ブラザー・ファップ・ユン(Brother Chân Pháp Dung    釈真法容)


2024年3月、禅僧ティク・ナット・ハン師(2022年遷化)が創設したプラムヴィレッジから僧侶が来日し、実践の指導を行なう『プラムヴィレッジマインドフルネスジャパンツアー2024 Being Peace』が開催されます。
今回来日されるダルマティーチャーの中では「ブラザー・ファップ・ユン」が最古参。プラムヴィレッジでも中心的な存在のひとりです。
9年前の2015年に来日した際に日本のサンガメンバーである島田啓介さんがブラザー・ファップ・ユンにインタビューを行いました。全3回連載の第2回です。


第2回    世界と日本の「WAKE UP!」


■世界中で盛んな「WAKE UP!」

島田    「WAKE UP!」の活動は多くの国で行われているのですか?

ファップ・ユン    ええ、これまでに、ニューヨーク、ボストン、スペイン、ロンドンのトラファルガー広場や香港、パリ、ロサンゼルス、パサディナなどで行っています。スペインでの「WAKE UP!」は大規模でした。ニューヨークやロンドンの「WAKE UP!」には若い人たちが本当にたくさん来てくれて、若い人たちに瞑想が広まるきっかけとなりました。
    1カ月前、プラムヴィレッジでイギリスの「WAKE UP!」グループ向けのリトリートを行いました。100人、いや200人ぐらいの若い男女がイギリスからプラクティスを実践するために来ていましたよ。若い人たちが1週間も外国に行くのは大変なことですよね。でも彼らは来ました。素晴らしいことですね。
「WAKE UP!」はわたしたちの先生であるティク・ナット・ハン師が、若い人たちのために編み出しました。タイは人生を通じて、世界中の若者たちを教え導いたのです。
「WAKE UP!」のムーブメントは世界各地で盛んになっています。若い人たちが、より健康的な生き方をし、より健全な良識を持って生きることに興味を持っている現れではないでしょうか。
    大人はレストランでおいしいものを食べたり、何か楽しいことをしたりするためにお金を使いますが、若い人たちは、それにとって代わる別の何かを模索しているのだと思います。消費社会に対する抵抗のようなものかもしれませんね。それをみんなで一緒にやっているのです。
    みんなで一緒にやるということもある種の抵抗です。個人主義に対する抵抗ですね。個人主義というのは、なんでも自分だけでやるということですけど、才能のある若い人たちは個人主義のために、とても孤独を感じています。
    学校ではずっと人と競うことを教えられてきました。ぼく自身も、競争の激しい環境で教育を受け、育ちました。常に他人を意識して、自分がどんどん前に出るようにと教えられました。
    しかし、人間はそうすることでどんどん利己的になっていきます。
    若い人たちはみんなと一緒に働いたり協力したりすることが苦手です。自分は成功したいと思っている、だけどほかの人の成功のために力を貸すことを知りません。
    有名企業で働く人たちでも同じですね。「WAKE UP!」は、そういった利己的な文化への抵抗であると言えるでしょう。

■スタートした日本の「WAKE UP!」

島田    日本の「WAKE UP!」はスタートしたばかりです。日本にはプラムヴィレッジのお坊さんがいませんが、日本の「WAKE UP!」は今後も続いていくと思いますか?    わたしたちが「WAKE UP!」を続けていくには、どうすればよいのでしょうか?

