熊野宏昭(早稲田大学人間科学学術院教授)
『EQ2.0』&『実践!マインドフルネス』シリーズ 刊行記念
第1回 EQとマインドフルネス:感情的知性を高める4つのスキルと体験の力
「自分をもっと理解したい」「人間関係を円滑にしたい」──そんな悩みを抱えていませんか? マインドフルネス瞑想は、その悩みに答える強力なツールです。呼吸や身体感覚に注意を向けることで、自分の感情や思考を客観的に観察する力が養われます。さらに、周囲の状況や他者の感情にも気づけるようになり、対人関係を調整する力(EQ)も自然と高まります。
この記事では、マインドフルネスを使ってEQ(感情的知性)をどのように高めるのか、具体的な実践方法とともに解説します。
マインドフルネス研究の第一人者として活躍するとともに、ご自身も毎朝40分の瞑想を続けている早稲田大学人間科学学術院教授の熊野宏昭先生が、日常生活に取り入れやすいヒントをお伝えします。全7回記事の第1回です。
■EQの4つのスキルを確認しよう
皆さん、EQ(感情的知性)とは何かご存知ですか? 『EQ2.0:「感情的知性」を高める66のテクニック』(サンガ新社) では、EQを高めるための具体的な方法が紹介されています。その内容を4つのポイントにまとめたのがこちらです。これを見るとEQとマインドフルネスが非常に似ていることがお分かりになるでしょう。
マインドフルネスも、まずは自己認識から始まります。井上ウィマラ先生がおっしゃっていますが、「マインドフルネスは自分に対する気づきだけではなく、他者に対する気づきや、他者との関係に対する気づきを昔からずっと重視してきた」のです。
マインドフルネスは自分の身体感覚や感情の動きに注意を向け、それを客観的に観察します。この点でも、EQが感情を理解し、管理するプロセスと通じるものがあります。
つまり、EQとマインドフルネスは、別々の国で育った兄弟のようなものなのです。
上から4つ目のポイントとして、EQは「リーダーシップと個人の成功の原動力になっている」とあります。現代社会は非常に不安定で、過去のように会社や他人の言うことにただ従っていれば安泰だった時代は終わりました。今や、他人の意見は必ずしも当てにならず、会社自体が存続するかどうかも不確かです。そのような状況では、個人が自らをしっかりと確立し、自立することが不可欠です。
だからこそ、「個人の成功」──つまり、一人ひとりが自分自身の力で成功を収め、うまく生きていく能力が、これまで以上に重要です。EQを高めることは、そのための強力なツールとなります。感情を理解し、コントロールする力を身につけることで、変化の激しい時代でも自分らしく生き抜く力を養うことができるでしょう。
成功のもう一つの原動力として挙げられている「リーダーシップ」。この言葉は、「上に立って会社や集団を引っ張っていく」という意味で使われがちですが、個人の成功が重要である現代においては、自分自身に対してリーダーシップを発揮することが不可欠です。
だからこそ、一人ひとりがEQを伸ばしていくことが非常に重要です。言い換えると、マインドフルネスをしっかりと身につけ、自分自身に対してきちんと気づき、周囲に対しても気づく力を養うこと。そして、その力を実際に発揮していくこと──この3点が、これからの時代を生き抜くための鍵となるでしょう。
★ここもcheck!
上から3つ目の「4つのスキル」について、特に「社会的認識(social recognition)」について注目してみましょう。英語では2人以上が集まると「social」と表現されるため、社会的認識とは「人間関係の認識」と捉えると、日本語として分かりやすくなります。つまりEQとは、①自己を理解する、②他者との関係を理解する、③自己を管理する、④他者との関係を管理する、この4つのスキルに分類されるということです。
■体験していることに気づく力
さて、「自己を理解する」とはどういうことでしょうか? それは、自分が今どんな体験をしているかに気づくことです。
皆さん、こちらの〔今現在の体験を測る5つの質問項目〕に答えてみてください。簡単な5つの質問ですが、これに答えることで、自分の今の状態がよく分かります。ぜひ挑戦してみてください。
★ここもcheck!
最近、これに関して論文を発表しましたので、よろしければご覧になってください。論文はこちらから閲覧可能です(英語)。
https://www.researchgate.net/publication/388356762_Development_of_a_Multi-Dimensional_Single-Item_Index_for_Assessing_Present_Experiences
Development of a Multi-Dimensional Single-Item Index for Assessing Present Experiences
January 2025
DOI: 10.13140/RG.2.2.20914.31682
License: CC BY 4.0
Hiroaki Kumano, Ayaka Yanagida, Mao Nanamori, Nozomi Tomita
■ChatGPTには体験がない
いかがでしたでしょうか? 少し話がそれますが、先日、ChatGPTと会話をしてみました。ChatGPTは本物の人間のように会話ができますよね。私は「君はどんな人なの?」と聞いてみたんです。すると、「私は自分というものを持っていません。体験はしないんです」という答えが返ってきました。「体験しない、自分というものがないというのはどういうことなの?」とさらに尋ねると、「自己保存本能はありません。傷つけられたくないとか、ずっとこのままでいたいというような気持ちもないんです」と説明してくれました。
その後、「君は今どれくらい疲れていますか?」と聞いてみると、「私には体験はないので、疲れるということはありません」という答えでした。
ChatGPTは本物の人間のような会話ができるけれども、体験はできません。だからこの5つの質問にも答えられない──それが今のAIなのです。EQも持てないはずですよね。
そんなところからも、人間の人間らしさが少し分かっていただけるのではないでしょうか。
2025年2月5日 zoomにて開催
『EQ2.0』刊行記念オンラインセミナー「マインドフルネス&EQで磨く新しいリーダーシップ」第2回「マインドフルネスとEQで心の平穏と共感を育てる」を元に再構成
構成:中田亜希
第2回 マインドフルネスの本質:「今ここ」に気づき、現実を受け止める力
お知らせ
\ 話題の3冊、サンガ新社より続々刊行! /
熊野宏昭先生(早稲田大学人間科学学術院教授)推薦書・著書
EQとマインドフルネスの実践書が勢ぞろい!いま注目の“心のスキル”が身につく、実践的な3冊をご紹介します!
成果を上げる人の90%がEQ(感情的知性)に優れている!
世界で最も使われているEQオンラインテストで自分のEQを測り、
66の実践テクニックから「自分に最適な戦略」が見つかる!
[袋とじパスコード付き]最新EQテスト利用可能
全世界250万部突破、25か国語翻訳!
2025年1月9日発売/定価2,200円(税込)
2万部超のベストセラー、待望の新版!
マインドフルネスの基礎を、心理療法と脳科学の観点からわかりやすく解説。
注意トレーニング音源付きで、実践しながら「今ここ」の感覚を育てられます。
注意の持続・転換・分割を鍛える「注意トレーニング音源」付
ACT(アクセプト&コミットメント・セラピー)の理論を凝縮
熊野先生の実践ガイドで「心の使い方」が変わる!
2025年3月4日発売/定価1,540円(税込)
熊野宏昭先生による110分の特別ライブ講義をまるごと収録!
理論と実践が一体化した新しい学びのかたち。
動画視聴とブックレットで、体験的にマインドフルネスを深めましょう。
「あしたが変わるトリセツショー」(NHK)出演の熊野先生によるナビゲート
ストレスに負けない戦略が自然と身につく
購入者限定の特設ページで講義動画を視聴可能!
2025年3月4日発売/定価1,540円(税込)
忙しい日常にこそ、EQとマインドフルネスの力を。
ご自身の実践に、そして大切な方への贈り物にもおすすめです。