP!」のムーブメントの一つと言えるでしょう。素晴らしいことです。


取材/島田啓介
翻訳・構成/中田亜希
*本記事は『ティク・ナット・ハンマインドフルネスの教え』(サンガ)を元に編集したものです。



第2回    世界と日本の「WAKE UP!」

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2024年3月、禅僧ティク・ナット・ハン師(2022年遷化)が創設したプラムヴィレッジから僧侶が来日し、実践の指導を行なう『プラムヴィレッジマインドフルネスジャパンツアー2024 Being Peace』が開催されます。


■ジャパンツアー趣旨

ティク・ナット・ハン師は「平和な世界は、自分の心の平和から生まれる」と説きました。
その波は、「私」から周りへ、そして世界へと広がっていきます。
そのためにはまず、私たちの中にある、苦しみ、悲しみ、怒りを解放し、平安な心を育むことが大切です。
今回のツアーは、テーマを「Being Peace~平和を生きる~」とし、来日するゲストの僧侶の在り方(Being)に直に触れながら、内なる平和(Being Peace)を育むための実践を共にします。

今回の来日は、ベトナムで執り行われるティク・ナット・ハン師三回忌に世界各地から集まるダルマティーチャー達が、法要終了後にアジア各地を訪れるツアーの一環です。広島を皮切りに、鎌倉、東京、愛知を巡る合計で9つの催しが行われます。

■ジャパンツアー詳細

Mindfulness Japan Tour 2024
Being Peace~平和を生きるウェブサイト
https://tnhsangha.wixsite.com/mindfuljptour2024

■講師/来日する僧侶のご紹介

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◆ブラザー・ファップ・ユン
世界のプラムヴィレッジの中でも最も敬愛されるダルマティーチャーのひとり。元建築士・デザイナー。あたたかく親しみやすい人柄とパワフルな法話に定評がある。アメリカのディアパーク僧院に暮らす。

◆シスター・リン・ニェム
タイ国生まれ、アメリカで学ぶ。ユニセフなど数多くのNGO団体で働く。タイ国プラムヴィレッジ建立に尽力し、重要な役割を担った。タイ国プラムヴィレッジに暮らす。

◆シスター・キン・ニェム
15歳で出家。15年以上ティク・ナット・ハン師のアテンド(付き人)を務めた。現在アメリカのディアパーク僧院に暮らし、お茶や笑いを分かち合うことを楽しんでいる。

◆ブラザー・ファップ・コイ
現在フランスのプラムヴィレッジで暮らす。山でのハイキングや自然の中での実践を好み、草木の手入れや動物の保護に心を寄せている。自称「怠け者の僧侶(Lazy monk)」。

◆シスター・チャイ・ニェム
アメリカで生まれ、子ども時代を横浜で過ごす。出家前は、世界的に活躍するプロのヴァイオリニスト。日本人出家者で初めてのダルマティーチャーとなる。

より詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。
https://tnhsangha.wixsite.com/mindfuljptour2024/monastics-profile



主催:プラムヴィレッジ招聘委員会 
共催:プラムヴィレッジ
            鎌倉イベント/ZEN2.0
協力:マインドフルネス・ビレッジ
            広島イベント/NPO法人ワンシード、イエスズ会長束黙想の家、
                                        株式会社PLAY SPACE、イニアビ農園 
後援:広島イベント/広島市、中国新聞 

主催:プラムヴィレッジ招聘委員会
Mindfulness Japan Tour2024 Being Peace事務局
連絡先: beingpeace.jp@gmail.com

ウェブサイト     https://www.tnhjapan.org/ 
Facebook     https://www.facebook.com/tnhjapan 
Youtube     https://www.youtube.com/@plumvillageinjapanese



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シスター・チャイ島田啓介さんによるZen2.0での対談「ティク・ナット・ハン禅師が伝えたインタービーイングの世界」を収録した『サンガジャパンプラスVol.3』が2024年3月2日に発売になりました。

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