ファップ・ユン    日本でも2012年にスタートしましたね。もし日本の若い人たちが、「WAKE UP!」をクールで素晴らしいと感じたら、続いていくのではないでしょうか。
    原宿で瞑想フラッシュモブでは、みんなで自分自身の呼吸に意識を向ける瞑想をしました。本当に良い瞑想でした。下には電車が通り、前には人々が歩いている。そのことで、瞑想の静けさが、より際立ちました。
    皆さん、自分自身を深く見るということを通じて、深い喜びを感じたのではないでしょうか。ショッピングをしなくても、忙しく走りまわらずとも、幸福を感じられる、ということに気づいたのではないかと思います。
    日本の「WAKE UP!」はソーヤー海(かい)君がリードしていますね。海くんは「日本の若い人たちは年上の人に従うほうが安心で、自らリーダーになろうとはしないんですよ」と言っていました。若い人たちは、自分が何をすればいいのか、誰かに教えて欲しいと思っている。だからぼくたちプラムヴィレッジの僧侶が日本でも必要とされているということなのかなと思います。
    ただ、「WAKE UP!」はお坊さんに依存するものであってはいけないとも思うんですよね。本来、「WAKE UP!」はお坊さんもお寺も必要としていません。自分自身が主役で、自分で理解するもの。だから「WAKE  UP!」(目覚めよ!)と名付けられているんです。
    プラムヴィレッジのマインドフルネス・プラクティスは効果的です。その効果を一度でも味わうと、決して忘れることはないんですよ。それは新鮮な水を味わうようなものだからです。
    これまで皆さんは化学物質や着色料の入った、派手で刺激的な飲み物ばかり飲んでいました。だからプラクティスを通じて、新鮮な水を味わうと、心が解放されるんです。安心し、癒やしを感じ、平和を味わうことができます。涙があふれることもあるでしょう。
    それはこれまでに味わったことがない、本当に新鮮な水です。ですから、その後も飲み続けたいと思うのです。
    皆さんが皆さん自身の生き方を変えたいと思っているなら、ご自身で、新鮮な水を味わう必要があります。時間を見つけて自分でやってみることです。

■瞑想ホールよりも、ときに効果的

「WAKE UP!」を続けるために必要なことはそれほど多くありません。クリエイティブで、中身が伴っていればそれでいいんです。お金を使う必要もありませんし、仏教徒として何かをしなければいけない、というものでもありません。ですから、ぼくたちを待っている必要はない。若い人たちがやりたいことをやればいいのです。
    ただ、健康的である必要はあります。殺さない、傷つけない、ベジタリアンの食事をとる、煙草を吸わない、お酒を飲まない、性的なエネルギーを適切に扱う。つまり、5つのマインドフルネストレーニングのガイダンスに従うということです。
    イギリスの「WAKE UP!」グループでは、夜、みんなでクラブに踊りに行くんですよ。ぼくたちはアルコールを飲みませんから、アルコールの置いていないクラブに踊りに行きます。若者が大勢で踊りに行っても性的なこととは無縁です。ノンアルコールですから、突拍子もないこともしません。ただ、楽しむんです。踊ること自体は健康的で、楽しいことですからね。
    確かシンガポールだったと思いますが、そこではみんなでドラムを演奏しながらモールを歩く活動に参加しました。そのあとのダルマ・シェアリングで、ある男性が「ぼくはずっと不安だったけど、みんなと一緒に歩いたおかげで公共の場でリラックスできるようになりました」とシェアしてくれたのを今でも覚えています。以前の彼は自意識過剰で、周囲の人たちが、いつも自分を見ているように感じていたんだそうです。自分はいつも何かまちがっているのではないかと不安だったと。でもわたしたちと一緒に歩くことで、彼は安らぎを感じた。公共の場で、素の自分でいる方法を学んだんです。公共の場という、ノイズの多い場所で彼は目覚めたんですね。公共の場での瞑想は、瞑想ホールでの瞑想よりも、ときには効果的だということです。
    同じことが原宿での瞑想フラッシュモブでも起きました。消費の中心地である原宿で、多くの若い人たちが目覚めたんです。ある男性はこんなことをシェアしてくれました。「ぼくはこの公園を何度も通ったことがありますが、周りの木を意識したのは今日が初めてです」とね。
    街の中には美しい木がたくさんあります。でも忙しく走りまわっている人たちは、なかなか木に気づくことがありません。「WAKE UP!」は、ビジネスパーソンではない別の生き方があると知ったり、スマートフォンにかじりついているよりも、もっと楽しい生き方があると気づくきっかけになるということです。

(第3回につづく)


