【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】
皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日のテーマは「人前であがらない方法」です。
[Q]
人前で話そうとすると、どうしてもあがってしまい、言いたい事が充分に言えません。どうすれば克服できますか?
[A]
問題点① 妄想の中での自己評価
解決のために理解して欲しい問題点が二つあります。
一つ目は、自分を妄想の中で高く評価していること。そういう人は「恥ずかしい目に遭いたくない」「みんなに褒めて欲しい」「認めて欲しい」「歓声をあげて自分の話に賛成して欲しい」というようにイメージを膨らませてしまうのですね。しかしこれはあくまでも妄想で、大前提である自分の能力の有無については考えていません。自分の事を考え過ぎるので必ずあがってしまいます。「どうやって歩けばいいか」「どんな風に話せばいいか」「こんな事をしたら笑われるのではないか」とかね。あまりにも自我意識が強いので、本番では能力を発揮することはできません。しっかり予習してあってもしゃべれなくなってしまうのです。
問題点② 相手が偉く思えてしまう
二つ目に、自分より相手をずいぶん偉く感じてしまうこと。「あの人は自分に比べれば完璧で、しっかりしていて、一つひとつ厳しく評価するだろう」とか「会場では何百人もの人が待ち構えているだろう」とかね。このように、話を聞かせる相手が手に負えないほど偉いと考えてしまうと、話すどころか足が震えてきます。ただの妄想ではなく、聴衆が本当に偉いという場合もあります。例えば就職の面接を受ける時、会社がいろいろ判断するだろうという事は妄想ではなく事実ですね。面接官たちは応募者の中から誰を落とすかを決めるのです。二人の採用枠に一〇〇人が応募したなら九八人は切らなくてはいけませんから、その場で欠点探しをします。それを考えてあがってしまうのは自然の流れだから悪いことではありません。
この二つの要因を理解しないと、あがり症は治りません。
解決策ステップ① とにかく話す内容に集中する
ではどうすればいいのでしょうか? 第一は、とにかく話す内容に集中すること。酒の席でのおしゃべりでも内容に真剣になることです。とにかく伝えたい事やテーマに徹底的に集中するのです。それであがり症は消えますよ。ただ、それにも問題はあって、「あまりに長時間しゃべってしまわなかったか?」「相手は理解しているか?」「嫌がっていないか?」などに気がつかなくなる恐れもあります。とにかく、まずは内容に集中することであがり症を治すことを一番に考えましょう。
最初は失敗してもいいですよ。「相手は居眠りしてるのに、一方的にしゃべっている」という羽目になるかもしれませんが、徹底的にやってあがり症を克服してから、ちょっと落ち着いて、相手がちゃんと聞いているかどうか? 面白がってくれているか? という点もチェックします。
解決策ステップ② 相手に愛情を持つ/聴衆を仲間だと思う
面接や口頭試験のような場合は別の方法があります。面接官は欠点探しに臨んでいて手強いですからね。その時は「バカにされても気にしません。格下の自分が間違っても教えてくれますよね」と愛情をつくるのです。「これからお世話になります」ぐらいの気持ちでね。大学の口頭試験の場合は「もうさんざん叱ってもらいましたよね」と、親を見るような感じで、愛情を持って、何か言われても気にしないという態度でいれば教官の前でも自由にしゃべれます。あるいは、子供が親にいいところを見せるような感じでしゃべるとかね。ただ、それが有効なのは面接や口頭試験といった特別な環境だけです。
人前でスピーチする時は、聴衆と自分は仲間だと考えるのです。仲間でワイワイと意見交換する場だと思えばあがらないでしょう。一般の社会では、「良いところを見せよう」と思ったら必ず嫌われますし、やはりあがってしまいます。
そうやって時と場合をわきまえる事も必要です。万人に効くあがらない方法というのは無いのです。慈悲の心を育てるとか、智慧を開発するとか、集中力を育てるとかある事はあるのですが、これは精神修行になってしまって、一般人には興味の無い話かもしれませんので。
■出典 『それならブッダにきいてみよう:人間関係編』