取材/島田啓介
翻訳・構成/中田亜希
*本記事は『ティク・ナット・ハンマインドフルネスの教え』(サンガ)を元に編集したものです。



第1回    東京とマインドフルネス
第3回    ディスカッションと寛容

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2024年3月、禅僧ティク・ナット・ハン師(2022年遷化)が創設したプラムヴィレッジから僧侶が来日し、実践の指導を行なう『プラムヴィレッジマインドフルネスジャパンツアー2024 Being Peace』が開催されます。


■ジャパンツアー趣旨

ティク・ナット・ハン師は「平和な世界は、自分の心の平和から生まれる」と説きました。
その波は、「私」から周りへ、そして世界へと広がっていきます。
そのためにはまず、私たちの中にある、苦しみ、悲しみ、怒りを解放し、平安な心を育むことが大切です。
今回のツアーは、テーマを「Being Peace~平和を生きる~」とし、来日するゲストの僧侶の在り方(Being)に直に触れながら、内なる平和(Being Peace)を育むための実践を共にします。

今回の来日は、ベトナムで執り行われるティク・ナット・ハン師三回忌に世界各地から集まるダルマティーチャー達が、法要終了後にアジア各地を訪れるツアーの一環です。広島を皮切りに、鎌倉、東京、愛知を巡る合計で9つの催しが行われます。

■ジャパンツアー詳細

Mindfulness Japan Tour 2024
Being Peace~平和を生きるウェブサイト
https://tnhsangha.wixsite.com/mindfuljptour2024

■講師/来日する僧侶のご紹介

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◆ブラザー・ファップ・ユン
世界のプラムヴィレッジの中でも最も敬愛されるダルマティーチャーのひとり。元建築士・デザイナー。あたたかく親しみやすい人柄とパワフルな法話に定評がある。アメリカのディアパーク僧院に暮らす。

◆シスター・リン・ニェム
タイ国生まれ、アメリカで学ぶ。ユニセフなど数多くのNGO団体で働く。タイ国プラムヴィレッジ建立に尽力し、重要な役割を担った。タイ国プラムヴィレッジに暮らす。

◆シスター・キン・ニェム
15歳で出家。15年以上ティク・ナット・ハン師のアテンド(付き人)を務めた。現在アメリカのディアパーク僧院に暮らし、お茶や笑いを分かち合うことを楽しんでいる。

◆ブラザー・ファップ・コイ
現在フランスのプラムヴィレッジで暮らす。山でのハイキングや自然の中での実践を好み、草木の手入れや動物の保護に心を寄せている。自称「怠け者の僧侶(Lazy monk)」。

◆シスター・チャイ・ニェム
アメリカで生まれ、子ども時代を横浜で過ごす。出家前は、世界的に活躍するプロのヴァイオリニスト。日本人出家者で初めてのダルマティーチャーとなる。

より詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。
https://tnhsangha.wixsite.com/mindfuljptour2024/monastics-profile



主催:プラムヴィレッジ招聘委員会 
共催:プラムヴィレッジ
            鎌倉イベント/ZEN2.0
協力:マインドフルネス・ビレッジ
            広島イベント/NPO法人ワンシード、イエスズ会長束黙想の家、
                                        株式会社PLAY SPACE、イニアビ農園 
後援:広島イベント/広島市、中国新聞 

主催:プラムヴィレッジ招聘委員会
Mindfulness Japan Tour2024 Being Peace事務局
連絡先: beingpeace.jp@gmail.com

ウェブサイト     https://www.tnhjapan.org/ 
Facebook     https://www.facebook.com/tnhjapan 
Youtube     https://www.youtube.com/@plumvillageinjapanese




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『サンガジャパンプラス Vol.3』    好評発売中!


シスター・チャイ島田啓介さんによるZen2.0での対談「ティク・ナット・ハン禅師が伝えたインタービーイングの世界」を収録した『サンガジャパンプラスVol.3』が2024年3月2日に発売になりました。

なんとか『プラムヴィレッジマインドフルネスジャパンツアー2024 Being Peace』の開催に間に合いました!

森竹ひろこ(コマメ)さんによるインタビューシリーズ 今ここにある仏教[第1回]「ティク・ナット・ハンを日本に伝え続ける実践と両輪の翻訳者──池田久代」も掲載されています。

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